初めてのペンダント
「またお手柄でしたね。それにしてもシンヤさんのパーティーはよくトラブルに巻き込まれるパーティですよね。」
ダンジョンの入り口に戻ってきたシンヤ達に向かっていつものポニーテール職員は苦笑しながらそう言う。
彼女の言う通りだ、俺はちょっと異世界のダンジョンを楽しんでみたかっただけなのに。
二度もヤバイ思いをしたよ。
やっぱり一番怖いのは魔獣ではなく、ニンゲンってことなのかな?
それにしても、『冒険者殺し』との戦いは結局二回ともコトハさん頼みでなんとかなったよな。
やっぱりお礼に何か買ってあげたりした方がいいかな?かな?
パーティの士気を高めるのもリーダーの役目だと聞いたことがある。
「皆、今日はもう解散だからそれぞれ好きに過ごしていいよ。あと、コトハさん、この後、疲れてなかったら用事に付き合ってくれない?」
俺はさりげなくコトハさんと二人きりになれるシチュエーションを作ることにした。
「うん、別に構わないけどね。もしかして、カモーン海峡の情報でも集めるの?それとも、また連れ込み宿でも行く?」
コトハさんが冗談めかして言うと、他のみんなが笑った。
しかし、誰の目も笑っていない。
ホントにこの手の冗談はシャレにならないからやめて欲しいんだけどね、、、
‥ADVゲームで、なにか決定的な選択肢を間違えてしまったような感覚だった。
リセットボタンを押すしか挽回の余地は無いかもしれない。
「諜報関係はやっぱりコトハさんが得意だろ?エリシスやイオリに出来るとは思えないんだけど。」
俺は微笑んで伝えるが、もちろんウソだ。
たぶん、コトハさんにはバレバレだろうけどね。
しかし、2人はやはり諜報関係は苦手意識があるようで俺から視線を逸らしていた。
そうして、なんとかコトハさんと2人でお出かけすることができた。
「ところで何処にいくの?」
そう俺に話し掛けながら俺の腕に絡みついてくる。あれ?胸当たってるんだけど、、
やっぱりワザとなんだろうな。相変わらずあざとい。
「あの、何で腕くんでるの?」
俺が戸惑いながら言うと
「えっ?デートでしょ?一応?ドキドキしてもらえるかと思って。」
イタズラっぽい笑みを浮かべていかにもあざとい感じに見える。
しかし、彼女と密着しているせいで彼女の鼓動の音が丸分かりなんだよ。
彼女の鼓動はまるで100メートルを全力疾走した後みたいに早かった。
もしかして、コトハさんも実はドキドキしてた?
‥‥ということは、からかっているような素振りは実は演技なのかな?
演技だとしたらアカデミー賞ものだよ。
現在進行形でやはり彼女は何でもないような顔をしている。
「なぁ、コトハさん。」
ちょっと質問したくて問いかけた。
「なに?私に惚れた?」
コトハさんからはちょっと予想外の答えが返ってきた。相変わらず手強い。
「そうじゃなくて、なんでそんなに心臓の鼓動が早いの?」
「えっ?えーっ?あっ、うん。わ、わかっちゃった?こういうのって思ったより照れるよね」
コトハさんはイタズラがバレた子供のように舌を少し出してそう答える。
コトハさんにしては子供っぽい仕草だ。
少し照れくさいのを誤魔化しているようにも見える。
「コトハさんは平気なんだと思ってたよ。」
「平気なわけないよ。男の子とこんなにくっつくのは初めてなんだし。それに‥」
途中からはコトハさんにしては珍しくゴニョゴニョ言っていてよくわからなかった。
「えっ?これ?本当に私に買ってくれるの?なんか意外だったよ〜。サプライズとか苦手そうなキャラなのに。」
俺が魔法具店で魔法耐性防具のエレメンタルペンダントを買ってプレゼントしたら、何故かディスられた。
「あれ?もしかして、センスなかった?」
「あっ、デザインは結構いいと思うけどチェーンが長いから、、、、ほら、つけても外から見えないでしょ?」
コトハさんはペンダントを付けながら説明してくれた。
「確かに見えないな。ブフォ‥‥ゴホッ、ゴホッ。」
俺が噎せた意味がわからないから説明すると、コトハさんがペンダントを付けた状態でペンダントを服の中にいれてたんだよ。
そして、ペンダントの位置を教えようと少し前屈みぎみになって服の首元を引っ張って俺に見せたんだよ。
お、お、お〜お椀型?
「あっ、ごめんね。ちょっと浮かれてて、、注意を払うの忘れてたよ。お粗末様でした。」
相当恥ずかしかったみたいで、コトハさんにしては珍しく耳まで真っ赤だ。
「‥‥結構なお手前で。」
俺は真顔でそう言うしかなかったよ‥‥
「ところで、コトハさん。ついでにちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?」
少しコトハさんのテンションが落ち着いた頃、俺は近くのカフェを指差しながらコトハさんを誘った。
カフェに入って聞いてみる。
「正直な話なんだけど、俺がリーダーでいいのかなって思うことが多いんだよな。前回の『冒険者殺し』の二回の戦闘も、ほとんどコトハさんのお陰でなんとかなっただけだと思っているし。皮肉とかじゃなくホントに感謝してるからこそ、コトハさんがリーダーやるべきだと思うんだよ。」
「はぁ〜〜、シンヤ君は何も分かってないんだね。私がリーダーやって、こんなにパーティーがまとまるわけないじゃない。私はシンヤ君がリーダーだからこのパーティーに居るんだよ。イオリちゃんでも、エリシスさんでもアヤでもなくね。そして、他の娘も一緒だと思うよ。もっと自信もって。作戦が練りたければ私も一緒に考えるし、ピンチな時は皆んなで頑張って行けばいいと思うから。」
コトハさんは深いため息をついたかと思うと一気に話を続けたが、不意に会話中に静寂が訪れる。
そしてコトハさんは再度気持ちを込めて言った。
「1人で抱え込もうとしないで。皆、シンヤ君の力になりたいと思ってるからね。」
「‥ありがとう。相談のお礼って訳じゃないけど、何処か行きたいとこある?あったらなんでも付き合うから気軽に言ってよ。」
俺がそう言うと、コトハさんに夜まで散々付き合わされた。
しっかし、買い物とか露店で買い食いとかインドア派の俺にとってそんなに楽しいとは思わないハズなのに、珍しく『楽しいオーラ全開』のコトハさんと過ごすのは俺にとっても楽しい時間になったよ。
翌朝とうとう勇者隊と合流して、カモーン海峡を目指す旅へ出発だ。
そう思うとやはり寝付けなかった。
場所は変わってカモーン海峡付近のナサの森。そこに異形の姿をした異世界人が1人で佇んでいた。
また、ハズレだった。いつになれば見つかる?もし、死んでたら?
それともあの 色ボケ女神にウソの居場所を教えられた?
もしそうだとしたら、八つ裂きにしてあげても足りないくらいだ、、、
とにかく、地道に聞き込みを続けるしかない、、、
異世界人はそのまま歩いてカモーン海峡をめざしていくのだった。




