初めての斬首祭り
全然カモーン海峡編まで進みません。
ちなみにカモーン海峡編はややシリアスですがお付き合い下さい。
目が覚めると全てが終わっていた。
主に俺の社会的信用とか積み上げてきたパーティーメンバーとの信頼関係とかね。
「ということは、レイさんはこの暴漢に胸を揉みしだかれて、襲われかけたということか?大変な思いをしたな。罪人はここにいるがどんな刑をお望みだ?」
冒険者のギルドマスターらしき人物が、レイとはなしている。
ここはどこだ?
体が動かない。
「身も心も凍る思いをしたのです。もちろん極刑を」
レイが自らをかき抱く仕草をしながらそう告げた。
「そうか?本当に辛い思いをしたのだな。
わかった。斬首の刑を行おう。任せておけ、ギルドをあげて大々的に斬首祭りと行こうではないか?」
ギルド長がそんなセリフを吐いた。
すると周りの冒険者やギルド職員は声を上げた。
「斬首祭りの始まりだぁ〜」
「斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首」
皆んながひたすら斬首を連呼し、ボルテージが最大に達したところで目が覚めた。
うわぁ〜、今時夢オチとか?ないわぁ〜。
俺が最悪な気分で目を開けると目の前にアヤが居た。
目を開けた瞬間は能天気なアヤには似つかわしくない不安そうな顔をしていたが、すぐに破顔した。
うん、やっぱりアヤには何にも悩みがないような無邪気な笑顔がよく似合うな。
「シンヤ、気分はどうなん?頭痛かったり気持ち悪かったりせぇへん?なにかしてほしいこととかないん?」
アヤはやたら心配そうに顔を覗き込んでくる。ちょっと視線を下に向けると物凄く谷間が見えるんだけど、、、して欲しいことってそういう関係のものじゃダメかな?
「特に体が痛いとか気分が悪いなんてこともないよ。なんで、そんなに心配してくるの?」
うん、強いて挙げるならちょっと体がダルいくらいのものか?
「あぁ、シンヤは知らないんよなぁ。シンヤは1週間も寝込んでたんやよ」
えっ?1週間?
「えっ?そんなわけないだろ?アヤの冗談はいつも面白くないんだよな。」
俺がそう呟くと
「えっ?冗談じゃ、ないんやけどなぁ」
と言いながらアヤが顔を近づけてきたよ。
もしかして、キスでもするの?
思わず目を閉じた。
‥‥‥額に、、、、アヤの額が当てられていた。これはこれで照れるけどちょっと期待外れ感もあるなぁ。
「熱はないんやなぁ?大丈夫なん?」
アヤはそう言いながら心配そうな顔で俺の顔を覗き込む。うん、照れてるのは俺だけだったよ。
その後は大変だったよ。
アヤが皆んなを呼んできて、イオリが俺に抱きついて離れないし、エリシスは『本当に大丈夫なのか?』と、何度も聞いてくるしね。『斬首、斬首』と連呼されるよりはマシと言えばマシだけど。
まぁ、その中で一番精神的にキたのが、コトハさんが遠巻きに冷めた目でその様子を伺っていたことだ。
まだ、怒っているの?
1週間も寝てたってことはかなり前の話なのに。
結局、その時はコトハさんとは一言も言葉を交わさなかった。そして、明日朝からまたダンジョンに潜ることにして今日はもう解散した。
あと、エリシスから説明を受けたが、レイは無事ギルドに引き渡されたらしい。
特に斬首祭りが行われることもないらしいから少し安心したよ。
賞金は金貨が3枚もでたので皆んなで山分けすることにした。
エリシスは固辞していたが、山分けがこのパーティのルールだということを何度も説明したら納得してくれたよ。
うーん、それにしてもご飯ももう食べたからすることがないんだよな。
明日に備えて今日はゆっくり寝るか?
いや、でも、この街にはちょっと男にとっては物凄くいい店があるらしいんだよな。
問題は目の前にはイオリが居て俺の前を離れるつもりはないらしいってこと。
「イオリ、トイレ行ってくるから部屋で待ってて。すぐ戻ってくるから」
そう言って俺は部屋からでた。
うん、より分かりやすく言うとイオリから逃げたとも言うけどね。
俺はまずは酒場で情報を集めてからそういう店に行くことにした。
ちょっとドキドキするよな。
しかし、扉を出て隣の部屋の前に来た時に
「それはコトハ殿が悪い訳ではないだろう?
なぜ罪悪感を感じているんだ?それではコトハ殿があまりにも報われない」
エリシスの声が聞こえた。
扉が薄いのかな?割と丸聞こえだな、、、、この宿。
俺は男らしく堂々と扉に耳を当てて盗み聞きすることにした。
「いや、でも、、、結果的にはシンヤクンをオトリにして敵を騙してしまった訳だから、、顔向けできないよ」
コトハさんが話しているのはレイが言ってたことだよな。誰も彼もコトハさんの掌で踊ってたって話。
でも、実際コトハさんのおかげでイオリを失わずに済んだんだよな。
そう言えばまだお礼をいってなかったな。
「でも、お陰で勝てたのだから気にする必要はないと思うが。それに、シンヤ殿がそんなに器の小さな人物に見えるか?」
道端でガムを踏みつけてしまったら舌打ち連打する位の器の小ささだとは自覚してるけどね。
「うーん、小さいとは思わないよ。でも、オトコノコっていうのはプライドが大事なんだから、あんなことしたらシンヤ君のプライド傷付けちゃったよね。だからホントは気が進まなかったの」
あぁ〜、コトハさんはそんなこと考えてたの?気にする必要ないのに。
「そういうものなのか?それにしてもコトハ殿は本当にシンヤ殿のことが好きなのだなぁ」
ちょっ、えっ、エリシスさん、なに言ってくれちゃってるの?
これ、コトハさん、怒るパターンだよね?
「えっ?どうしてそうなるのよ。私、そんなこと言ってないでしょ?」
あれ?怒ってないの?
もしかして、オンナゴコロとあきのなんとかなの?
「コトハ殿はよく気がつく娘だとは思うのだけど、ここまで気持ちを入れて接しているのはシンヤ殿に対してだけではないかな?」
えっ?あれ?エリシスさん
まだ深く突っ込んじゃうの?
俺は《よくもまぁ、地雷源を平気な口調で突っ切っていけるよな?》なんてエリシスの勇者っぷりに感心していた。
「‥‥エリシスって私の事よ‥‥てるよね。あの‥‥‥‥だからね。うん、‥‥だけの‥‥。エリシス、わかった?」
えっ?どういうことだ。
俺、何か肝心なことを聞き逃してしまった。
考えがまとまらないでいると、背後で気配がした。
そして、耳元で
「シンヤ様、何していると思うの?」
イオリが囁いた。
あっ?
今の俺の体勢だけど、、、
コトハさんたちの部屋に耳を付けた、最新の《盗み聞きポーズ》だったよ。
不審者のポーズとも言うね。ヨガのポーズとかなんかでありそうでしょ?
俺はそのまま無言でイオリの肩を抱いて部屋まで連れて戻ってきた。
うん、かなり格好悪いところを見られてしまったな。とりあえず言い訳から入ろう。
「イオリ、さっきは急に体調が悪くなってしまったんだ。だから、ドアにもたれかかって気分が良くなるまでジィーッと休んでたんだよ」
俺が笑顔で言い訳をした。
しかし、イオリは俺をベッドに寝かせて髪を優しく撫でながら、「言い訳しなくてもイオリはいつでもシンヤ様の味方だと思うの」
なんて言うので言い訳はバレバレだったようだ。
まぁ、そういうこともあり、残念ながらイオリの監視がアルカトラズばりに厳しくなってしまった。
今日は諦めて大人しくしていることになったよ。
そして、翌日またダンジョンの前まで来ていた。
今回は狙撃犯も居なくなったし一気に地下10階層まで攻略だ。
つづく




