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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第三章「カレーのことは置いといて!血沸き肉躍る体育祭です!」
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剣を取れば女も男もみな同じ

 紗那の中では、俺が騎手と言うのは決まったことらしい。

 こいつも、一度言い出したら聞かない奴だ。

 そうなると、また組み方の問題が持ち上がってくる。

神輿(みこし)を担ぐように、兄様に上に寝てもらって、それを六人で担ぎ上げるというのはどうでしょうか?」

 それはかなり見た目に問題があると思うんだが――。

「それか、騎馬を二つ作って、兄様の頭と脚をそれぞれ支える形にするか」

「他の騎馬にぶつかられたら一瞬でアウトだぞそれ……」

 腹ががら空きだ。

 落ちたら骨折程度で済むとは思えない。

「確かに……兄様を危険にさらすのは本末転倒です」

 いっそのこと、と言って、紗那は人差し指を立てる。

山車(だし)でも組んで、兄様にはそこに乗ってもらうことにいたしましょう。わたくしたち、六人で持ち上げますから」

「うん。一度競技名を思い出してみるといいな」

「山車は駄目ですか……」

「駄目に決まってるだろ」

 苦肉の策、と言うことは伝わってきたが。

 紗那は、アイデアを絞り出すように額を拳で叩く。

「わたくしが兄様のお顔。あとは適当に手足。そして、運のいい方には兄様の胴体を支えていただくことにいたしましょう」

「お前は俺を八つ裂きにする気か?」

 しかも適当ってなんだ――。

「ああ、ご心配には及びません。この場合の『適当』と言うのは『適切』と言う意味ですから」

 このわたくしが兄様をそんなに粗略(そりゃく)に扱うはずがないでしょう――という紗那。

 いや――こいつのことだからそうも思えない。

 こいつが俺のことを本気で思っているのか、それともただ単におもちゃにしているだけなのか――。永遠の謎だ。

「それに、八つ裂きではなく六つ裂きかと」

「俺はそんなことを言ってるんじゃねえんだよ」


「とにかく!」

 紗那は、突然大きな声を出した。

「出るか出ないか、それを決めるのが先です!」

 こいつ、最終的に解決策が思いつかなくなって逃げやがったな――。

 でも、確かに正論ではある。

 俺と紗那の他に、出る人が二人しかいなければ、騎馬は四人で組むことになるから、今必死に方策を考えたところで無駄になる。それ以下で、チームが成立しなかったときも同様。

 あれ――。

 俺はこの騎馬戦に出るのが前提なのか?

 もっと強硬に抵抗すべきだったような気がするが――。

 しかし、今更そう思ってももう遅い。

「兄様‼ 早く五人を説得しましょう‼」

 俺の手を強くひきながら、部屋から引きずり出す紗那。

 この行動力を、人助けか何かに使ったらいいのに――俺は、心底そう思った。


 卓球場の向かいにある剣道場まで、御影を説得に行った。

「ああ、いいぞ」

 練習中にも関わらず紗那と交渉をする時間を割いてくれた御影は、そう即答する。

「えっ、いいのですか」

 紗那にとっても、これは予想外の反応だったらしい。

 何せ、男子と一緒に騎馬戦だ。普通は嫌がられても仕方がない――。

「剣を取れば女も男もみな同じ」

 私はずっとそう思ってやってきた――と御影は言う。

「騎馬戦においても、それは同じだろう」

 決定的に何か違うような気がするが。

「騎馬戦であれ何であれ、すべての道は剣に通じる」

「なるほど! だから同じなのですね!」

 紗那には分かったのか、御影の理屈が――?

「勿論無用な身体の接触は法度だがな」

 御影は、俺にそう釘を刺すことも忘れない。

「踏み込んできたら容赦なく斬るぞ。それも剣道と同じだ」

「あ、あの……騎馬戦に剣を持ち込まれては……」

 反則もいいところだ。

「そういえば、騎馬戦というものは騎馬武者同士の戦いに由来するらしいな」

 それならば、私も武者を標榜(ひょうぼう)する者の一人としてますます出ずにはおれまい、と御影は言う。

 俺もそんなことは初耳だったが、それで出てくれる気になったのだったら、交渉する側のこちらとしても楽だ。

 武者を標榜しているというのも初耳だったけれど――。


「次は、甲賀沼様を説得に向かいましょう」

 紗那はそう言って、甲賀沼の部屋へと向かう。甲賀沼の部屋は、鷹司の部屋のすぐ下。霧ヶ峰の部屋の隣である。霧ヶ峰は、今日は生徒会の仕事か何かで部屋にはいなかったはずだ。

「甲賀沼様!」

 紗那が思い切りドアを開くと、甲賀沼がヌッと顔を突き出してきた。

「あら、ごきげんよう」

「甲賀沼様! 騎馬戦に一緒に出ませんか?」

 甲賀沼は少し考え込む。

「兄様も出ますよ」

 お前はそうマイナス要因になるようなことを――。

「へえ」

 しかし甲賀沼はそれには拒絶反応を示さなかった。

「杉内君って、とっても馬並みなのね。さすが私の見込んだ男だけのことはあるわ」

 そう言って、俺が突っ込みを入れる前にドアを閉じてしまった。

「あいつ――また訳の分からん事を……」

 馬つながりだからって何もあんなこと言うことないだろ――。

 傍らの紗那を見ると、「私もそれは知りませんでした――」といつものメモ用紙を取り出して、書き込みをしている。そんなこと書き込むな。

「でも、甲賀沼様が騎馬戦に出られるかどうかは、結局分かりませんでしたね」

「そうだな――」

 言いたいことだけ言って、戸を閉めたわけだ。

 でも――甲賀沼は騎馬戦に出るという話が決まってから、それを突然ひっくり返すような奴でもないだろうし。

 すべては紗那の胸算用――というわけか。

「さて、次は霧ヶ峰様を説得に行きましょう」


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