初めての空中散歩
「あの?シンヤ様、なにかあったの?」
イオリは寝起きで少しボーッとしながら少し首を傾げて不思議そうに尋ねた。
やだ、なにこれ?カワイイ!
「目覚めなかったんだよ。吐血して倒れてから、、覚えてないの?」
「あっ、あいつらはどこ?」
イオリはようやく意識がハッキリしたらしく、目に怒りの色が宿ったとおもったらカバッと起き上がった。
「あ〜、裏切ってない方の騎士達に連れられてヌエベに向かってるよ。賞金首だったらしいよ、あいつら。
ごめんな、仇、取りたかったんだろ?」
「あれ?知ってたの?と思うの」
俺の言葉にイオリは目をまん丸に大きくして驚いていた。
「あんなに命懸けならいくら俺でも想像はつくよ、本当にごめんな。村に着く前から様子がおかしかったのに。でも、イオリが復讐鬼になるところなんて俺が見たくなかったんだよ。だから生け捕りにしたんだけど、ほんとにごめん。」
俺はイオリに頭頂部が見えるくらいに頭を下げた。俺のエゴを押し付けただけかもしれなかったんだよな。
「‥‥少し1人にして欲しいと思うの。頭の中がごちゃごちゃなの」
その言葉ももっともだよな、、
俺はイオリを気遣ってその空き家を後にした。
恐らくイオリの両親を殺したのはあいつらだったんだろ?
俺のしたことは正しかったのか?
そんなことはわからない、、、
でも、これからやるべきことなら決まってる。
イオリとずっと一緒に居る。
絶対1人にしない。
俺は頭が良くないし、気が回る方でもない。
ホントに悔しいけどそれしか思いつかないんだよな
「シ〜ン〜ヤ〜クン、遊びましょ〜」
『いきなり、アヤが猛ダッシュで近づいてきてそのまま俺に抱きつく。』なんて表現したらちょっと羨ましかったりするでしょ?
テストには出ないけど、みんな覚えておくといいよ。
現実は無情なものなんだよ、、、、夢も希望も俺とはお友達になりたくないらしい。
実際はアヤの見事なタックルが決まって、俺は後ろ向きに倒れた。そのせいで俺は後頭部を地面に打ち付けていた。
「ちょっとアヤさん、そこに正座なさい。」
俺はあおむけに倒れたまま姑のような口調でアヤを正座させる。
説教モード突入だ。
しかし、彼女は俺の言葉を無視して、今度こそは俺に抱きつき、耳元で囁く。
「ズルい。」
は??
何言ってんの??
アヤってばとうとう壊れたの?
叩けば直るかな?
「イオリとシンヤ、二人きりやないんよ。なんで二人だけの重い空気作ってんのん?」
‥‥あっ?
アヤの言葉が俺の身体に染み渡るのに随分時間がかかったけど、流石に彼女の言いたいことはちゃんと伝わった。
『俺たちは仲間なんだからこれは俺1人で抱える問題じゃない』ってことなんだよな。
それにしても、幼なじみじゃなかったらあの発言だけじゃわからなかったよ。
『言葉を省き過ぎだろ?』って思ったけど、実際はこれ以上の言葉は俺とアヤには蛇足だっただろう。
「ありがとう、アヤ。」
思わずこぼれた言葉には嘘偽りの無い感謝の念が確かに篭っていた。
「‥‥そんな澄んだ目で言うのズルいわ。」
しかし、アヤは何故か赤面しながら、そんなことを言うのだった。
「そういえばあのスキルは、なんやったのん?」
あ〜、敵を騙したスキルの事をきいてるんだよな?
「あ〜、幻術系スキルだよ。たまたまあの時だけ使えたんだけどね。」
「そっかぁ?シンヤがあんな格好したのも幻術かとおもってんけどなぁ。。。ンッ」
アヤは一瞬笑いかけてなんとか堪えていた。
そう言えば‥‥俺のドレス姿、アヤには見られてたな‥‥
この村には針と糸って売ってたかな?
売ってたら他のメンバーに話さないようにアヤの口を縫い付けよう。
ぁあ、レンのようなイケメンならキスで口を塞ぐとか言えるんだろうな?
‥‥‥あれ?
「なんでコトハさんは木の陰から少しだけ顔をのぞかせてワザとらしく俺たちを見てるんだ?」
俺はコトハさんに向かって問いかけた、、のが間違いだったかもしれないよ。
「あっ、、私がいくら可愛いからって、そんなに見つめられたら照れるよ。
でも、まぁ、私が可愛いから仕方ないかな?
ホントは2人がいい雰囲気だったから邪魔したくなかったんだけどね。
もしかして、ここからズット私のターン?」
コトハさんは俺たちに近づきながら、いきなりダダッーと話し始めた。
もしかして、結構前からあの体勢でスタンバってた?だとしたら結構惨めだよな。ちょっと同情の気持ちも湧いてきた。
でも、妹の楓に聞いたところによるとオンナノコは甘やかし過ぎると何処までも付け上がる生き物らしい。ここテストに出るからね。
「いや、訳わかんないよね」
楓の忠告に従ってとりあえず厳しく突き放す。
そうそう、そう言えば獅子は我が子を谷底に突き落とすとかいうもんな。
まぁ、俺は獅子でもコトハさんは子でもないんだけどね。
「そぅ?ところで、私ともお話してくれないかな?」
コトハさんはやはり谷底から這い上がってくる方の獅子だったようで、全然めげる様子はなかったよ。
「いいよ、アメリカ大統領と世界経済の関係について朝まで語り合おうではないか?」
俺は精一杯ボケてみたのだが、、、慣れないことはしないほうが良かったよ。
「そうだね、本当にごめんね。」
なぜかコトハが謝罪した。
「なんで謝るんだよ?このタイミングで謝られたら俺が単なる可哀想な子みたいになるじゃないか。」
俺に拙いボケを強要して謝られてるみたいになっているじゃないか?
「フフフッ、そうだね。でも、謝ったのは盗賊騒ぎの時のことだよ。シンヤクンとイオリちゃんだけに頑張らせてしまって。」
少しだけコトハさんの瞳の光が揺らぐ。
そんなことを気に病んでいたなんてな。
俺なんて常日頃役に立っていなくても全く気にしていないんだけど。
「仲間なんだからそんなこと言うのは無しにしてくれない?」
魔法が封じられていたんだからコトハさんが、活躍できないのもしょうがなかったよ。
まぁ、コトハさんは俺と違って魔法だけでなく頭脳でも貢献できるからな。
「そうだよね、ありがとう。でも、仲間ならもっとお互い仲間っぽい呼び方の方がいいんじゃない?」
コトハさんはあざとくウィンクをしてそんなことを言う。『この娘って俺のこと好きなんじゃないかな?』なんて勘違いしてしまうからそういう態度は勘弁してほしい。
「そうか?じゃあ、コトハ様?」
「うんうん、良きに計らえ〜。
って余計距離が広がっちゃってるよね。
もう、この際、コトハちゃんとか、ハニーにしちゃおうよ」
これがウワサのオンナゴコロと秋の空か?
もうテンションがストップ高だよ。
「コトハちゃん」
俺は思いきって呼んだんだけど‥‥無反応‥‥怒られるより辛い反応だよ。
それどころかそっぽを向かれてしまった。
もしかして、社交辞令でそう言われただけで普通に『コトハさん』と呼ぶのが正解だったのか?
キモイとか思われてしまったのかもしれない。
「ごめん、間違えたよ、コトハさん。」
俺はすぐに謝ったけど、振り返ったコトハさんはちょっと機嫌がわるそうだった。
「シンヤキュンはオンナゴコロがぜんっぜん、分かってないよっ」
ミュ、ミュージカル??何故かちょっと踊り付きで俺に訴えかけてくる。
「いや、俺も頑張ってるんだけどな。むしろどうやったらオンナゴコロがわかるか教えてくれない?」
もちろん、俺も踊り付きで返す。
「うーん、取り敢えずもう一回女装してくれないかな?私は見れなくてほんと残念だったんだよ」
えっ?オンナゴコロを知るのにこんな方法があったのか?これで俺もモテモテに?
よく雑誌に載ってる開運のブレスレットみたいな効果ってこと?
オマケに宝クジまで当たっちゃったり?
「分かったよ。でも、ドレスが無いよ。」
「大丈夫〜♩ここにバカには見えないドレスがあります。」
まるでそこに本当のドレスがあるような持ち方で俺の方にドレスを掲げて見せる。
もちろん、肝心のドレスは見えないよ。
「イヤイヤ、見えないからね。特にコトハさんがどこに向かおうとしてるかがまったく」
コトハさんだけはホントに異世界デビューにも程があるよ。
クラスでも静かに微笑んでいる印象だったのに。
「おかしいなぁ〜、やっぱり見えない?
‥‥ということは?」
バカって言いたいの?
「いや、、、話し変えるけど、コトハさんは最近何かいいことあった?」
ちょっと不毛な言い争いになりそうだったので、話を変えることにした。
この質問はいいことなさそうな奴には決してしてはいけない質問だけどな。
「う〜ん、あったよ。なんだと思う?
当たったらなんでも一つしてあげるよ」
コトハさんが笑顔でそう言うものだから俺もテンションが上がってきたよ。
「うーん、俺たちのパーティに入れたこととか?」
絶対に違うと思うけど、
『ぜんぜんっ、違うよ。』
『じゃあ、なにか何かヒントくれないかな?ノーヒントはさすがに辛いよ。』
って流れで自然にヒントが貰えそうだ。
さすが俺。策士だね!
「当たり〜。さすがシンヤクンだねぇ。冗談で言ったのに当たっちゃう間の悪さに惚れそうだよ」
クイズ番組で芸人さんがボケたつもりが正解引いた時並みの気まずさ、、、、
うん、ちょっと死にたくなるな、、、、
「コホン、まぁ、それでも正解は正解だしお願いは聞いてもらうぞ。」
ものすごく気まずいので話を早く進めよう。
「え?うん、いいよ。」
コトハさんも特に異論はないらしい。
「本当になんでもいいんだよな?なら、ここはオトコなら絶対お願いしたいあれにするか?アヤにコトハさんの話を聞いた時にいつか絶対お願いしようと思ってたんだよ。」
ユニユニに乗って空をとびたかったんだよな。
そ〜らをじゆうにぃ〜とぉびたいなぁ♩
「えっ?えっ?そうだったの?シンヤクン意外と肉食系男子だったんだね。でも、ホントにいいの?」
何故かコトハさんはもの凄く驚いている。
少し挙動不審なんだけど、もしかしてユニユニは休暇取ってベガスにでも行ってるんだろうか?
「うん、オトコに二言はないよ。コレしかないと思ってるよ」
俺は真っ直ぐにコトハさんを見つめてそう言ってやったよ。
「うーん、、、、、、わかったよ。私も覚悟を決めるよ。」
大袈裟だよな、コトハさんは。
「ありがとう。それでいつするの?はやいほうがいいでしょ?」
俺が早く乗りたいだけだったりするけどな。
「えっ?でもこんな真昼間からするの?
普通夜なんじゃないの?」
コトハさんは何故か戸惑いを隠せないようだ。
そんな変なこと言ったか?
もしかして説明不足?
「そっか?昼の方がよく見えていいとおもうんだけどな。あと、今日は風もあまりないし、適度に風を感じられていいかもしれないな。」
よしっ、これで伝わっただろう?
「え〜〜、よく見るの?それ恥ずかしいよ。
えっ?風を感じる?えっ、えっ、外でするの?」
コトハさんはやっぱりもの凄くイヤそうだったよ。
ん?どゆうこと?
ん、あ〜、よく見るってことは地上にいる人からはよく見られるってことだからな。ユニユニに乗ってたら目立つし、コトハさんは注目されるのとか意外と嫌なんだろうか?
それに、屋内でなんてなかなか出来ないと思うよな。あっ、城内は広いから屋内でユニユニに乗ってたってことか?
「いや、でもユニユニも空を自由に飛び回った方が楽しいと思うよ」
俺はそう説得する。
「‥‥‥‥ユニユニ?‥‥‥あれ?‥‥‥あぁ〜、うんうん、そうだよね。そうだよ、ユニユニは昼間に空を自由に飛び回ったほうがいいよね。いいよ、乗せてあげるよ。」
そう答えたコトハさんの顔は何故か真っ赤だった。
このあとユニユニに乗って、メチャクチャ飛び回ったよ。
死ぬ〜、死んじゃう〜。って何回思ったことか。
ちょっと分かりにくかったかもしれません。
感想とか頂けると本当に幸いです。




