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あなたを嫁とは認めない!  作者: 須賀川乙部
① 第一章「今日から兄様と同じ学校です!」
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今から期待に胸が膨らむぜ!なあ、杉内もそう思わないか?

 遠目からは赤煉瓦(れんが)づくりのように見える校舎は、その無機質さを感じさせないようにという装飾を凝らした結果なのだろう。

 俺の眼の前には、アスファルトで舗装された真っすぐな道が続いている。まるで、辺りに立ち並ぶ校舎の建物をあざ笑うかのような、ある種徹底した無機質さ。

 植え込みがあるのと、雀が何羽か止まっているのがいくらかはそれを低減している、ように俺には思える。

 整備委員の努力は無駄ではなかったわけだ。


「よう、杉内(すぎうち)!」

 背後から、黒瀬(くろせ)の声がする。

「久しぶり」

「おう、黒瀬」

 俺は足を進めながら、隣に並んだ学校指定の鞄を後ろ手に持った男子生徒に視線を移す。

 黒瀬興太郎(きょうたろう)。俺のクラスメートだ。

 いや――今日からはクラスメートだった、と言うことになるかもしれない。

 今日は始業式。俺たちも、今日からは二年生だ。

「可愛い一年生が入ってくると良いな」

 普通に聞けば牧歌的なこのセリフも、黒瀬の口から出ると怪しい意味にしか聞こえない。

 この学園内にいる、ある一定以上の容姿を持った女子のデータをすべて集めている。ついたあだ名は、「美少女ハンター」。一年生にも、その触手を伸ばそうということか。一年生逃げて。


「今から期待に胸が膨らむぜ! なあ、杉内もそう思わないか?」

「いや……別に」 

 俺も美少女は好きじゃないことは決してないのだが、黒瀬のように情熱的かつ偏執(へんしつ)的かつ変態的にまで好きというわけではない。

「全く、杉内はいつも覚めてるよなあ」

「お前がある一定方向に熱いだけじゃないのか?」

「一定の方向に熱さを傾けるってのか、青春ってもんだろ?」

 と言うことは――青春って美少女? と黒瀬は言う。

「俺って今ものすごくいい事言ったんじゃないか?」

「別にいい事でもないと思うが……」

 でも、黒瀬らしい言葉ではある。

「なあ」

 俺は黒瀬に尋ねてみることにした。

「お前の、美少女の基準ってのは何なんだ?」

「それは……」

 黒瀬は、少し考え込んでから言う。

「ピンと来た、と言うか、ドキッと来た、と言うか……」

「分かった分かった、もう言わなくていいから……」

 黒瀬がドキッと来たなんて言うと正直ぞっとしない。顔は俺よりいいのに、残念なことだ。それも本人の行動の結果だから、自業自得なのだが。

 今では黒瀬興太郎=美少女マニアの変態、ということで、少なくともうちのクラスでは通っている。

 まあ、そんな黒瀬に附き合っている俺も俺だけど。


「つまりは直感みたいなものだよな」

 黒瀬は、うんうん、とうなずきながら言う。

「あ、もう一つ思いついた。美少女は直感! 黒瀬興太郎、美少女の極意」

「そういうのは道明寺(どうみょうじ)みたいになってから言えよ」

 道明寺ほかけ――。

 彼女も、自身が美少女とされながらもその本性は根っからの美少女マニア、美少女を見かけると全身から強い美少女オーラを発してほかけも幸せみんなも幸せと言うよく分からない奴だ。同じクラスではなかったが、その噂は俺の耳にも入ってくる。

「それもそうだな……」

「まあ美少女の基準が直感ってのは分かったけど」

 あいつはどうなんだ、と言って、俺は目の前の一人の女子を指す。


 霧ヶ峰(きりがみね)眩香(まどか)

 短髪眼鏡の、生徒会副会長。

 一年生で、まだこの高校に入ったばかりの時から、生徒会副会長をやろうなどと言い出したのだから大した奴だ。

 規則に厳しく、四角四面なところがあるので、「ミニ風紀委員」と呼ばれている。俺が最初に呼んだんだけど。

「あいつは……よく分からん」

 黒瀬は少し考え込んでから言う。

 俺が黒瀬をただの変態じゃないと思っているところは、黒瀬はあまり女子生徒の容姿について悪く言うことがない。そればかりか女子の悪口を黒瀬の口から聞いたことはほとんどない。今のように、少し口ごもることもあるが。

 つまり乱暴に解釈すれば黒瀬が霧ヶ峰を不美人と判断したともいえるわけだ。

 と言うのは冗談にしても少し言い過ぎか。

「ほら、そこの二人もっと急ぎなさい! 早くしないと教室入れなくなるわよ!」

 今の時刻は、八時三十二分。始業式は九時からだから、まだかなり時間があるように思えるのだが。


「今日は昇降口が混み合う日なのよ」

 まったく、あの掲示の位置変えてもらえないかしらね――と、霧ヶ峰が文句を垂れる。

「今日は新しいクラスの発表があるんだから」

「何⁉ それは本当か」

 黒瀬についてもう一つ補足。こいつはいつもオーバーアクションだ。楽しい奴ではあるが、嫌なことがあって腸が煮えくり返っている時にこれをやられると非常に精神衛生上悪い影響を及ぼす。

 だからそういうときは、こいつに近寄らないようにしている。

「それは本当かって、あんたたちに嘘ついたって仕方ないでしょう――ほらそこ、やっとクラスが別々になるみたいな顔しない!」  

 見抜かれた。でも、本当のことだ。

 去年はこいつのせいで遅刻もできなかったし、掃除も途中で抜けられなかった。

「あんたは私が生徒会にいる以上、どっちみち毎朝ここで会うことになるんだから」

「はいはい、遅刻指導のおばさん」

「おばさん、ですって……」

 霧ヶ峰が怒りに顔を赤らめる。

 向こうも冗談だと分かっているはずなんだが。


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