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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
① 第三章「男女七人、寮での共同生活――までは良かったのですが……」
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あたかもうちの寮で不純異性交遊が行われていたかのような誤解を招くような表現は止めなさい!

「そうだな。私も杉内鳳明のおかげで、昨晩は一睡もできなかった」

 そして、こんな時にだけ俄然俺の話に参入してくる鷹司。

 頼むから黙ってろ。黙っててくれ――。

「まさか布団の中であんなことになっていたとは思わなかったのでな。にしても、加減と言うものがあるだろうが。あまり盛んだと次の日に響くぞ」

 こいつ、俺の根も葉もない噂を広める趣味でもあるのか。

 いや――鷹司のことだから、それ以外に考えられない。

「まさか、あんな大きなもの……」

 鷹司が続けると、黒瀬が咳き込む。

「杉内……俺たちとはすっかり別世界の人間になりやがって……! 俺は悲しいよ……」

 今にも歯噛みしかねない表情で、それでも「お幸せにな」ということを忘れない黒瀬。

 完全に誤解して受け取っていることは明らかだ。


「だから、そんなんじゃねえって本当に……」

 俺が昨晩寝付けなかった、本当の理由。

 姫ヶ崎の部屋の布団に、ゴキブリが出たのだ。

 その後処理のために、俺は眠れなかったというわけだ。姫ヶ崎の悲鳴が上がり、部屋が隣だった鷹司が姫ヶ崎のもとに真っ先に駆けつけ、皆に異変を知らせた。

 ゴキブリにしては、かなり大きなものだった。鷹司が言ったのはそれだ。

姫ヶ崎のことだから俺も文句を言うつもりはないが、あの(はえ)()も素手で潰せそうな霧ヶ峰が「あんた男子なんだから何とかしなさいよ!」と言ってわざわざ起こしに来たのは少し腹が立った。

女子に食事を作らせるのは駄目で男子にゴキブリを叩かせるのはいいのか。

 そう――新たに分かったことだが、姫ヶ崎は甲虫が大の苦手だそうだ。

 カブトムシなども全く駄目なのだという。それでいて芋虫毛虫は平気なのだというから不思議だ。俺なんて、女の子は皆毛虫を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌うものだと思っていたが。

 姫ヶ崎曰く、芋虫や毛虫は蝶になるからそれほど嫌いではないそうだ。

 確かに、ゴキブリはあれ以上綺麗(きれい)にはならない。

 そんなことを姫ヶ崎と話し込んでしまったので、俺にも自業自得の節はあるけれど。

 鷹司が加減だの盛んだの、明日に響くだの言ったのは、その長話のことだろう――確かに俺たちは好きな虫嫌いな虫について盛んに歓談したわけだし、深夜の長話は加減しなければならないのだが。

 わざわざ誤解を招く、というより誘導するようなことを。

 全部知りながら黙っている霧ヶ峰も性質が悪い。

 結局、俺が全部黒瀬に説明して、誤解を解くのに五分以上を要した。


「だから俺が日本史の授業中ずっと寝てたのも、仕方ないというわけだ」

「仕方ないじゃないわよ!」

 ミニ風紀委員、霧ヶ峰がノートで俺の頭を叩く。こんな時にだけ俺と黒瀬の会話に入って来やがって。

「何するんだよ⁉」

「これで少しは目が覚めたでしょう?」

 まあ――賀茂川に起こされるよりはましか。

「それに、聖花はあんたと違って授業中一睡もしてないでしょうが」

 それは意外だ。と言うか、こいつもずっと見ていたわけでもないだろうに――。

「授業中あんな爆睡してる人間、私は初めて見たわ」

 怒りと呆れの同居した口調で、霧ヶ峰は言う。

「それにあんたはぐっすり寝てたじゃないのよ⁉」

 そして、霧ヶ峰の矛先は鷹司に向かう。この時ばかりは、俺は彼女を心から応援した。

「あんたは何もしないで部屋に戻って、そのまま寝てたんでしょうが!」

「私にできることはないと思ったのでな。部屋も狭いし、ただ突っ立っているだけの人間が何人いても仕方ないだろう。私はそう判断して、身を引く事にしたのだよ」

 自分は良く状況をわきまえているだろう、と自慢したげに言う鷹司。

 俺はそれよりもこいつが異様に寝つきがいいことに驚く。あんな中すぐ眠りにつけるなんて、並の人間に出来ることではない。俺も、それが凄いのは認める。

「あたかもうちの寮で不純異性交遊が行われていたかのような誤解を招くような表現は止めなさい!」

「そうか? 私はそういう誤解をされるとは思わなかったのでな。霧ヶ峰君がそう受け取ったのだとしたら、私も配慮しよう」

「あんたねえっ……⁉」

 霧ヶ峰は鷹司への怒りと恥辱で顔を真っ赤にする。

「うるさいわね、四人とも」

 霧ヶ峰が爆発しそうになった手前、前の席から物言いがついた。

 前の席――席順は四月以来ずっと五十音順だから、霧ヶ峰の前には「か」で始まる最後の生徒、つまり甲賀沼周が座っている。

「私が眠れないじゃない」

 甲賀沼が言うと、霧ヶ峰は大きくため息をつく。

 こいつ……さては目を開けて寝ていやがったな。道理で、授業中やたらと教師の言葉にうなずいているように見えたわけだ。

 甲賀沼も、寝付けなかったということか。

「……もうどうすりゃいいんだか……」

 霧ヶ峰が頭を抱えて言う。

 俺たちの生活は、こんな調子で続いていたわけで――。

 ふと、俺は廊下側から視線を感じて、そこに注意を向ける。

 紗那の姿を認め、俺はゆっくりと視線を離す。気づかなかったことにしておこう――。

 しかし。

 今の紗那は鬼門院の人間として、俺たちを観察する役目を仰せつかっているのか。それとも杉内鳳明の腹違いの妹・紗那として、ただ単に俺に付きまとっているだけなのか。俺には、判断がつかなかった。 

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