初めての試合観戦
「ブレイバーズ対マンオブマンの準決勝戦を開催しま〜す。さあ、さぁ、両チームの先鋒は前に出て下さ〜い。」
のんびりした口調で司会者兼審判が仕切り始める。
そして、ブレイバーズの先鋒を見た俺は思わず声を上げた。
「え〜〜、えっ、エリシス?マジか?」
そう、ブレイバーズの先鋒はエリシスだったのだ。その前まではトモヤ1人しか居なかったのに。
エリシスは俺の声が届いてはいないようで真剣な顔で対戦相手を見つめている。
相手は頰に傷がある歴戦の猛者の風格を漂わせた男だ。見るからに強そうだ。
俺ならビビって降参してしまうかもしれない。
「猛勇のエルグンドではないか。あ奴も参加しておったんじゃなぁ?それに引き換え、あの娘では荷が重いのではないかのぅ?」
セツナさんがそんなことを言うが、ウチのエリシスさんも負けてはいないと思うぞ。
「それでは始めて下さ〜い。」
司会者兼審判が大きな声で宣言すると、エリシスと対戦相手が一気に前に出た。
先制はエリシスの五段突き。しかし、エルグンドは見た目に似合わない柔らかなタッチで突きを捌いていく。
そして、エルグンドは突きの終わり際を狙ってエリシスの利き手である右手の甲を狙う。
エリシスは咄嗟にバックステップし、エルグンドの攻撃をかわした。しかし、そこを見逃す男では無かった。
一足飛びに間合いを詰めて突きを放つが、それがエリシスの狙いだったのだろう。男の鋭い突きをあっさり躱して男の懐に入り込むと、拳の嵐を男に浴びせる。
男はよほどタフなのか、全く効いていないような素振りで、頭上で両の手を組んだと思ったら振り下ろす。
しかし、振り下ろした手の先にはエリシスは居なかった。
彼女は既に男の後ろに回り込み、彼のワキの下に頭を入れて、胴体に腕を回す。
そのままエルグンドを持ち上げて、後方に反り返るように倒れこんだ。
「うわぁ、痛そ〜っ。」
エルグンドは後頭部を激しく地面に叩きつけられて、そのまま気絶してしまった。
「わん、つー、すりー、ふぉー、ふぁいぶ、しっくす、せぶん、えいと、ないん、てん、イレブン、とぅえるぶ、、、、エリシス選手の勝利です。次の方どうぞ」
司会者兼審判さんは相変わらず、のんびりした様子でカウントを済ませた後、エリシスの勝利を宣言した。
ドッと歓声が上がり、エリシスも歓声に応えて手を振る。
歓声に混じって『破壊女王【クラッシュクイーン】さま〜』なんて声が聞こえた時、確かにエリシスの顔が曇ったが、俺は見なかったフリをした。
次の相手は小柄でやせ細った男だった。
さっきの相手よりは楽に勝てそうだ。
「棒術の魔術師、ネロ様まで試合に出場していたのか?信じられんのじゃ。やはり、トモヤ様と手合わせがしてみたかったのじゃろうか?」
セツナさんは丁寧な解説をしてくれたが、相手も只者ではないらしい。
そして、試合が始まった。
棒術の魔術師は棒を構えたまま一歩も動かない。一方、エリシスも微動だにしていないのだが、本当に試合が始まっているのか?
もしかしたら、ダルマさんが転んだ方式で、先に動いたほうが負けなの?
「さすがに熟練者同士じゃのう。止まっているように見えて、刹那ごとに駆け引きの応酬をしておるな。儂も参加したいくらいじゃが、そろそろ動き出すぞ。」
えっ?そうだったの?
エリシスさんの解説はひどくわかりやすいけど、やはりまったくわからない。
そして、エリシスさんの言う通りネロ様が動き出した。突きの連撃を放つがエリシスさんは一歩も動かずに突きをさばく、さばく、さばく。
暫く、その状態が続いたが、突き疲れたネロ様が一旦攻撃を止める。
そこを見逃すエリシスさんではなかった。
ネロ様が突きを引くのと同時に近づくと突きの連撃を放つ。
エリシスさんと同じようにネロ様が突きをさばく、さば‥エリシスさんの木刀に巻き込まれてそのまま棒を落とす。
「くふっ、うまいのぅ。最初からこの展開を誘ってネロ様の突きをさばいていたんじゃな。勝負ありじゃ。」
セツナさんが丁寧に解説してくれるが、エリシスさんも脳筋かと思ったら意外と頭脳プレーが使えるのに驚いた。
そして3人目、エリシスさんは棄権した。
怪我をしたからとかそういうことではなく、トモヤさんが出たがったからだ。
そして、開始5秒で片がついてしまった。
「‥マジか。セツナさん、ホントにあの化け物に勝つつもりですか?」
あらためて規格外の強さを見せられて、セツナさんの戦意が心配で声をかけた。
「も、もちろんじゃ。そして、今度は絶対。」
しかし戦意をなんとかギリギリの所で保てていたので安心したのもつかの間。トモヤさんはなぜか対戦相手を立たせて再度勝負へと誘う。
相手は痩せ型の男だが、柔軟な腕のしなりを生かして無軌道な攻撃がトモヤさんを襲う。
まるでムチ攻撃のようだが、トモヤさんは平然とした顔で攻撃をかわしていく。
攻め疲れた男が攻撃を止めると。トモヤさんが無造作に男に歩いて近寄る。男が慌てて木刀を振るうが遅い。
トモヤさんが相手の額に人差し指をトンと当てると、男は吹っ飛んでそのまま地面に2、3度バウンドした。そして、そのまま地面を滑った後、男は動かなくなった。
「嘘だろ?相手も決して弱くなかったのに、、指先1つで倒してしまった。」
「そうじゃな、やはりこちらも命をかけないと相手にもされないかもしれないな。」
思わず呟いた俺に応じるようにセツナさんが弱気な発言をするが、その目は爛々と輝いていた。
試合が終わるとトモヤさんははそのままこちらに近づいてくる。
なぜかセツナさんが鏡を見て身だしなみを整えるが、トモヤさんは俺の前に止まると、
「よう、シンヤ。まさかお前も決闘祭にでているとはな。今度は絶対にまけないからな。」
そういうと去っていった。
「なっ」
セツナさんは絶句したが、俺はそれより気になっていたことがあり、気にはしなかった。
何しろ、目の前にエリシスさんが立っていたんだからな。
「シンヤ殿も決闘祭に出ていたのだな?決闘は正々堂々戦おう。と言いたいところだが、決勝はトモヤ殿1人で戦うのでな。それにしても再会できて嬉しいよ。」
そう言ってハグしてくれるエリシスさんは今はヨロイをつけていないようで、柔らかい所が気になって仕方がなかった。
どうやらコトハさん達残りのメンバーは勇者隊との接触時のドタバタではぐれてしまったらしい。
そして、一晩寝ると、とうとう決勝をむかえたのだった。




