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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第二章「華麗なるカレー対決です‼ってわたくしも参加するのですか⁉」
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材料は他の人のカレーと、そんなに化学的組成は違わないはずよ

「では続いて御影様のお料理を……」

 長髪を(まと)めて、割烹(かっぽう)着姿の御影。あまり自分の作った料理に自信がないのか、身を縮めてこちらをうかがっている。

 何だか明治初期の女学生が作ったカレーライスを出されるような気分だ。

「……どうだろう。私の料理は」

 いつもと違って、ささやくような声でそう問う。

 最初に感想を述べたのは、道明寺だった。暗黙のうちに、こういう順番になったらしい。

「大胆なカッティングにして精緻(せいち)な味わい……まさしく一太刀浴びたような辛味……なかなかのものです」

「本当にな。御影って江戸時代の料理しか作れないイメージあったけど、これは美味いよ」

「そ、そうか……」

 御影は頬を染めて言う。

「杉内殿はどう思うのだ? 私の、手料理」

「うん、美味いよ」

「そうか……それは良かった」

 俺の感想を聞いて、御影は顔を(ほころ)ばせる。

 でも、俺はそれどころではない。俺はさっきからずっと気が気でないのだ。

 御影には悪いが、まだ本番はこれからなのだから。

 結局、御影のカレーには、道明寺が八点。黒瀬も八点。俺が七点を入れた。

 御影が、はにかみながら微笑んでいる。でも、俺はそんな表情を穏やかな心持ちで見ていられる状態ではとてもなかった。


「さて、次は甲賀沼様なのですが……」

 普段の凛々しい態度に似合わず、意外にも可愛くガッツポーズをした御影が自分の机に戻るのを見送った紗那は、甲賀沼の鍋に視線を移す。

「オーソドックスなカレーライスと言ったはずですよ」

「私の中では、これがスタンダードだから」

 甲賀沼はそう強弁する。

紗那は、仕方ないと言わんばかりのため息をつきながら台車に乗せて赤紫のカレーを俺たちの前に置いた。

「何か、規定外のものを入れたのではないですよね?」

 甲賀沼に、心配そうに問いかける紗那。こちらまで、何やら不安になってくる。

「ええ。材料は他の人のカレーと、そんなに化学的組成は違わないはずよ」

 甲賀沼も甲賀沼でこちらを不安にさせたいのかといぶからずにはいられないような言葉を吐く。

 紗那は「そうですか、それなら良かった……」と俺から言わせれば的を外したことを呟きながら俺たちの机にカレーを配膳した。

 俺が躊躇している間にも、道明寺と黒瀬はスプーンを皿の中に突き立て、一口食べる。

 彼女の料理が意外に美味かったようだ、と言うことは、二人の反応を見ていても分かった。


「さあ、道明寺様、コメントをお願いします」

 紗那が、道明寺にマイクを向ける。

「まるで甲賀沼先生を皿の上で具現化したような、不思議な味わい……でもその中で、しっかりと基本を押さえていることがもたらす不思議な安心感……これは、なかなかのものです」

「意外と美味いよ、これ。甲賀沼がこんな料理うまいなんて、意外だな」

 二人とも、甲賀沼のカレーをかなり高く評価しているようだった。

 当の甲賀沼の方は、それでもいつもの無表情を崩さないで答える。

「そう。私はこれでも料理とゴミをゴミ箱に入れる時首尾よく投げ入れると見せかけて微妙にそらすのは得意なのよ」

「そんなもんできても仕方ないだろ……」

 でも、料理は上手なようだ。

 少なくとも、紗那よりはずっと。

 俺も甲賀沼の赤紫カレーに口を付けたが、これが意外に美味い。本当に意外だったが。


「それで、さっきから気になってるんだが……」

 俺は、インド人風の格好をした甲賀沼に訊く。

「あの謎の調味料みたいなのは何だったんだ? 隠し味か何かか」

 甲賀沼がビーカーから何か青い結晶を取り出して、鍋に放り込んでいたことを俺は見逃していなかった。

「甲賀沼先生の隠し味、私も知りたいものですなあ」

 道明寺も、前のめりになって問う。

「企業秘密です」

 ――思い出さなかった方がよかったかもしれない。

 とにかく、道明寺が九点。黒瀬が七点。俺が五点を入れて、甲賀沼の審査は終わった。

「さて、今のところ霧ヶ峰様がトップで、御影様、甲賀沼様と続いております」

 紗那は完全に司会が板についている。本来招かれざる客である野次馬たちも歓声を上げた。

 数人、紗那の固定ファンがいることが妙に気になるが――。

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