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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第三章「カレーのことは置いといて!血沸き肉躍る体育祭です!」
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ったく、お前は姫ヶ崎を応援したいのか邪魔したいのかどっちなんだよ……

 もしかしたら、姫ヶ崎はあのまま毎日料理の練習を続けていくつもりだったのかもしれない。

 それも――ずっと独りで。

 しかし、彼女がそれをすることは結局できなかった。

 というのも――。

「体育祭です‼」

 紗那のせいである。

 このところ、寮の引っ越しに料理対決にと立て込んでいて、すっかり忘れていたが、蕭条学園の体育祭は毎年六月の初めに行われる。どうしてそんなに暑い時期を選んでやるのか、俺にはさっぱり分からないが――。

 つまり体育祭まではあと一か月そこそこということだ。

 紗那は、姫ヶ崎も体育祭の練習に引っ張り込むつもりらしい。

「ったく、お前は姫ヶ崎を応援したいのか邪魔したいのかどっちなんだよ……」

 姫ヶ崎の料理を上達させたいって言ったのはお前だろ――俺が言うと、紗那は「それとこれとは話が違います‼」と返す。

「血沸き! 肉躍る! 肉体の祭典!」

 でも――。

 もしかしたら、姫ヶ崎にとっても気分転換になるかもしれない。

 そういう意味では、いいイベントではある。

「そういう言い方をするとまるで官能的な祭りのようだね」

 ついさっき部屋から出て来たらしい鷹司が髪を触りながら言う。またそういう、霧ヶ峰が聞いたら顔を真っ赤にして「な、何言ってんのよあんたは⁉」と怒り出しかねないようなことを。

「紗那君はどうしてそこまで体育祭などと言う俗世のイベントを心から楽しめるのか、私にも理解できないよ」

 私に理解できないということは、すなわち私が理解を拒否しているということだがね……と鷹司は続ける。

 自分に理解しようと思って理解できないことなどないと言いたいらしい。

 そんな鷹司に、紗那は残念そうに「そうですか……」と言う。

「言っておくがこの『だがね』というのは『だが』+『ね』であって私がいきなり名古屋弁を使ったわけではないよ。尤も、私がその気になれば三時間もあれば習得できてしまうが、殊更その必要性は感じないものでね」

「奇遇だな、俺も感じない」

 大体名古屋出身者以外がしゃべったら似非名古屋弁だろ――。


 でも――確かに彼女が疑問に思うのも分かる。

 なぜ紗那が、ここまで体育祭に熱を上げているのか。

 それは紗那が運動が得意だから、というのも一つの要因ではある。こいつ、こう見えても女子バレー部に入ったって言うし。バレー部の中では、そこそこ普通にやっているようだ。

 でも紗那は、もともとこういうことが好きなんだと思う。

 明るい道だけを歩いて来た人間の特権――いや、何で体育祭ごときでこんな人生論みたいな話が出てくるんだ。俺の今までの人生はもっと深刻だったぞ――。

「精々私は紗那君の無双する姿に期待して、参加を見送らせてもらうよ」

 鷹司はそう言って立ち去ろうとするが、紗那にその白い腕を掴まれた。

「体育祭は全員参加のはずです! 鷹司様もやるんですよ!」

「私はこういう行事は嫌いなんだよ。嫌い――というよりは、関心がないんだよ。わざわざこの炎天下の中、外に少年少女たちを強制的に駆り出して、その場限りの勝負をさせることの意義は、私には感じられないね」

 確かに、身も蓋もない言い方をすれば、体育祭なんてそう言う行事だ。

「勿論、紗那君がそれで楽しいのであれば、私は止めることはしない。人の嗜好なんてそれぞれだからね。どっちかに合わせようとすることが愚かだ。私は遠くから眺めさせてもらうよ。勝手にやってくれたまえ」

 鷹司は饒舌に語り、言うだけ言って紗那のもとを立ち去って行った。

「あ――鷹司様」

「言っておくが、私は軟弱系男子の君のお兄さんのように、運動能力が低いからそれを正当化するためにこんなことを言っているわけではないからね」

 軟弱系男子ってなんだ。最近の潮流か? 

 草食系男子みたいに言いやがって。

しかも何で俺が目の前にいるのに俺に直接言わないんだよ――。

 それに俺は、自分ではそんなに運動が苦手だと思ったことはない。

 紗那に比べたら、得意だとは口が裂けても言えないが。だって――こいつはある限られた条件下でだけ特異的な運動能力を発揮する奴だ。

「――確かに、それは存じ上げておりますが」

 紗那は、鷹司の背中を見送りながら言う。

「是非とも、騎馬戦のチーム戦に弘学寮全員で参加するつもりだったのですが……振られてしまいました」

 兄様ぁ! と涙目になって俺に振り向く紗那。

「そりゃ残念だったな……」 

 今の会話をすべて横で聞いていた身としては、それしかかける言葉がない。

 ……ん? 

「今、お前なんて言った……」

「え……? 兄様と」

「いや、その前だ」

「騎馬戦のチーム戦に、弘学寮の皆で参加することですか?」

 こいつは、俺の想像を超えたとんでもないことを考えていた。

「勿論、兄様にも参加していただきますよ!」

 紗那は純真な目をして微笑んだが、それだけにかえって俺には邪悪にしか見えなかった。

 確かに運動はそんなに苦手ではないが――。

 でも、それとこれとは別問題だ。


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