少しは私の立場ってもんも考えなさいよあんたたち……
そして、紗那はわざわざ生徒会室まで行って、霧ヶ峰に「騎馬戦に出る」と言う言質を取りに行った。
当然、俺もそれに付き合わされた。
「まあ……」
霧ヶ峰は頬を搔きながら、小声で答える。
「こっちの騎馬も、多分人余るだろうし……」
紗那は「はい、はい」としきりに頷く。
周囲から浴びせられる好奇と不審の視線を無視して――。
「あのねえ……」
霧ヶ峰は、呆れかえった、と言うように肩を竦める。
「あんた……騎馬戦メンバーに私を引き入れたいんだったら、ここが敵の本丸だってことをもっと自覚しなさいよ……」
「あ、そうですね」
そうでした、と言って頭を掻く紗那。
「私は負けませんよ!」
「霧ヶ峰はそういうことを言ってるわけじゃないと思うぞ……」
自分のところの戦力が、相手に渡るかどうかの瀬戸際だ。
俺が辺りを見回すと、「生徒会長」と書かれた名札の置いてある机の前に座っている女子――生徒会長の勾玉橋麗雅が冷たい微笑みを浮かべてこちらを見ている。
かなり状況としてはまずい。
紗那にはそれが分からないのか――。
分かっていない可能性も十分に考えられる。
「会長! 霧ヶ峰様をお借りしてもよろしいですか!」
紗那は勾玉橋に面と向かってそんなことを言いだす始末。
「ええ、いいですよ。貸出ノートに名前を書いていって下さればね」
勿論、借りは返してもらいますよ――。
勾玉橋はそう言って目を細める。
「少しは私の立場ってもんも考えなさいよあんたたち……」
霧ヶ峰が涙声になっているところを見ると、相当危険な状況なんだなこれは――。
こいつには悪いことをしたと思う。
それにしても、この馬鹿妹――。
「さて、残るは姫ヶ崎様と鷹司様ですね」
姫ヶ崎とは、俺と紗那とが生徒会室を出たところで出会った。
「これはいいところに!」
「えっ⁉」
突然手を取ってそんなことを言われたら、姫ヶ崎でなくても絶対こんな反応になるはずだ。
でも姫ヶ崎だから、その反応にも何とも言えない可愛らしさが――。
「姫ヶ崎様! 兄様と一緒に騎馬戦に出られませんか⁉」
突然そう言われて、一瞬の躊躇を見せた姫ヶ崎だったが、「……いいよ」と言う。
「やったあ! 本当ですか!?」
「うん……だって私――」
それくらいしかできないしね――。
紗那もこの言葉を聞いて、姫ヶ崎の両手を握る強さを弱める。
カレーのことまだ気にしてるんだな――。
そんなことはない、と俺は言いたかった。
でも、姫ヶ崎はそれを気休めと受け取るだろう。
今の姫ヶ崎は、そんなものは一番必要としていない。
「じゃ、じゃあ、そういうことで」
紗那も姫ヶ崎に何と声を掛けたらいいものか思いつかなかったらしく、ごまかすようにそう言って彼女のもとを立ち去って行った。
俺の手を引きながら――。
紗那は紗那なりに悪いと思っているのは分かる。
でも、逃げることはないだろうに。
姫ヶ崎がまだ立ち直っていないことも問題なのだが――。
それよりももっと問題なのは、鷹司だ。
俺と紗那の二人で説得しようとしているのだが、タッチの差で逃げられてしまう。
俺たちに気がついているのは明らかだ。
「鷹司様が、どこにいらっしゃるのか分かりません」
多分図書館にいる、という俺のアドバイスを基にそこまで俺の腕を引っ張りながら急行した紗那がため息をつく。
「普段はここにいるはずなんだけどな……」
多分、俺たちの気配を察知して逃げたのだろう。
あいつ、何かそういう能力があってもおかしくないような奴だし――。
それに、体育祭自体かなり嫌がっていた。
「多分、あいつは無理だな……この六人で出したらどうだ?」
俺はそう言ったが、それを聞く紗那ではない。
「いいえ。これは、五人全員が参加しなければ意味がないのです。鷹司様一人欠けたら、当初の目的が果たせなくなってしまいます」
それに、と紗那は言う。
「これで本当に参加していただけなかったということになったら――わたくしの目が濁っていたということにほかなりません。鬼門院の家にふさわしい女性――いや、兄様の結婚相手を選ぶ、私の眼が」
鷹司様――もっと賢明な女性だと思っていたのですが、という紗那。
その口調は俺の背筋を凍らせるに十分だった。




