初めての花火
イオリは目の前に居て今まさに吐血して苦しんでいる。
しかし、背中をさすってあげる余裕はなかったよ。
なぜって?
敵も『俺たちの中で一番脅威なのはイオリ』だと気付いてしまったからだ。
イオリに向かって押し寄せる敵をなんとか食い止めないとマズイ。
「皆、ここで食い止めるぞ。」
だから、レンには悪いけどここは指揮をとらせて貰うことにした。
しかし、勇者隊のメンバーの中で俺の指示に従う者はいなかった。
うわ〜カリスマ性とかゼロだったよ俺、忘れてたわ。
もちろん、ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ‥などと割れるような歓声が起こることもなかったよ。
どうしよう?
「前衛皆んなで後衛を守ってくれ。あと、魔法主体の人達はとにかく後ろに下がってくれないか。」
しかし、俺の意図に気付いたレンが勇者隊のメンバーに指示を出してくれる。
本当に空気の読める奴だ。
俺とは大違い、、、
他のメンバーを見渡してみると、騎士達が戦っているのが目に入った。あの4人は何とか耐えてくれているけど、身を守るので精一杯のように見える。
というのも本来、彼らはタダの監視役なんだよなぁ。若いお兄さん達が多い。もしかして、貴族の子弟か何かだろうか?
しかし、理由は恐らくそれだけではないと思う。盗賊の残った五人組もかなり戦い慣れしているんだよな。
信じられないことにヤマトが敵二人がかりで押されている。とはいえ、ヤマトはさっきまでの勢いはどうしたんだよ?
まったく、剣にも盾にもなれん奴だ、、、よ
一方、俺とエリシス二人がかりで敵のリーダーの対応をしているけど、、敵の二刀流にむしろ押されてきていた。
あいつは完全にイオリ狙いだからここを抜かれるとイオリがやられてしまうし、俺たちも必死で戦っているんだけど相当のやり手みたいだ。
そろそろ切り札を使うしかないのか?
そんなに頻繁に使うと最早切り札でもなんでもない気がするけど、、、、
迷ったのがまずかった。一瞬集中力を欠いた時を狙われてしまった、、
俺は右手に持っていたチョーヤバい剣を弾かれた。
そして、無防備となった右側を敵は体当たりしながら走り抜けた。
気付いた時すでに走り抜けられていた。
万事休すだ。イオリが殺られてしまう。
「ラックゾーンダーツ召喚」
俺は息継ぎもせずに立て続けにスキルを使用した。
そして、世界は時を止めた。
「お久しぶりですね。シンヤさん、元気にしてましたか?あれ?顔色悪くありませんか?ちょっと膝枕でもして休んで行きますか?」
目の前に居るのは勿論リヴではないよ。
リヴがこんな発言したら取り敢えず中身がチェーンジされてるか、俺に惚れたかどちらかだよ。まぁ、どっちもあり得ないのでここにいるのはタダのアリアだったけど。
「久しぶりだね、アリア。膝枕は要らないよ。ところで、審判者は今回はアリアになったの?」
リヴじゃないだけ気が楽だよ。
「そうですよ。嬉しいですか?嬉しいですか?嬉しいですよね?」
アリアがまさかの三段攻撃を繰り出す。
えっ?これってYesしか選択肢がないパターンのゲームの選択肢みたいだよ。
アリアルート一直線?
フラグを立てた覚えはないけど、、?
「‥‥ぁあ、そうだね。リヴはちょっと苦手だったし、、、それより、仲間が危ないんだ。なんとかしないといけないんだ」
アリアの両肩を掴んで、目を真っ直ぐ見て諭すように話す。
すると、なぜか両目を閉じるアリア。
ダメだ。なぜかどう見ても話を聞いてくれているような雰囲気には見えない。韓流ドラマでも徹夜で観て眠いんだろうか?目も開けてられないほどなんて、、、
目には見えない何かに背中を押され続けてるように焦りが募っていく。
「別に敵を倒したいわけじゃない。仲間を護れたらそれでいいんだ。今回のダーツ召喚でそれが叶えられるかどうかわからないんだけど、やれる範囲で力になってくれない?」
焦りすぎて自分でも何を言いたいかわからない話しぶりになってしまった。
「‥‥分かりました。さすがにダーツで贔屓は出来ませんので、今の状況を教えてあげます。後は自分で考えてください。」
彼女は目を開けると何故かガッカリしたような表情を浮かべていた。
アリアは人に頼ってばかりいる俺に失望してしまったんだろうか?
「ありがとうアリア」
俺はせめての気持ちで、精一杯頭を下げてお礼を言った。
「いいえ、本題ですけどイオリさんに何が起こっているか聞ききたいんですよね?」
「そうだね。大体、魔法は使えないはずじゃなかったんじゃないの?」
イオリだけは魔法が使えたよな。
その後、、倒れてしまったけど。
「ですね、周りに吸魔薬が舞ってましたもんね。恐らく敵に意図的に撒き散らされたんじゃないですか?
そして、彼女はそれに対抗して無理矢理魔法を使ったんです魔血薬を使って。」
吸魔薬?恐らく魔力を吸収するクスリなのかな?もう一つがよく分からないよ。
「魔血薬?それを使えば無理矢理魔法を使えるの?」
聞けばタダで教えてくれるだなんて、本当に傲慢だと思ってはいるよ。
それでも、仲間の命関わることなんだし、土下座してでも、靴を舐めてでも聞く覚悟くらいはあったんだけど、
「そうですね。普段は血に宿る魔力を使って魔法をつかうものなのですが、今回はその魔力を吸魔薬が吸収してしまってました。
魔血薬は血そのものを無理矢理魔力に変えるんです。それを使って無理矢理魔法を使ったんですよ。
そんな物を一回使えば死ぬか、瀕死になってしまうのに」
アリアはアッサリ教えてくれた。
マズイ、早く処置しないと。
「ありがとう、そろそろダーツを始めようか。」
ここは外せないな。
そしていつも通りダーツ部屋に行くと既にダーツはセットされていた。
「あれ?今回おかしくない?」
的の内容だけど以下のようになっていた。
スキル…魔王 90度
スキル…転移 90度
スキル…スウィンドラー 90度
スキル…召喚獣強化 45度
光学兵器 45度
???ステータス10倍とかないんだけど。
後は、知らないスキルが並んでいる。
取り敢えず光学兵器で一気にカタをつけたいな。若しくは転移で逃げてもいいかもしれない。
「とにかく投げるしかないな、エイッ」
俺は今回は気が急いていて、すぐダーツを投げた。
矢が的に向かって飛んでいき、的に刺さる。
「トンッ」
的の回転が弱まっていく。
あっ、もう少しで文字が読めそうだ。
見えてきた、見えてきた。
‥‥?スウィンドラー???
矢が当たった部分を見てハテナマークが止まらない。
「そろそろ時が動き出しますね。それではまた」
アリアは憂いを帯びた表情を浮かべながら手を振る。
あれ?説明してくれないの?
そして時は動き出した。
走り抜けた敵のリーダーが方向転換し、なぜか俺の前に戻ってきた。
「姉上、こんなところで何をしているんだ?
カラダに差し障ります、早く屋敷に入ってください。」
しかも、敵のリーダーはいきなりこんなことを話し始めた。
?姉上?俺が??もしかして、そっち方向の趣味の人?そういう設定じゃないと燃えない人種なの?
「あぁ、じゃあ、屋敷まで参りましょうか?」
そう言うと大人しく付いてくる。慌てて周りの四人も戸惑いながら付いてくる。
「姉上、寒くないですか?」
と言って自分の上着を脱いで俺に羽織らせる。
「そういえば、姉上に新しい服を買ってきたんですよ。屋敷に着いたらきてください。」
そう言いながら、今度は道具袋からピンク色のドレスを取り出す。
えっ‥‥?
これ?着るの?
俺が?
なんで?
俺だけでなく、勇者隊のメンバーも他の敵のメンバーもついていけていない。
落ち着け、まずゆっくり息を吸い込む、浅い息は視界を狭く‥‥ってとにかく落ち着こう。
状況を整理しよう。
取り敢えず、俺に女装癖はない。
オッケー、これはまず確定事項だ。
で、敵のリーダーだが俺に気のある可能性は‥‥‥‥?
あると思います。
判決は‥‥‥ギルティ?
ダメだ、自分で何言ってるのかわかんなくなってきたよ。
「シンヤクン?敵と何を話してるんだい?」
レンは急に戦闘が中断したことを不審に思い、警戒レベルを最大にしながらこちらに近寄ってくる。
俺はレンの耳に口を寄せ伝える。
「攻撃は中止だ。俺の仲間の指揮も一旦預けるから頼むよ。俺にいい考えがあるんだ」
俺がそれに続いて具体的な指示をだすと、レンはテキパキ動いて指示をだしてくれた。
取り敢えず、一番大きな空き家に俺と敵五人が入る。取り敢えず大きな部屋に入り、敵のリーダーと色々やりとりしてから空き家を1人で出ることにした。
やっとこのスキルの効果が分かったので有効活用するつもりだからだ。
スキルの効果はズバリ《騙す》だ。幻術などの複合スキルなんだと思う。
「そういえば、紅茶を淹れてくるからちょっと待っててね。」
敵のリーダーにそう言って慌てて家を出ると、、、
家の周りに勇者隊とアヤが待ち構えていた。
恐らく、エリシスとコトハさんとはイオリの看護をしてくれているのだろう、その場には居なかった。
仲間に感謝しつつ俺は悲鳴を上げた
「みんな〜、見ないでぇ〜」
そう、残念ながら俺は敵のリーダーとの話を合わせるために無理矢理ピンクのドレスを着る羽目になっていたんだよ。
「クック‥‥シン‥ヤ‥クッん‥‥に、似合ってるよ。」
レンは平静を装おうとしたけど失敗したみたいだった。
「どうも。取り敢えず今の悲鳴に敵が気付かなくてよかったよ。作戦が失敗するところだった。」
俺は自分の失敗を思い起こし反省する。
せっかくアイコンタクトでレンとの作戦がうまくいったのにあぶないとこだった。
「敵を閉じ込めたから建物を燃やす作戦なんだね?分かってるよ。」
満面の笑みでレンは答えた。
もちろん、全然通じ合えてないからな。
「違う違う、睡眠草を燃やして中に入れていくんだよ。」
正直、建物を燃やすとかいう発想はなかったよ。
そのうち、空き家を爆発して《御覧なさい、綺麗な花火ですよ》とか言い出さないよな?
俺の作戦は成功したようで、数時間後に空き家の中を探索すると爆睡する敵5人が居たので拘束した。
こうして、盗賊騒動もおさまったんだけど、、、翌朝になってもイオリは目覚めなかった。
昼になったら目覚めたけどね。
目が醒めると
「お、おはようございます、シンヤ様。ごめんなさい、寝坊しちゃいました。あれ?なんで泣いてると思うの??」
号泣する俺を見てイオリは戸惑うばかりだった。




