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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
① 第三章「男女七人、寮での共同生活――までは良かったのですが……」
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なるほど――おだてて懐柔しようということか

「つまり――」

 最初に口を開いたのは、甲賀沼だった。

 いつもの彼女とは打って変わって、真剣そのものの口調で紗那に問いかける。

「私たちは、いずれは杉内君と結婚することをあなたに期待されているということかしら」

「はい、そういうことです」

 そして紗那は、「勿論、わたくしだけではなく、母をはじめとした鬼門院家の一部の人々に共通する気持ちでもあります」と続ける。

「そして、そのために一緒に暮らせということだな」

 御影は、怒りを押し殺したような抑揚(よくよう)のない声で言う。

 怒って当然だろう。

 突然寮を引っ越すことになったと言われ、指定された寮に来たら、そこでこれから同級生になる男子生徒の婚約者候補になれと言われる。

婚約者でもない――婚約者候補だ。

明らかに、五人を下に見た所業だというのは俺にも分かる。

 あまりにも馬鹿にした話だ。

 だから、馬鹿げた計画だと言ったのだ。

 でもそういうことを平気でやるのが、鬼門院家と言う家の存在。

 これも紗那一人の考えではないのだろう。紗那は、鬼門院家の常識、鬼門院家の考え方に従って、こういうことをしているだけだ。

 紗那も、それが怒りを買って当然だということは分かっているらしく、蚊の鳴くようなかすかな声で「……はい」と返答する。

「けっ、結婚って、それ、杉内君どういうこと……」

 姫ヶ崎も、すっかり色を失っている。

 姫ヶ崎が「楽しそう」だなんて言ったのは、七人でこの寮で暮らすということしか知らなかったからだ。その本来の目的――鬼門院の目論見を、知らなかったから。

「ああ……そう言うことなんだ」

 俺は、短くそう答えた。

 俺だってこんなこと、望んではいない。

「わたくしたちの鬼門院家が、正当な家柄として続いていくためには、こうしなければならなかったのです」

 紗那は、あくまでも鬼門院の理屈を代弁しているだけだ。

 五人とも、ただの女子高校生ではない。社長令嬢の娘もいれば、名家の娘もいる。そんな環境の中で今まで生活してきたのだから、それは彼女たちには頭では理解できることなのかもしれない。

 でも、紗那は悪くないということと、紗那の言う鬼門院の理屈に従うことができるかと言うのは、全く別問題だ。

 それに、頭ではそんな理屈が分かっていても、実際は俺や紗那を責めずにはいられないのが当たり前だ。


「ちょっと待ちなさい!」

 紗那に向かって、いち早くそう反駁(はんばく)したのは、霧ヶ峰だった。

「鬼門院鬼門院って、私らは鬼門院家の人間でも何でもないの! それは、勿論そう言う家の理屈ってものを、私も知らないわけじゃないし……でも、どうして私たちがそれに巻き込まれなきゃいけないわけ⁉」

 まくしたてる霧ヶ峰に、紗那は返答に困っているようだった。

 それは――紗那が、校内を物色してチェックを付けた女子生徒だったから、と言う理由で。そのことに関しては、ほかならぬ紗那に責任があるからだ。

 もし紗那が他の女子に着目していれば、彼女たち五人はここに来ることもなかったわけだし、俺の婚約者候補などにされることもなかったわけだ。

「それは、ですね――」

 皆様が、鬼門院の家に嫁ぐ女性としてふさわしいと判断されたからです、と紗那は数秒間の沈黙の後で、言った。

「なるほど――おだてて懐柔(かいじゅう)しようということか」

 鷹司が意地悪く唇をゆがめる。

 しかし、そうは言いながらも「鬼門院にふさわしい」と言われてナルシストの鷹司は欲望を刺激されたようで、

「で、一体どういった部分がふさわしいと思ったのか、それを聞かせてもらおうか」

と続けた。

「今はそんなことを言っている場合ではないだろう」

 御影が、腕を組んだまま鷹司を諫める。

「とにかく、私はそんなものはお断りだ」

 御影だけが、紗那のノートを見ている。紗那の策略も知っている。

 あの時は、俺が気にする必要はないと言った。紗那の妄想だとも。

 この五人の中では、御影が一番俺に強い怒りを抱いているはずだ。彼女に、結果的に嘘を言うことになったのだから。

 そんな男の婚約者になれと言われて素直にうなずくわけがない。

 貴様、嘘を申したな……。

 それを口に出すこともなく、御影は酷薄(こくはく)な視線で俺を責め立てていた。


「帰るぞ」

「お待ちください、御影様!」

 御影は、竹刀を腰から抜く体勢を作りながら、紗那を振り返る。

「御影様がお住まいになる寮は、ここしかないのです……」

「なるほど。私たちを逃さないように、わざわざ寮まで手配したということか。準備がいいものだな」

 鷹司が冷笑を浮かべて言う。

「卑劣な手を……」

 御影も、身動きが取れなくなったようだった。

 剣術の鍛錬に使う物がなければ、御影のことだから、野宿でも(いと)わないだろう。しかし、竹刀や木刀、それに胴着(どうぎ)を野外に晒しておくわけにもいかない。それらを人質に取られた御影が、立ち去ることができないわけだ。

 ここまで計算していたとすれば――。

 それは、紗那や妙子さんだけの手配ではない。

 俺の預かり知らない、もっと大きなものが――。


 俺を取り巻く策謀は、俺が想像していたものよりもずっと大きいらしかった。


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