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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
① 第二章「兄様には、五人の中から将来のお相手を選んでいただきます!」
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あ、兄様いけません、事もあろうにこんな人の見ているようなところで……

「えっ、え――さ、さあ、何のことやら……」 

 こいつは、嘘をついている時いつもそうなる。正直な奴だ。

「じゃあなんで突然思い出したんだ?」

「これには、複雑な経緯がありまして……あ、そうだ、さっき転んだ時に紙で手を切ってしまって、それで制服に血がついてしまったので血痕からの連想で、結婚かなあ……と……」

「あ、そうだって言ったなお前は⁉」

「すみませんでした!」

 妹はベンチの上で俺に向かって土下座をする。そこまでしなくてもいいのに。

「ドアにしっかり耳を付けて聞いてましたっ! 兄様が遊園地に行ったときの残念なお話も、全部聞こえてしまいましたっ!」

「残念って言うな残念って!」

 残念なことには違いないのだが、黒瀬と「残念だよな、俺たち」と言い合っているのと、ほぼ一年ぶりに会った妹に「残念ですね」と言われるのでは、やはり意味合いが違う。

「本当にすいませんでした! このことは誰にも言いませんから! 妙子母様にも言いませんから!」

「何⁉ じゃあ今まで言うつもりだったのか⁉ 彼女ができない話を血の繋がってない母親にバラされるってのがどんな気持ちか分からないようだなお前は!」

「すみませんすみません! そんなこと爪の先ほども考えませんでした!」

 お許しを、と言って紗那は俺から逃げようとする。

「待て! じっとしてろ!」

 俺も紗那の制服につかみかかる。

「あ、兄様いけません、事もあろうにこんな人の見ているようなところで……」

「お前は変な声を出すな!」

 妙に色っぽい声を出す紗那。

 こんなところを他人に見られたら、それこそ一巻の終わりだ。

 そして、運悪く――。

「動くな! 神妙にせい!」

 それは、俺が紗那に言った言葉ではなく。

 さっき聞いた声が、どこからか……正面に広がる、ケヤキの並木の中の一本の木の上だ。

 俺たちを見下ろすようにして、太い枝の上に御影が立っている。


「貴様‼ 貴様は、あの時の貴様ではないか‼」

 鬼のような形相で、俺を(にら)みつける御影。

「やはり、娘を手籠(てご)めにしようとしていたなッ‼」

「いやこれは違う! ってかどっから見てたんだよ!」

「貴様が娘に土下座させるところからだ!」

 最悪の瞬間から見られてしまったということだ。

「娘に頭を下げさせたうえ、襲い掛かるとは言語道断、極悪非道! 私が叩き斬ってくれるッ!」

 そう叫んで、御影が枝から飛び降りる。

 地面に着地しても、体勢が全く崩れなかったところなど、さすがうちの高校を代表する剣道少女だ。

 でも、そんなことを言っている場合ではない。

 御影は、いつも携行している竹刀ではなく、部活動の練習用の木刀を振り上げる。脳天にあれを叩きつけられた日には、命の保証はない。

「青天流――」

「ちょっと、ちょっと待ってください!」 

 紗那が慌てて、両手を振って御影を止めにかかる。

「何か勘違いされていませんか?」

「危ないぞ、娘! しばし離れておれ! 私に其奴(そやつ)を斬らせろ‼」

「いけません! ああもう、兄様! とりあえず逃げましょう!」

「逃げるったってどこへ……!」

「どこでもいいですから!」

 紗那は俺の腕をつかんだ瞬間、もう片方の手で地面に向かって何かを投げた。

「な、何だ一体⁉」

 それに気づかない御影ではない。反射的に身をよじって、それを避ける。

 しかし――その拍子に御影は紗那とまともに衝突してしまった。

「娘、相済まぬ……しかし、危ないと言ったはずだぞ」

「あ痛たたた……今日はよく人とぶつかる日です……」

 頭を押さえる紗那。しかし、俺の視線は紗那には行かなかった。

 紗那のポケットか何かから落ちたのだろう。一冊の手帳が、ページが開いた状態で地面に落ちている。

 そこには、人の名前がびっしりと書かれていた。

「あ……あれ? あっ‼」

 紗那は、自分がそれを咄嗟の判断で投げてしまったことに気づく。俺がそれを拾おうとすると、紗那はそれを奪い取った。

「兄様……見てしまいましたね、わたくしの極秘文書を……」

 紗那がただならぬ気配を発している。

「私が、兄様のために温めておいた計画を記したノートを……しかも、一番大事なページを……」

 そして、見る者を凍り付かせるような眼でしっかりと俺を見据えながら言った。

「兄様。兄様には、ふさわしいお相手を早く見つけてほしいと願ってきました。しかし、事ここに至るに、もはやそのようなことを言っている場合ではございません」

 ――兄様には、このノートに書かれた五人の方々から、お相手を選んでいただくことにしました。

 紗那は、そう続けた。

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