初めての落とし穴
あれ?様子がおかしい?
なんなんだこれ?
俺達は城の門をくぐり、目の前に広がる光景を見て呆然としていた。
目の前にはむき出しになった大きな落とし穴や、作動した後にしか見えない落とし天井がその役目を終えて転がっている。
弓矢の出る仕掛けの罠が作動した後なのか?壁に矢が刺さっている。しかも、石の壁にだよ。
「うん、、、これは不可解だね。もしかしたら、私達以外にもここに乗り込んだものが居たんだろうか?」
レンは顎に手を当てて考えている。
自分の考察に納得がいっていないような様子だ。
「皆、気を付けて進もうな。まだ作動していない罠があるかもしれないし。」
俺はパーティーメンバーに声を掛けたけど確かに腑に落ちない。
あと、エリシスの様子がおかしいんだよ、何か小声でブツブツ呟いているんだけど、、、もしかして、騎士からヤンデレにクラスチェンジでもしたんだろうか?
「ほんまなんなんやろうなぁ?これ?シンヤは分かるん?」
アヤがオレに尋ねた時、城の奥で何か大きなものが落ちたようで大きな音が響いた。
「ふむ、まさか、そんなことがありうるのか?仮にも魔王の配下が管理している城なんだぞ」
エリシスの今度の呟きは聞こえた。
けど、意味がわからない。
いや、たぶん彼女自身相手に伝える為に出た言葉ではないのだろう。
「橋本くん、君はどっちだと思う?」
レンがそう話しかけてきたけど、俺はそもそもその二つの選択肢がわからなかったよ。
「悪い、今回はさっぱり予想がつかないよ。
レン、説明してくれないか?」
「そうか、橋本くんでもわからなかったんだね。現象だけ見れば、誰かが罠を発動させ続けながら奥へ進んでいるということだけどこれはわかるかな?」
とレンはサルにでも分かるように丁寧に説明を始めたよ。もちろん、城の奥へ向かいながらだ。
しかし、魔獣は待ってくれなかった。
現れた魔獣は巨体なニンゲンのように見えるが、よく見ると凶暴そうな顔をしている。
それに、恐らく体長三メートルは超えているだろう。
それが左右の部屋から三体も出てくれば威圧感は相当なものだ。
「トロルだね。今回はシンヤくん達の番だから頼んだよ」
そう言ってレンと他の勇者隊の面々が後ろに下がる。
「ターゲットオン」
アヤがそう叫ぶと、無数の光の玉が敵に降り注ぐ。しかも、その全てが魔獣に命中していた。
三体ともフラフラふらついているが倒せていない。
コトハさんが呼び出したガルムがトロルの喉笛に食いつく。同じ犬っぽいのにけるべろすとは格が違う攻撃だよ。
まぁ、ガルムは俺より全然大きいんだけどね。ガルムとは厳密にちがうけどフェンリルみたいな魔獣って言えばイメージがつくだろうか?
本当に頼りになるよ。
そして、そのまま一体を倒した。
残りの2体だけど俺とエリシスで各々1体ずつなんとか相手をしていた。
たぶん、一撃食らえば死ぬと思う。
でも、トロルの動きが鈍いのでなんとかかわせている状態だよ。しかも、弱っている今に叩けないと相手が回復してしまうので気持ちはあせるけどこちらも攻撃は出来ていない。
エリシスはトロルの大振りな攻撃に合わせてカウンターに5連撃を打ち込んでいる。
俺もそれを真似て大振りの攻撃に合わせて攻撃を当てていく。
しかし、勝つのには時間がかかりそうだな。
しかも万が一攻撃を受けたらたぶん即死なんだよな。慎重にもなるよ。
し〜に〜た〜くないよ〜
俺がチマチマ攻撃しているとたまたま上手くトロルの足元を掬い上げる形となりトロルがふらついてそのまま後ろ向きに転倒した。
その際に『カチッ』っという音がしたかと思うとトロルに無数の矢が降り注ぎ、トロルは絶命した。
わ、罠が残ってたのか?
俺が踏まなくてよかったよ、、、
近くではエリシスがトロルを倒したみたいで相手をしていたトロルの瞳から光が消えたと思うと、そのまま消滅した。
「皆んな無事で良かったよ。」
うん、切り札は一枚しかない上にその切り札も一か八なんだよな。気軽に使えないし、こんな相手でも結構キツイ。
それに、もう全裸とか嫌なんだよ。
今時、若手芸人でもこんなに脱がないよ。
「この程度の相手、当然だな。」
エリシスはクールにそう答えるが、コトハさんが俺の所に駆け寄ってくるのが見える。
「イェーイ、やったねぇ。私達今日も連携バッチリだね。」
わざわざ、ハイタッチをしに来たよ。
まぁ、みんな無傷なのはいいことなのかな?
それから、何回か戦闘があり、俺は中断したレンとの会話をすっかり忘れていた。
そして、城の奥までもう少しというところで、いきなり大声が聞こえた。あれ?どこから聞こえたのか一瞬分からなかったよ。
俺がキョロキョロ声の主を探していると、またも声が聞こえてきた。
「ちょっとそこの兄さん助けてくれないか、ほんとに頼む。」
前方のむき出しの落とし穴から声が聞こえてきているようだ。そこまで駆け寄ると落とし穴に半分以上落ちかかっている銀髪のワイルド系の男がいた。分かりやすく言うとムキムキだ。
たぶん小指一本で耐えている。
俺なんて小指を使ったのはイオリとの指切りくらいのものだよ、全体重を支えるってバケモノか?
「え〜と?助けるといくらくれるの?」
俺がそう質問する。
「すまん、俺は魔王軍だからニンゲンの金はわからんが財宝ならもってるからそれをやろう。」
彼の指も限界らしくプルプルしだした。
でも明らかに人間の能力を超えてるし、魔王軍なんだよな?
もうちょっと探ってみるか?
「サイスとの関係はどんな感じなの?なんで、自分達の城の罠にかかってるの?」
「俺がそのサイスだよ。仕掛けを止める制御は一番奥の魔王軍団長の間でしか出来ないんだ。
それをすっかり忘れて城の外に出ちゃったから、魔王軍団長の間まで全速力で走り抜けようとしたんだ。
しかし、落とし穴に、、、、、、早く助けてくれ」
‥‥‥こいつ馬鹿なのか?
馬鹿なんだよな?
俺は思いっきり足を振り上げた。
「君、ここは助けて好感度UPのシチュエーションだろ?ウソだろ、、やめ、、やめてくれ〜〜〜」
サイスは訳のわからないことを言っていたが完全に無視した。そして、俺が彼の小指向けて踵を振り下ろすと、サイスは底の見えない落とし穴に落ちていった。
「完、全、勝、利!」
俺は勝利の雄叫びをあげた。




