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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
② 第二章「華麗なるカレー対決です‼ってわたくしも参加するのですか⁉」
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今思い出してもなかなかいい事言ってますね、わたくしったら

 いよいよ、料理対決の前日――。

 とうとうこの日が来てしまった。俺は、少し憂鬱になる。

 何せ、料理が出来るかどうかも分からない五人の手料理を審査しなければならないのだ。それに、点数をつけなくてはならないという。

「姫ヶ崎様だからと言って、点数を甘くつけることなどくれぐれもないようにお願いしますよ」

 紗那からは、そう強く念押しされている。

「姫ヶ崎様に自信をつけさせるとはいえ、逆効果にもなりかねませんから」

「そうだな……」

 確かに、わざと高い点数をつけたら、さすがに姫ヶ崎にも分かってしまうだろう。

 それは自信をつけさせることとは対極になってしまう。

「毎日、練習を続けているのは見ているのですが……」

 紗那も、姫ヶ崎の腕を知っているだけあって、不安そうに口にする。

 全く進展が見られない――ということだろう。

「努力家なんだけどな……」

 それは、霧ヶ峰の言葉を思い出すまでもなく、姫ヶ崎と同じ寮で暮らしていたら分かることだ。

 昨日も練習に励んでいた。そして、一昨日も。

「どうすればいいんだろうな……」

「あ、そういえば」

 紗那は何か思いついたように、手をポンと合わせる。

「わたくし、以前とんでもない名言を残したことをすっかり忘れておりました」

「自分で名言とか言うのか……」

「『料理は他人に食べられて初めて完成する』――うん、今思い出してもなかなかいい事言ってますね、わたくしったら」

「そういえば、そんなこと言ってたな」

 俺が言うと、紗那は「今までお忘れになっていたなんて! ひどい!」と泣いて訴える。

 でも俺も、そんなことをいちいち覚えていられるほど記憶力も良くないし暇でもない。

「なるほど――じゃあ、つまりそうすれば……」

 紗那は独り言のように呟く。何か、名案――俺にとっては厄介極まりない策を考えついたようだ。

「いえ、でも危険を伴うかもしれない――ですが仕方ないでしょう」

 すごく不穏なワードが耳に飛び込んで来たような気がしたが。

 と言うか――。

「何でお前は俺の部屋に黙って入って来てるんだよ⁉」

「これは! 兄様を起こそうとしたのです!」

 実際は、俺が床で寝ていた紗那を起こす羽目になったのだが。

「兄様を遅刻させるわけにはいかないと、五時に起きて兄様の部屋に入り、いい時間になったら優しく起こして差し上げようと考えていたのです!」

 弘学寮から教室棟までは遠いので、七時半に起きなければ一時限目の授業には間に合わない。

「でも寝てたよなお前は!」

「気づかない間に眠り込んでしまったのです!」

 これでもかなり叩き起こすのには苦労したのだ。

「全く、俺は一人で起きられるってのに……」

 寮を再建する暁には、各部屋に鍵を取り付けて欲しいところだ。俺は、強くそう思った。


 その日の午後四時過ぎ。

 七限までの授業を終えて、俺たち五人は昇降口の前に集合する。

 ここから寮まで戻って、それから駅前に行くとかなり遠回りになるのだ。

「六時からはタイムセールがあるから、それまでに買い物を済ませちゃいましょう」

 霧ヶ峰は意気込んで言うが、すぐに周りを見回して、

「あ……そうか、あんたたちはそういうこと気にしなくてもいいのよね……」

と言い、ついでに俺に向かって、

「鬼門院の家とは不釣り合いな貧乏女子高生で悪かったわね!」

と言った。

 霧ヶ峰は、奨学金を利用してこの学校に通っている。

 もともと国立の高校が第一志望で、滑り止めに蕭条学園を受けたのだが、国立の方には落ちてしまい、ここに来ることになったという。

 俺にしてみれば、ここを第二志望にするなんて考えられないことだ。

 蕭条学園はかなり難関とされている。俺なんて、中学の教師たちからは「蕭条は止めておいた方がいい」と言われたにも関わらず、妙子さんや他の鬼門院の人間に尻を叩かれて、やっと入ったようなものだ。

 意外と頭いいんだな、こいつ――。

 勉強が出来ることと頭がいいことは違うにしてもだ。

 俺にはとても、霧ヶ峰がそこまで優秀には見えないが。ただ、腐っても生徒会の副会長にまでなった奴だ。その辺は良く分からない。

 それにしても。

 やっぱりあのことは根に持ってるんだな――。

 忘れろと言われて忘れられることではないだろうということは俺にも分かる。

 でもわざわざ俺に向かって言うことはないと思う。

「いえ、そんなことありません。霧ヶ峰様が鬼門院の家に不釣り合いなんてこと……」

 紗那が慌ててフォローを入れている。

「……年頃の女性としての魅力には少し欠けるようですが……」

 フォローではなかった――。

「あっんったっはっ‼」

 霧ヶ峰が紗那の首を絞めにかかる。こういう遠慮のないところは本当におばさんだと思う。

「傷口に塩を塗り込むようなことをっ‼ 私のどこが魅力がないのか言ってみなさいっ⁉」

「いえ、いえ、そんなことは……」

 でも確かに、俺から見ても霧ヶ峰が同い年だとはとても思えない。

「霧ヶ峰殿、早くしないとそのタイムセールとやらが終わってしまうのではないか」

 御影が、冷静に指摘する。

 御影も確か、姫ヶ崎や鷹司の家ほど裕福な家庭の生まれではなかったはずだ。剣道場の設備や剣道部の備品が整っているということで、この学校を志望したらしい。確かに県立の高校だと剣道部だけにあれほどの資金を投入することはできない。

 だから御影にとってもタイムセールは逃すわけにはいかないのだ。

「そうね」

 霧ヶ峰も、紗那の拘束を解いた。

「こんなところでじゃれついてる場合じゃないわ……皆、早く行きましょう」

「御影様、ナイスアシストです!」

 紗那は御影に向かって親指を立てる。

「あ、ああ……それは良かったが……」

「いや……でももう少しあのままでもよかったかもしれませんけど……」

 こいつ――やはり、日に日にそっちの世界に近づきつつある。

 俺の知ったことではないけれど。

「そ、そうか。それは失礼した」

「御影さんは別にあんたのアシストしたわけじゃないから!」

 霧ヶ峰が全力で突っ込む。

「御影さんもいちいち気にする必要ないから……」

 こういうことに関しては、霧ヶ峰より御影の方がずっと融通が利かない。

 霧ヶ峰が四角四面なのは、あくまで校則に関することだけだ。

 そんなわけで――。

 俺たちは駅前にある大型スーパーに、「オーソドックスなカレーライス」とやらの材料の買い出しに向かった。


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