初めての妹ちゃん
今回は主人公は出てきません。
あと、一回目の登場人物紹介から、かなりキャラが増えたので近いうちにキャラ紹介したいと思います。
「お前か?まぁ、ちょっと家柄と見た目がいいだけのつまらなそうなオンナだな。まぁ、オヤジの言いつけだ、結婚はしてやるよ。まぁ、愛人はオッケーって条件だからしょうがなくだけどな。こんな辛気臭い顔を毎日見ないといけないなんてちょっとした罰ゲームだな。」
許嫁は私を見下しながらそんなことを言った。そう、よくある政略結婚ってやつだ。
私は死んだ目をしながらそれに頷くのが
精一杯だった。
「‥つまらないな。そろそろ、帰るわ、オンナ待たせてるし。あとはなんかうまく誤魔化してくれよな。こ、ん、や、く、しゃ、さん。」
私はそんなふざけた態度をとる婚約者に対して表情も変えずに頷いた。
逆らったところで状況がわるくなるだけだから、私は自己主張することをやめてしまったんだよね。
胸が痛い。ココロが痛いとかそんなセンチメンタルな理由ではなく誰かに殴打されているような痛みだ、、、それでようやく覚醒してきた。
あっ、夢だったの?夢というかほとんど回想シーンに近いけど、、、とにかく現実でなかったことに感謝して目を開けた。
目の前には振り上げた拳が見えた。
仰向けに寝ていた私は地面を転がり、そのまま振り下ろされた拳を避けた。
「起きた?早くお兄の居場所を吐いてくれない?」
先程拳を振り下ろした少女は無表情でそう言った。私は以前の無表情な自分を思い出し、レスポンスが遅れた。その間にまた少女は拳を振り上げた。
「ちょ、ちょっと、、、ちょっと待って。質問に答えるから拳を下ろしてくれないかな?」
私がそう言うと、彼女は私の胸に拳を振り下ろした。
「グッ、、、痛った〜い。違う、そういう意味じゃないよ。お兄って誰なの?」
誰が自分の胸に拳を振り下ろすようにたのむのよ。常識から考えてわかるでしょ。
私は心の中で少女に対して悪態をつきながらも彼女に疑問をぶつけた。
「シンヤ兄のことだよ」
尚も、心のなかで悪態を吐いていた私だけどシンヤ君の名前が出てきたところであらためて彼女の顔を見た。
ツインテールで目元にホクロがあり、シンヤ君とちがって大きな瞳。しかし、その瞳は今不安で揺れていた。
うん、間違いなくシンヤ君の妹さんだよね。
なんで、こんなところに?
「一緒に旅してたけど、さっきはぐれちゃった。一緒に探してくれるかな?」
私は上半身を起こし彼女に右手を差し出した。
しかし、彼女はプイッと横を向いて呟く。
「よろしく」
意外とテレ屋さんなのかな?
とにかくそのままイオリちゃん含めて3人で先に進むことにした。
しかし、少し歩くと岩のような魔獣が複数あらわれた。
‥‥ガルムを呼ばないと。
一瞬躊躇している間に、妹ちゃんが素手で魔獣に向かっていった。
‥‥1分も経たない内に魔獣は全滅していた。
女の子なのにまさかの脳筋スキル?
全て正面から堂々と素手で魔獣を打ち倒していた。
「強いね。さすが冒険者狩りと呼ばれてただけのことはあるよね。」
私が考えなしに褒めると、妹とちゃんの顔が曇った。
「‥‥ナニソレ?イミワカンナイ」
「なにそれ?って、冒険者を狩ってたよね?そして、シンヤクンのこと聞きまわってたんだよね?妹ちゃん、結構有名になってるよ。」
私はありのままを説明したけど、、、ホントに知らなかったの?
「えっ、もしかしてシンヤ兄も知ってる?ウソだ?だ、大丈夫だよ、私、変装してたもん。」
妹ちゃんは目にいっぱいの涙を溜めて俯きがちにそう言ったけど、どうしよ?
「うん、たぶんシンヤ君ならまだ気付いてないし、私もいっしょに誤魔化してあげる。」
妹ちゃんの頭を撫でながらとにかく励ますと、なんとか落ち着いてくれた。
う〜〜〜ん、愛されてるね、シンヤ君。
暫くして、私達はまた歩き出した。
‥‥どうしよっか?
暫く歩くと、まさかの行き止まりだったので、私は途方に暮れてしまった。
「妹ちゃん、行き止まりだね。どうしたらいいと思う?」
「壁をぶち破る?」
可愛く首を傾げながら言う妹ちゃんはすごく可愛かったけど、ちょっと私の予想よりはちょっと悪夢寄りな答えだったよ。
まさか、戦闘スタイル同様に脳筋なのかな?
「うーん、いい考えだと思うけど、、下手にぶち破ると、さっきみたいにダンジョン自体がくずれるかもしれないからここは引き返‥‥えっ?」
しかし、やっぱり妹ちゃんは只者ではなかった。
彼女が壁に掌底を放つと、壁にキレイな真四角の入り口が出来た。私の背よりは低いけど少し屈めば進めそう。というか、そんなにドンドン先に進まないでよ。まだ、イオリちゃんがフラフラなんだから。
私とイオリちゃんは必死で妹ちゃんを追いかけて入り口へ入っていった。
「アヤ殿、大丈夫なのか?」
アヤ殿は右足首を捻ってしまったらしく、少し歩き方がおかしかった。
肩を貸したり、負ぶって行きたかったが、敵や魔獣にいつ襲われるかわからない。
もどかしい気分で、アヤ殿を見ながら先に進むことにした。
暫く歩くと、魔獣、煉獄の騎士が三体あらわれた。
戦うのは初めてだが、、恐らく‥‥相当強敵だ。
私はまた狂人化を発動する。
まだ私は第1段階しか扱いきれないが、狂人化は全部で第4段階まである。
第1段階、目が紅に煌る。身体能力が向上するが、理性の働きが弱まる。
第2段階、爪が鋭くなる。
感覚や反応速度が常人より良くなる。
第3段階、銀髪になる。
身体能力が更に向上。体幹、剣技、歩法の最適化が行える。
第4段階、???
ここまでいくと、もう引き換えせないと言われている。
やはり煉獄の騎士は中々手強い。
囲まれないように動き回り、相手を撹乱する。そして、鎧と鎧の間を狙って一撃を浴びせる。しかし、一撃では沈まない。しかも、煉獄の騎士に刺した剣が抜けない。
その隙を見逃すほど相手は甘くはなかった。
残る二体が左右から上段からの振り下ろしの攻撃をしてくる。
「うぁ〜〜」
私は剣に刺さった煉獄の騎士ごと剣を振り回した。
上段に構えていた二体とも胴体は隙だらけで攻撃を受けて吹っ飛ばされた。
そのまま、その内一体に向かって腰に差していた小太刀を振るう。
そのまま煉獄の騎士は消滅した。
残りの二体も片付けると私はひと息ついた。
「ふぅ〜〜。カンタンなものではないな、狂人化の制御というのは。」
本日2回目の強靭化により、私は立っているのもやっとな程疲労困憊していた。
マズイ‥‥、このままではもたない。
‥どうする?
このまま死ぬつもりはない。
でも、次も煉獄の騎士クラスの魔獣が現れたら、、、
「無理したらあかんよ。ウチもおるんやから2人で頑張って行こうなぁ。」
絶望している私にアヤ殿は朗らかに笑い励ました。
「‥アヤ殿と一緒にみんなとはぐれたのは幸運だったのかもしれないな。アヤ殿の前向きさにはいつも救われる。」
私の絶望はいつの間にか消え失せていた。
そして、私達は並んで歩き出した。




