じゃあ、オーソドックスなカレーライスなんてのはどうだ?
「えーと、まあ冗談はさておき……」
紗那も話しにくそうにしている。道明寺を呼んだのは紗那だから、自業自得と言えばそこまでだが。
「皆様には審査の公平性を期すため、作る料理をあらかじめこちらで決めさせていただきます! 同じ料理を作らないと、誰がどれだけ上手に作れるかが分かりませんからね」
確かにそうだ。
あくまで印象論だが、鷹司はどんな料理作ってくるか分からない。きっと、自由に作れと言ったら俺の知らないような料理を出してくるだろう。しかも「君はこんな高尚な料理なんて知らないだろうが……」という前置き付きで。
それに、ここに創作料理を出してきかねない人間が一人いる。
「私をジロジロ見るのは止めてくれないかしら。じっと見つめても透視なんてできないわよ」
この変態が――と言う甲賀沼。人前でパンツとか平然と言い放つ人間に言われたくない。
しかも透視云々に関しては俺は全くそんなつもりはない。
「透視は男子の夢ですなあ」
男子でない道明寺にそんなことを言われても、嬉しくもなんともない。男子に言われて嬉しいことでもないが。
「え、ええ……よろしいですか」
紗那もこのコンビには気おされ気味だ。
「それで、肝心のメニューですが……ここは兄様に決めてもらうことにしましょう」
そう言って、「兄様、早くお決めください」と言う。
自分で考えるのが面倒になったな――とも思ったが、ここは紗那の言葉に甘えて決めさせてもらうことにしよう。
姫ヶ崎が作っても、大した被害の出ないようなものがいい。
「比較的簡単なものでお願いします……」
紗那から泣きが入った。
「わたくしでも作れるもので……」
「審査の公平性の話はどこ行ったんだよ」
でも、確かに六人全員が失敗せずに、何とか形にはできる料理にしないといけないわけだ。なかなか難しい。
「じゃあ、オーソドックスなカレーライスなんてのはどうだ?」
「なるほど」
紗那は、名案、と言うようにポンと手を打つ。
「では、今回の対決のメニューは『オーソドックスなカレーライス』ですね」
「逆に難しくなってないか?」
俺はカレーライスがオーソドックスだって言ったんだよ――。
「なるほど……美少女のカレーライスは王道ですなあ」
道明寺も眩しすぎて目をそらしたくなるほどの美少女オーラを全身から放って言う。見た目と中身のギャップが大きすぎるだろ――。
美少女を見た分だけ、美少女オーラを放つ道明寺ほかけ。
一生鏡でも見ていればいいのにと思う。多分その時、人類は真の永久機関に出会うことになる。
「では、材料は皆様に各自で買ってもらうことにしましょう。オーソドックスというテーマから外れない範囲ですけどね」
「そうだね」
姫ヶ崎もそれに同意する。
「伊勢海老とか入れられちゃったら、もう食材の勝負になっちゃうし」
「うむ。道理だ」
「私も下に同じ」
「下に同じってどういう意味だよ。せめて右とか左とか言え」
こんなわけの分からんことを言うのは勿論甲賀沼だ。
でも、紗那の提案にここにいる三人が同意したことは事実だ。
「それでは、前日あたりに皆で買い出しに行きましょう」
「そうだね」
校地の外に出るには外出許可がいるのだが、それはあくまでも俺たちが遊園地に行ったときのような、遊興目的で外に出る時に限った話だ。
食品や消耗品を買いに外に出るときは、その限りではない。
午後十時までには寮に戻るという条件付きで、校地から出ることが許可されている。
「『ジャスポ』あたりにでも行きましょうか」
紗那は、駅前にある大型スーパーの名前を出した。
「そうだな。それがいい」
「私もそれにアルカリ性だわ」
「酸性の反対……つまり、反対ということですか?」
紗那にそう訊かれると、甲賀沼は「いいえ。他意はないわ」と返す。
「お前は自分の意見を言うときくらいもっと分かりやすく言えよ……」
「ええ。検討するわ」
厄介な奴だな、いつもながら――。
「では、決まりですね。メニューはカレーライス。買い出しは木曜日」
「じゃあ、私は眩香ちゃんに伝えておくよ」
姫ヶ崎が言う。
「鷹司殿には、私から伝えておこう」
「ああ。ぜひそうしてくれ」
甲賀沼にこの役目を負わせたら、どんな結果になるか知れたものではない。
俺が伝えたらいいのだが、鷹司は少し苦手だ。
「杉内少年、今から楽しみですなあ」
道明寺は同士よ、という感じで俺の肩をつついてくる。
だから、その妙に輝かしい顔で俺に身体を接触させるの割と真面目にやめてもらえないか。そのキラキラ美少女オーラを放っている身体を――。
「兄様――」
紗那が光の消えた目で俺を見据えている――。
こいつ、俺が自分の認めた以外の女子と接触することを認めないつもりか――。
俺は、道明寺から少し身を離した。




