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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第三章「カレーのことは置いといて!血沸き肉躍る体育祭です!」
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この変態外道がッ!早くその手を離せッ!

「剣の道に通ずる、と言って引き受けてしまったが……」

 騎馬の先頭を務める御影が言う。

 騎馬の組み方は結局、前が御影で後ろが俺と霧ヶ峰、さらにその後ろを姫ヶ崎が支えるということで決まった。

 最初の騎手は、紗那が務めることになった。甲賀沼は、姫ヶ崎と途中で交代する。

 そして、鷹司が参加してくれれば御影と騎馬を交代する――。

 今のところ、来てくれる可能性はほぼ0パーセントだが。

「本当にこれでよかったのだろうか……」

 俺と手をつなぐだけで、相当顔が赤くなっている。

 剣道と騎馬戦の決定的な相違点は、身体の接触があるということ。

 男子に触れた経験のほとんどない御影は、自分がそれをするとどんなことになるかに思い至らなかったのだろう。

 平気だと思っていたのかもしれない――でも実際は、そうはいかなかったというわけか。

 これで勘違いするほど、俺は自意識過剰ではない。

「ええ、良かったのですよ」

 紗那が言う。

「早速練習を始めましょう」


 まずは、騎馬を組んで歩いてみる練習からだ。これだけでも、相当難しい。

 腹の立つことに、御影の方が俺よりも背が高いので、紗那の身体が後ろに落ちてしまう危険性がある。

 だが、それを云々するのはもっと後の話。

 今は騎馬の三人で、足も揃わない状況だ。あと一か月もなくてこの状態では、非常にまずい。

 勝つとか負けるとかではなく、紗那が帽子を取られる前に自滅する可能性が非常に高い。

「わたくしが声を出しますから、皆様はそれに合わせて足を出してください。せーの、一、二、一、二」

 紗那の声に合わせて、三人が同時に脚を出す。

 しかし当然合わない。

「少し待たれよ!」 

 御影が足を止めて、上に載っている紗那に言った。

「どちらの足から先に出せばよいのか、申してくれぬと揃えようにも揃えられぬ」

「あ、そうでした……」

 騎馬がさっそく崩れかかっている。俺たちは、一旦その場で体勢を立て直した。

「では、気を取り直してもう一度行きましょう……右から、一、二」

「あ、待って私左から出しちゃった……」

 霧ヶ峰が慌ててストップをかける。それほど進んでいなかったので、大事には至らなかった。

「頼むぞ、霧ヶ峰殿」

 御影に言われて、ごめん、と手を合わせる霧ヶ峰。

 いつも俺に怒鳴ってばかりのこいつが、こんな態度を取る場面は珍しい。少なくとも、俺の経験の中では。


「では」

 騎手の紗那が音頭を取る。

「もう一度、右から、一、二、一、二……」

「ちょ、ちょっと早いよ紗那ちゃん……!」

 姫ヶ崎が附いて行けず、俺の肩を後ろに引っ張る――。

 俺は、御影を巻き込む形で後ろに倒れた。

 柔らかいものに、俺の頭が衝突する。

「ん――?」

 後ろを見ると、そこには「2A姫ヶ崎」と書かれた文字が。

 この学校の運動用ジャージだ。

 ということは――。

「――ッ‼」

 姫ヶ崎が文字で形容しようのない悲鳴を上げる。

 俺の頭が当たったのは、姫ヶ崎の胸だったのか。

 ずっと大きいとは思っていたが、見た目よりさらに大きい――とか言っている場合ではない。

「す! すまない! 姫ヶ崎!」

 俺は慌てて体勢を立て直そうと、姫ヶ崎から離れる。しかし、今度は何やら手に布の感触が――。

「――ッ‼ 貴様ッ! 一度ならず二度までもッ‼」

 俺の手が御影の胸に当たってしまった――でも妙に固いな。

 布の感触が、である。

 ひょっとしてこいつさらしでも巻いて――そんなこと考えてる場合じゃなくて――。

「この変態外道がッ! 早くその手を離せッ!」

 御影に蹴られて、俺は後ろに倒れこむ。

 姫ヶ崎が咄嗟(とっさ)に避けてくれたので、また姫ヶ崎のあの柔らかい感触と御影の足の感触を確かめる羽目には(おちい)らずに済んだ。

 しかしその代わりに、霧ヶ峰を巻き込んでしまったらしい――。

「あっんっったねえっっっ‼」

 俺が肩を引っ張ったので下着の紐がずれてしまったようだ。

 この反応からはそうとしか思えなかった。

 顔の赤くなりようが尋常ではない――。

 と思う間もなく、俺は霧ヶ峰に脚を掴まれる。


「ちょ、ちょっと待て落ち着け――」

「荒ぶってんのはあんた一人でしょうがっ‼」

 そう叫んで、霧ヶ峰は俺の身体を投げ飛ばす。

 こいつのどこにそんな力が――いや、あるか。

 着地地点は、騎馬に異変を感じて慌てて飛び降り事なきを得た紗那のもとだった。こいつ、一人で助かりやがって。

「兄様……」

 しかし紗那は涙ぐんで俺に言う。

「わたくしは婚約者候補をこの五人からお選びいただくために、この寮にお呼びしたのです。決して、このような奔放(ほんぽう)な性生活を推奨(すいしょう)するためではなく……」

「んなこと分かってるよ‼ これは事故だ‼ 事故‼」

「事後という言葉に反応して、地獄の底から地獄耳」

 甲賀沼が俺のもとに駆け寄ってきて、助け起こすでもなく言う。

 こいつ――俺をいたぶるのがそんなに楽しいのか。そうなのか。

「兄様……信じておりましたのに……」

 紗那は本気で悲しそうな顔をする。違う、俺にも説明する機会を与えてくれ。

「杉内……」

 そして俺の後ろには、霧ヶ峰の影が――。

「あんたがあれほど言うからせっかく皆が一緒にやってあげようって言うのにそういうことを……‼」

「いや、だからこれは……‼」

 弁解する間もなく、俺は頬を三発張られる。

「聖花の分、御影さんの分、それにあたしの分」

「お前はもうやっただろうがっ!」

 あの投げ飛ばしは何だったんだ――!


 結局その日一日、俺は練習に参加させてもらえなくなった。

 にしても変態外道ってなんだよ――。

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