初めての決闘
エリシスと向き合うだけでハッキリとわかってしまった。彼女は強い。
ただ剣を構えているだけなのにどこに撃ち込んでも全て返し技が返ってきそうだ。
何処の剣の達人だよ。
更に彼女は先程の優しい目ではなく、まるで俺がモノであるかのように無機質な瞳で俺を見つめている。
所謂戦闘モードに入ったのだろう?
あまりの隙の無さに俺が躊躇していると、先にエリシスが動いた。ノーモーションでの突きの連撃が俺に迫る。
『予備動作がない為、対応が遅れた。』なんて言い訳ができない程、体が全く反応してくれない。
無数の突きの内確実に目が捉えられるのがせいぜい数回。さらに、その内数回しか彼女の木刀を弾けない。残りの攻撃はというと俺がその身に受けていた。
はぁはぁ、初めての決闘を完全に舐めていた。
心音が「エチュード4番」のように今まで体験したことのない速さで脈動している俺とは対称的に彼女は呼吸一つ乱してはいない。
その上、まだ始まったばかりだというのに俺の全身は既に傷だらけだった。
メチャクチャ痛い、、、けど我慢すれば耐えられる。
彼女の連撃に対してカウンター狙いで反撃の突きを繰り出すけどあっさりかわされる。
そして鍔迫り合いとなる。
そうしている間にも周りの冒険者からの『こっろっせ、こっろっせ、こっろっせ』との殺せコールがBGMのようにリピートしている。
あっさり、鍔迫り合いで押し負けた俺にエリシスが横薙ぎの一撃。俺の瞳がその剣閃を捉えて体に電気信号を走らせる。
その甲斐もあり、危機一髪で木の棒で止めることが出来た。
しかし、彼女の攻撃がそれだけで終わるはずもなく、そのまま利き腕である右の肩に突きを喰らった。
更に、彼女の剣閃は右肩の痛みに脳が反応する暇すら与えてくれなかった。
次は左足、右脇腹、左肩の順に攻撃を受けた部分が熱くなる。痛みをあまり感じていないのはきっと俺自身興奮して、アドレナリンでも出ているのだろう。
次は横薙ぎの一撃を受けて吹っ飛ばされると、そのまま背中を壁に打ち付けて前のめりに倒れてしまった。
しかし、これほど一方的にやられているのにも関わらずまだ耐えられる。
なんとか足に力をこめて立ち上がることができた。
ただ、残念ながらそれは俺の底力でも、覚醒してスーパーシンヤ君になった訳でもなかった。
そのからくりは俺にすら分かる単純なものだった。
だって、あの女は手を抜いていやがるからなぁ!
それが彼女の優しさだったんだろう。
恐らく決闘自体も彼女自身が騒いでしまったことにより、周りが俺に殺意を抱いてしまった責任を感じて行ったものだろう。
悪意から俺を守る為に見た目だけは公開リンチのように叩きのめして後で回復でもさせてくれるつもりなんだろうね。
彼女が底抜けに優しいのはよぉくわかったよ。
それでも、俺は屈辱でいっぱいだった。
それで思わず叫んでしまった。
「ダーツ召喚!!!」
その時、時間が止まった。
比喩とかではなく本当に止まったのだ。
あれ?まさか時間支配能力とか?最強の力が手に入っちゃった?そんな妄想をしていると。
「もしもーし、聞こえてますか?聞こえてますよね。いいですか?」
目の前に青い髪の女神がいた。顔の作りもアリアと良く似ていてやはり美人た。
但し、アリアと違い、髪はショートボブ程度しかなかった。また、アリアよりキツめの雰囲気を纏っているような気がする。
「私は女神リヴ。あのダ女神のアリアがあんまりあなたを贔屓するので代わりにダーツの審判者としてここに来たのよ。サッサと始めちゃうわよ。」
やはり刺々しい口調で話を進めていくリヴ。
リヴが用意した的は
光学兵器発射 角度45度
5分だけステータス10倍 角度45度
とりあえずDEATH 角度130度
罰ゲーム 全裸で眼鏡職員に告白 角度140度
「‥‥‥ちょっと待て、、、なんだこれ?社会的に死んでしまうものも合わせたら4分の3が死亡じゃないか?
どうなってるんだこのダーツは?」
あまりに酷すぎる。
悪意しか感じられない的の内容に思わず不満を口にした。
「あらあら?何をいってるのかしら?このダーツ召喚は発言時に望んだことを叶える内容が的に入るようになっているのだからこうなるのも当然でしょう?」
リヴは1➕1の答えは2でしょ?って言うくらい当たり前の調子でそう答えた。決して体操を始めたりはしていない。
「俺は何て望んだんだ?」
俺自身はムキになってダーツ召喚を使ってしまっただけで、具体的に何を望んだかはよくわからない。
「自分自身でわかりませんか?まぁ、いいです。
『あの女に圧勝したい。』と望んでダーツ召喚したんですからこういう的になったんです。ハイリスクハイリターンってやつですね。せめて、『なんとか勝ちたい』位にしとけば良かったですね。」
「自業自得かぁ〜〜〜、、、、、、、、、、、、、、しょうがないかぁ、、、、、エイッ」
自業自得と分かって俺はなんとなく気が抜けてしまった。
そのテンションのままダーツを投げた。
矢が綺麗な放物線を描いて飛んでいき、そのまま的の中央付近に刺さる。
「トンッ」
的の回転が弱まっていく。
ダメだ、今頃ドキドキしてきた。
あっ、もう少しで文字が読めそうだ。
見えてきた、見えてきた。
「よしっ、生き残った〜」
矢が刺さったのは光学兵器の部分だった。できれば『ステータス10倍』が良かったけどな。
「おめでとう。残念ながら生き残ったわね。
もうすぐ時間が動き出すわ。そして、動き出した瞬間にダーツの効果は発動するから心構えだけでもしておくことね。」
まるでリヴがそう言うのが合図だったかのように、、、、時は動き出した。
すると、前触れもなくビームが俺の胸から出た。
「外れろ〜〜〜」
思わず叫んでいた。
俺の願いが届いたのかビームはエリシスの頬を掠め、後方の壁にぶつかり、壁に大穴が開いていた。
「‥‥‥えっ?」
エリシスは恐怖で腰が抜けてしまった。
そして、いつの間にか殺せコールも静まって物音すらしなくなった。
静寂の中に、誰かが息を飲む音がやけに響いた。
「どうする?次は当てるけど。」
切り札を出し尽くした俺はエリシスに脅しをかけたが胸中はドキドキだった。もちろん、次なんて無い。
今から本気で戦われたら俺が瞬殺されてしまうだろう
「ま、ま、まいった、私の負けだ。」
しかし、俺の一世一代のハッタリはエリシスには効いたようであっさり降参してしまった。
勝ったら俺の言うことを何でも一つ聞いてくれる約束だったよな?
エリシスをパーティに移籍させるとかありかな?かな?
「じゃあ、エリシスは今から、うちのパーティメンバーになってくれ。」
「いや‥‥‥‥何でもと言ったがそんなことはパーティメンバーの了解を取ってないし、、、」
俺の意見に難色を示すエリシス。
そりゃ、こんな初心者パーティに入るのはイヤだろうがこちらも必死だ。
正直に言うとイオリと2人で冒険者をやるとなると、近い内に命を落としてしまいそうな気がしているんだよ。
「決闘にまけてからあれこれ言うなんてルール違反だとは思わないか?それは騎士道に反するよ。君はその程度の覚悟で人に決闘を申し込むような半端者ってことなのか?」
うん、勝ったら何言っても許されるって訳じゃないけど、意外と彼女は押しに弱いことが決闘を始める際のやり取りでわかっていたので、とにかく押しまくることにした。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥騎士道‥‥‥確かに、、、、。すまない、エイジ、シス、私はこのパーティに入ることにする。今までありがとう。」
エリシス城があっさり陥落した。
その後、エイジやシスと一悶着があったのだが、先程のレーザーを見て心底恐怖を感じたのか俺が脅すと最後は諦めてくれた。
レーザーのお陰で直接ケンカを売る者はいないが、俺の評判は益々悪くなってしまった気がするんだが、、
しかし、悪いことばかりではないよな。
2人目の仲間がパーティに加わったんだから。しかも、美人だし。うん、美人だし。
大事なことなので二回、、、、つづく