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初めてのお兄ちゃん

話はトモヤと煉獄の騎士の死闘より前に遡る。

まだ、トモヤと俺たちは一緒に洞窟を進んでいた。


「ちょっと休憩しよう。イオリがもう、フラフラなんだよ。」

トモヤが先先進んで行くが、イオリが段々それについていけなくなった。

その為、休憩を提案したんだけど、、、


「なら、俺一人でも先に進むことにするぞ。合流出来ていない仲間に何かあってからでは遅いからな。」

トモヤは単独でも先に進むつもりだった。

単独行動は危険だが、、、俺はあのオトコがやられる姿が想像出来ないので

「わかった。もし、仲間が危なそうなら頼む」

俺はそうお願いした。でもよく考えたらこの人、さっき俺に負けてたよなあ、、

俺の心配をよそに彼は先々進んでいき、姿が見えなくなった。


「イオリ、大丈夫かあ?別に背負って行ってもいいんだぞ、、、」

その後、弱っているイオリに俺がそう言っても彼女は何故か全力で固辞した。


それでも、やっぱり俺は無理矢理イオリを背負おうとした、、、、が、自分の筋力忘れてたよ。

背負って立つのが精一杯で一歩も動けなかった、、、どうしよ?


イオリを背負っている背中にイヤぁな汗が滲んだあたりでイオリが俺の背中から降りて何事もなかったかのように俺の前を歩き出した。さすがイオリだ、空気を読む能力にも優れているとは、俺、勝てるのは年齢くらいじゃないかな?


「‥ところで、シンヤ君。た、だ、の、妹さんが、なんでこんなにシンヤ君とイチャイチャしてるの?もしかして、以前から禁じられた関係だったの?」

コトハさんが俺を覗き込みたずねた。

そう、まだ、楓は俺の腕に絡みついていた。

まるで、ラブラブの彼女のようだった。


「いや、コトハさん、何か勘違いしてないかな?別に俺と楓はそんなアヤシイ関係じゃあ、、、」

俺がそう最後まで話す前に楓はまた俺の言葉を遮るように話をかぶせた。


「アヤシイ関係でも、問題ないよ。私達、血が繋がってないから。」


「え〜?うそ????そうだったの?それ、初めて聞いたよ、シンヤ君なんで教えてくれなかったの?」

コトハさんは過剰に反応して俺の胸ぐらを掴んだ。お、怒ってる?


「待って、、コトハさんの言いたいことはわかるけど、楓の発言に一番驚いているのはむしろ俺だからね。楓、なんでそんなにくだらないウソをつくんだ?」


「ウソじゃないもん。お兄が知らないだけでホントだもん。」

楓は俺の詰問に悲しそうな表情をしながら反論する。その表情は見るもの全てに悲しみを誘うような真に迫った表情だったが、、、


「楓、知らないようだから教えてあげよう。楓がウソをつく時はまばたきの回数が増えるんだけど。」


「え〜?うそぉ?あっ、そういえばさっきちょっと目にゴミが入ったからまばたきたくさんしちゃったかも。もう一回やり直していい?」

楓はうまいこと俺の作戦に乗ってくれた。


「私達血が繋がってないんだよ。ほんとだよ、信じて。」

楓が全くまばたきをせずに発言した。

あっ、やっぱりウソをだったのか。


そう、彼女がウソをつく時にまばたきの回数が増えるなんてそれこそがウソなんだよ。そんなクセがあるなら俺は普段からあんなに楓にダマされたりしないよ。


彼女がウソがバレないように全くまばたきをしなくなったので、ウソだということがわかった。


「‥‥楓、、そのウソ、、、いつまでつづけるの?」

俺が呆れた声でたずねたのが勘に触ったのか。


「お兄、勘違いしてるよ。ウソとかほんとどぉ〜でもいいの。私がウソついてても私がワガママ言ってもお兄は私の味方じゃなきゃダメなの。わかった?」

楓はムチャクチャな理論を言い始めた。

お前のものは俺のもの並みの暴論だよ。

これ、なんて返せばいいんだよ?


「わかった。楓も背負って欲しかったんだよな?ほら、乗って。」

イオリですら背負うと一歩も歩けなかったのに、、、でも、ここで男を見せないと、、

いつやるの?

い、、、アブナイアブナイ、これも世間一般ではもう死語だったよ。


とにかく、ここは死ぬ気で進むしかない。

しかし、いつまで経っても楓の重みが俺の背にかかってことはなかった。


「シンヤ君、早く。」

先に進んでいたコトハさんに急かされる始末だよ。なんで楓は背に乗ってこないんだ?

もしかして、皆んながいるから恥ずかしいのか?今、『恥ずかしいお兄ちゃんでゴメン』とか言うタイミングなの?


「楓?背中に乗るのは恥ずかしかったのか?」

俺が遠慮勝ちに問いかけると、俺の背中あたりからこたえが帰ってきた。


「のってるよ、早く先に進もうよお兄。」

えっ?首だけで振り返ると確かに楓が居た。

軽いなんてものじゃないくらい軽過ぎる。



「軽すぎるよ、ちゃんと食べてるか?お兄ちゃん、心配になってきちゃったよ」

そう言いながら俺はコトハさんたちの後を追った。




その光景は壮絶の一言に尽きた。

俺たちは洞窟内の少し広くなったところに着いたが、そこで見たものはダーツ‥‥ではなく、煉獄の騎士を圧倒し尽くすトモヤの姿だった。


俺、本当にあんな化け物に勝てたの?


とはいえ、そんな感想を抱いている場合じゃない。

「エリシス、アヤ、回復薬だ。今はイオリが魔術を使えないからこれで我慢してくれ。」

そう言いながら、俺はエリシスとアヤに回復薬を手渡す。2人が飲んだのを確認してからコトハさんに指示をだした。


「コトハさん、念の為いつでもガルムを出せるようにしておいてね。イオリは俺の後ろに。」

そうして、指示をした後は俺はいつかのように観戦モードだ。今日はちょっと巫山戯て見てる場合じゃないんだよな。仲間が怪我してるし。



「ちょっとシンヤ君、言っておいた方が良いと思うし、ちょっと耳貸してくれない?」

観戦中にコトハさんが話かけてきた。

しかし、なぜか彼女の瞳が不安に揺れている。

俺が頷くと彼女は俺の耳元に口を寄せた。


コトハ不安そうな表情をみていると、『もしかしたら告白でもされるんじゃないか』と俺は体を固くして待っていたが、彼女は桜色の唇から予想外の言葉をつむぎだした。


「仕草から相手の心理を読み取るのはいいけど相手によって悪用して逆手にとられるから気をつけてね。」

‥‥そういえば、初めてのダンジョンの時も俺の作戦を敵が逆手にとって俺を嵌めようとした。その敵を更にコトハさんが嵌めたんだけど、、、


「‥‥‥ありがとう‥‥‥‥」

‥‥俺は目線をそらしながらそういうのが精一杯だった。




俺が気まずい思いをしている間も戦闘は続いていた。また、トモヤが煉獄の騎士をまたも全滅させたので魔術士がまた召喚するかと思いきや、、、魔力切れだった。


「あぁ〜あっ、思ったよりつまらなかったな。もうちょっときばれよ。なぁ、シンヤもそう思うだろ?」

トモヤがドヤ顔で俺に全然共感できない内容を話しかけてきたけど、、、


いきなり彼の顔色が変わった。

トモヤは慌ててバックステップするが、更に楓の追撃の拳が彼に迫る。


「つっ、やめろ。おまえの攻撃は洒落にならないんだよ。」

トモヤは剣を抜いて楓の拳をさばいているが、やはりその顔には先程まで感じられた余裕がない。って、なんで楓がトモヤと闘ってんの?


「ストーップ」

すぐに止めに入ってなんとか戦いが収まった。



「楓〜、なんでトモヤにいきなり攻撃したんだよ?ダメだろ?」

俺が楓を嗜めると、


「‥‥ドヤ顔がウザかったから。私は悪くないよ。」

‥‥理不尽な答えが楓から返ってきた。

まぁ、俺もトモヤのドヤ顔はどうかと思ったけど。


「いや、、楓、ちょっと理由が、、、そのうち『ムシャクシャしてやった』とか『殺意はなかった』とかいいそうだな。」

俺はそう言いつつ宥める為、楓の頭を撫でていた。甘やかし過ぎの俺にエリシスが非難めいた視線をこっちに送ってくるが、とりあえず無視しておきたいけど、、そういう訳にもいかないか?


「エリシス、そういえば新しい仲間を紹介してなかったよな?」

まずは楓を紹介することにしたが、


「俺の可愛い「お嫁さんだよ」」

楓の妨害により見事に失敗した。


そして、少しするとガルムがいつの間にか逃げていた魔術士を咥えて帰ってきたので、捕縛してそこらへんに転がすと、アヤに肩を貸しながら先に進むことにした。


69話をよく読んでいたら気付いたかもしれませんが、エリシスはシンヤに非難めいた視線なんて送ってません。シンヤの被害妄想です。

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