表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/102

初めてのみぃ〜つけた



「嘘はついていなかったようだな。」

まったく人気がないようで少しホッとした。


「信用ないんやなぁ〜ウチは。」


「信用なんてあるわけないだろう?そんな似非京都弁を使うような胡散臭い奴に」

そう、彼女はさっきから嘘を楽しんでいる素ぶりすらしている。


「酷いわぁ、か弱くて繊細な乙女になんてこと言うんよぉ。取り敢えず謝って。そろばん板の上で土下座して謝って。あっ、膝の上に大きな石を乗せるのも忘れんよぅにせなあかんねぇ。」


「‥‥‥それって石抱じゃねぇか?」

そう、ギザギザの板の上に正座させられてその上に石を乗せる拷問の一種だ。

そろばん板なんて用語がサラッと出てくるオンナのどこが乙女なんだ?


「なになに、美少女と2人きりでおるからってうそんなに嬉しそうなアホ面でおったらアホやとおもわれるんよ。」

うわぁ、ムカつく。

その口をガムテープで塞ぎてぇ。


「はぁ〜、とにかく問題は脱出経絡だが、なにか手はあるのか?」


「北側に、ワザワザ柵に大きな隙間があるからそこから逃げれるんよぉ。偶に、以前から外にコッソリ遊びに行く時とか若者が使ってはったみたいやねんよ。ぱっと見はカモフラージュもされててわかりづらいんやけどね。というか木偶の坊兄さんも私にばっかり考えさせんといてくれへんかなぁ?」

そう言って責めるような、いや困ったような目でユウナは俺を見つめていた。


「わ、悪い。俺は考えるよりは行動する派だからな、そういう諜報活動や策を張り巡らしたりは苦手なんだ。それにしても、何故左手だけ革の手袋をしているんだ?」

その目から逃れる為に、俺は特に気にもなっていないことを質問して彼女の気を逸らそうとしたのだが、


「あ〜、木偶兄さんはあんまりデリカシーが無いとか言われへんかなぁ?」

なんてことをユウナに言われてしまった、



「あっ、そうだな。確かに言われることがあるな。何か事情があるんならすまなかった。」

もしかしたら、火傷の跡を隠しているとか、リスカの跡を隠しているとか、話したく無い事だったのか?

とにかく、俺は素直に頭を下げた。


「うん、まぁ、そんなに素直に謝られるとは思わんかったわ。まぁ、これに懲りたら乙女の秘密は無闇にあばいたらあかんよ。」

彼女は苦笑いを浮かべているが許してくれたようだ。


もしかして、コトハにも言い過ぎていたのかもしれない。今度会った時に謝罪するのもわるくないか。


そんな余計なことを考えながらも、あっさり村を抜けることができた。しかし、目の前には牛くらいの大きさのゴキブリが居る。

これも魔獣なのか?


戦いたくない。



「ここはウチに任せとき。」

しかし、俺を押しのけてユウナが前に出る。


本当にやるのか?

ビジュアル的に触れたくないのだが、このオンナはゴキブリを手で倒せるタイプなのか?

全然乙女じゃないじゃないか。


「木偶兄さんに今回だけ特別にウチが戦い方を教えてあげるからいい子にして見てるんよ。」

そう言って笑顔を作ったと思ったらゴキブリに向き直った。

俺に戦い方を教えるだかって?

片腹痛いが高みの見物でもさせて貰うか。


「うんしょ。えーっと、、これこれ、えいっ」

ユウナは道具袋を地面に置くと探何か探し出した。水鉄砲を取り出し、銃口をゴキブリに向けた。


そして、引き金を引くとものすごい勢いで液体と泡が飛び出した。

しかも大量にだ。明らかに水鉄砲のタンクの大きさを超える容量だ。


例えるならホースで水をかけるかのような勢いでゴキブリに命中したが、もちろん効いている様子はない。

精々、泡まみれになったことくらいか。


「よしっ、満足したし、逃げるわぁ。」

それを見たユウナはそう言って踵を返すと逃げ出した。焦る様子がないのを見ると最初から逃げるつもりだったのか?


全く、本当に意味がわからない。


「お前はなにがしたかったんだ?アホなのか?」

ユウナと並んで逃げながら意趣返しにそう言ってやったが、それに対する彼女の反応は満面の笑みと、横向きのピースサインだった。

それと同時に何かが倒れる音がした。


思わず振り返るとゴキブリが仰向けになり動かなくなっていた。


「おいっ、お前。何をしたんだ?」

俺はユウナに掴みかからんばかりの勢いて詰め寄ったが、


「あれぇ〜、わからへんのん?ほんまに?」

彼女はゴミクズでも見るような目で俺を見つめていた。


いや、マジでなにが起こったかわからないんだが。


「いや、あれだろ。石鹸、いや、洗剤?」

とは言え、どうも正直に『わかりません』なんて言う気になれず、俺は適当に答えた。


「あ〜っ、わかってたんやね。そう、洗剤は油を落としまうから、気門も水を弾けなくなって窒息してしまったんやねぇ」

ユウナは納得したみたいだが、さっぱりわからん。


しかし、ユウナはサッサと先へ歩いていくのだった。



「ところで、お前はどこに向かっているんだ?」

脱出したのはいいが、多分これでお別れだろうな。若干の寂しさが胸に去来するが、まぁ、人生は一期一会だ。

あの時だってそうだったんだからな。


「愛しい人のところやよ。キャーッ、愛しいだって。まぁ、冷静になると恥ずかしいけどなんだろうね‥‥まぁ、恩人ってことなんやろぅなぁ。」

ユウナは勝手に1人で盛り上がっているが、好きなオトコでもいるってことか?いや、違うのか?


「いや、意味わからんぞ。というか説明するつもりがないんだろ?」



「うんっ、正解っ。思ったより勘がいいタイプなんかな?まぁ、これ以上追及したらたら許さなへんからこれでおしまいやねんよ」

何か怖い笑顔でこれ以上追及したら俺も洗剤まみれにされそうだ。窒息はしないけどな。



「まぁ、俺もワザワザ猫の尾を踏むようなことはするつもりはないからいいが、お前もこちらの方向でいいんだろうな?」



「そうだよ。確かリ‥知り合いが『彼は西に居る』って言ってたんよねぇ」

そう言って待ちきれないかのように早足で西に向かっていく彼女を俺は追いかけるのだった。



「ちっ、やっぱり居ないか。砦までもどるしかないか?」

コトハ達と別れた場所には誰も居なかったので俺は思わず舌打ちした。

少し血を流しすぎてちょっとマズイからそろそろあのイオリとかいうちびっ子に治療してほしかったんだがな。


とにかく戻るか?

ここからは山越えなので俺が前を走る。

なぜ走っているかというと追っ手対策だ。



「わるい、ここから南下するぞ。そうしないと仲間と合流できない」

数時間走ったが、冷静に考えるとこのまま北側のルートを進んでもコトハ達と合流できなくなる。

一旦南下して、元来たルートに戻ることにした。


「あっ、そう言えば仲間ってトモヤさんは騎士団か何処かに所属してはるん?」

‥‥あれ?俺のこの姿をみて騎士団というのはちょっとおかしい気がする。

それに、スキルから言ってこいつも転移者だよな?


何か隠しているのか?


「いや、それは情報が古い。今は騎士団ではなく、新しくできた仲間と東を目指しているんだがちょっとはぐれてしまった。それより、お前は何を隠し「仲間?もしかして、シンヤくんとか?」

俺の問いかけが終わる前に言葉をかぶせてきた彼女は予想外の名前を口にした。



「なに?お前、シンヤを知っているのか?」

俺が振り返らずにユウナに質問した時、背中がカァッと熱くなった。


恐らく背中に何かを刺されてしまっている。


「グゥッ、何をする?」

俺はそのままうつ伏せに倒れて、視線のみで彼女を探した。



「シンヤくんの仲間なら早く言って欲しかったわ。悪いけどそのまま死んでくれはれへん?」

なぜか彼女のその言葉に一変の曇りも翳りも感じられなかった。


こいつはヤバイやつだ。


そう感じた俺は最後の力を振り絞り、駆け出して逃走をはかった。


はぁ、はぁ、はぁ、なんとか逃げ切ったか?

ちょっと血を流し過ぎたな。

目の前の景色が霞んで見える。


少し、休みがてら応急処置をすべきだな。


目の前にあるちょうどいい大きさの岩の上に座って、血のついたシャツを脱いだこところで、



「みぃ〜つけた。」

という声が聞こえたと思ったら俺の意識は暗転した。



「あれ?うーん、まぁ、死んではるよね?待っててなぁ、シンヤくん。君の仲間を皆殺しにしてでも命は護るわぁ」

ユウナは曇り一つない笑顔を浮かべてその場を去るのだった。

こちらでトモヤさん編終わります。

ちょっとシリアス路線ですみませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ