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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
① 第二章「兄様には、五人の中から将来のお相手を選んでいただきます!」
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お前は妹とどういうことをするつもりで語ってるんだ?

「急なことになって悪い」

 俺は、隣の部屋の黒瀬に言う。黒瀬も、俺の荷物を纏めるのを手伝ってくれるらしい。

「いや、お前もなんか事情があるみたいだし」

 少し寂しくなるけどな――と黒瀬は言う。

「妹ちゃんと暮らすのか?」

 いや、そういうわけじゃないけど――とは答えられない。

 俺の推測はこうだ――紗那は、男子寮、女子寮という校則で定められた寮分けを無視して、「婚約者候補」の女子五人と俺を一緒に住まわせようとしている。自分も一緒に、ということを考えていないとは思えない。

「いいよなあ、お前には可愛い妹ちゃんがいてさ。俺なんか一人っ子だぞ。風呂に入っても一人、寝床に入っても一人」

「お前は妹とどういうことをするつもりで語ってるんだ?」

 紗那と一緒に風呂に入ったり、ましてや添い寝なんてした日には、何をされるか知れたものではない。そんなのこっちから願い下げだ。

「まあ、そんなわけないよな。お前の妹ちゃんは女子寮、俺たちはしがない男子寮暮らしってわけだ」

 黒瀬はそう言って、俺に肩を預けてくる。違う、妹と一緒の寮に入るんだ――なんて言えるわけがない。

「寂しくなるぜ、お互い」

 俺は寂しくはならないだろうけどな――。

 あんな奴らと一緒に暮らしたって、騒がしくなるだけだ。

 でも、俺は黒瀬に答える。

「そんなことないだろ、第一学校行ったら同じクラスだろうが」

「まあ、それもそうだな」

 それが黒瀬の感傷に一段落を付けるきっかけとなったらしい。


「あーあ、俺も美少女に追いかけまわされてみたいぜ。黒髪美人の新入生にさ」

 確かに、可愛くは見えるかもしれないが――。

「俺も、お前に立場代わってもらいたいよ……」

 贅沢な悩みだな、と言って、黒瀬は俺の肩を叩く。

「お前は幸せな奴だよ、全く」

 結婚相手を家から押し付けられることの、どこが幸せだ――と俺は思う。でも、そこまでして紗那も妙子さんも、俺のことを鬼門院家の一員として周りに認めさせようとしている。それを考えると、黒瀬の言葉を無碍(むげ)には否定できなかった。

 それでも――。

 紗那は幸せなんだろうか。

 なぜそんな問いが俺の頭に急に浮かんできたのかは分からなかった。


「少し、散歩してくる」

 今日はいろいろありすぎた。少し頭を整理しよう――そう思って、外を歩きに出ようと思ったのだが、黒瀬もついていくことになった。

 本日二度目の散歩になる。

 紗那に邪魔された分の、仕切り直しだ。

「まだ、荷物を(まと)めるのには早いしな」

 黒瀬はそう言いながら、「美少女とばったり出くわしたりしないかな」とあたりを見回している。

それでわざわざついて来たのか、こいつは。

()りない奴だ、本当に。

 光潤寮を出ると、すぐにテニスコートが見えてくる。今日は、練習はないようで誰もいない。その向こうには卓球場やバスケットボールの屋外コートなど、部活の施設が立ち並んでいる。学食などがあるのは、そのさらに奥だ。道路を挟んでもっと奥にあるのが、教室棟や職員棟、そして講堂などのある区画。二つの区画は一般道路で隔たっており、それに向けて蕭条(しょうじょう)学園の威容を誇示するように校門がそびえたっている。

こういう配置にするから、遅刻者が増えて霧ヶ峰が眉を吊り上げる羽目になるのだ。


 俺たち二人は、テニスコートと卓球場の間の十字路まで出た。

「おっ、早速発見!」

 黒瀬が指す方を見ると、そこには確かに美形のすらっとした女子生徒が歩いている。

 長髪だが、御影とは違って背中のあたりで髪を一筋にまとめている。猛禽(もうきん)類を思わせる目は、自分の歩く方向をまっすぐ見つめており、俺たちの存在には気づいていないようだ。

鷹司(たかつかさ)知紗季(ちさき)。通称・蕭条の新女王」

「新ってことは旧がいるのかよ……」

「知らないのか?」

 黒瀬は、さも当然、といったふうに言う。

「蕭条の女王って言ったら、賀茂川先生だろ。あの先生、高校はこの学園だったし」

 大学もあることにはあるのだが、実質高校付属の大学になっていて、勉強が少しできる生徒は皆外の大学に行ってしまう。賀茂川もそのルートだったらしい。

「でもあいつは確かに女王って感じだよな……ある意味」

 それもすごく悪い意味で。

「だろ?」

 黒瀬にはそのニュアンスは伝わらなかったようだ。

「で、この鷹司って奴が新女王?」

 賀茂川の後を継ぐのだから、どうせ(ろく)な奴ではないのだろう。

 賀茂川の罰を罰とも思わない黒瀬は違った感想を抱きそうだが。


「そうだ。お前ももっと新しいクラスメートの情報を仕入れておいた方がいいぞ」

「あ、そうか。こいつもうちのクラスだったっけ。ゴミ箱持ってないから分からなかった」

 エリザベス・佐藤は、本当の名前が分からなかったわけだが、一応ゴミ箱にクラス名が油性ペンで書かれていたので俺と同じクラスの奴だということは分かった。

「おいおい、お前はどこまで自分のクラスに興味がないんだよ……」

 そう言う黒瀬だって、どうせ興味があるのは自分のクラスの女子だけだろう。

こいつも同じクラス。厄介なことになりそうだ。エリザベスの一件を思い出して、こいつにはあまり話しかけないようにしようと考えた。

 ――ん?

「タカツカサって、どういう字書くんだ?」

 俺には、それが初めて聞いた名前――いや、見た名前とは思えなかった。

 なぜだか、たまらなく嫌な予感を、俺は抱く――。

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