初めての体験
転移が始まると光の渦に飲み込まれたような感覚が続き、目も開けていられなくなった。そして、身体が浮き上がっている感覚が続いている。
しかし、暫く経つとその感覚も収まり、視界がやっとクリアになった。その段階になって俺はようやく目を開けることができた。
深い緑が視界いっぱいに広がっている。
どうやら森の中のようだ。
空をみるとまだ日が高いし昼間‥だと思う。
遠くで、聞いたことのない獣の遠吠えが聞こえる。
とにかく夜になるまでには森から出ないとマズイだろう。タダでさえ悪い視界がますます悪くなってしまうし、夜行性の猛獣がいないとも限らない。
方角がわからないけど、とにかく適当に方向を決めて進んでみることにした。
いや、まてよ、電波がつながるなら課金アプリはともかく無課金のアプリはダウンロードしてつかえるんじゃないのか?
試しに方角を指し示すアプリをダウンロードして見る。
アッサリ出来た。
アプリも使えた。
どういう仕組みになってるんだろうな??これ?
とにかくアプリが指す東の方向に進んでみる。東に街があるのかどうかは全く分かってはいないんだけど、さすがに地図アプリは起動出来なかったし、しょうがないか。
鬱蒼とした森の中を悪戦苦闘しながらも覚悟を決めて東へ歩いていく。
そして、歩き始めて1時間位経った頃、近くでガサゴソと音がした。気の所為ではない、、、と思う。
恐る恐る音がした右側へ視線を向けるとそこに居たのはスライムだった。
スライムは仲間になりたそうにこちらを‥‥‥見ておらず、、どちらかというとなんの感情も読み取れない表情で俺を見ている。
俺は迷った挙句覚悟を決めて、、逃げることにした。
‥‥ハァハァ、中々しつこいなあ。
もう逃げ始めて五分経つが振り切れないままだった。そろそろ次の策を考えないとちょっとマズイ。
武器は予め女神に貰っていた。
俺はその武器を使って反撃に出ることにした。
スライムを真っ二つにするような太刀筋で上段から丈夫な木の棒を振り下ろす。
丈夫な棒の一撃でスライムは少し凹んだが、数秒で凹みが戻り、元の姿をとりもどす。
ダメだ、明らかに威力が足りない。
なにしろ只の丈夫な棒だからなぁ。
相手は次の策を考える時間を与えてはくれなかった。
スライムの体当たり。名付けてスライムアタックが俺に迫る。まぁ、名付けたのは俺なんだけど。
ビックリして思わずしゃがみ込むと、スライムは俺の顔面辺りにアタックするつもりだったようでうまくかわすことが出来た。
俺は次の攻撃に備えスライムの方に向き直るが、なぜかスライムは猟師が作ったであろう落とし穴にハマっていた。
そこからは簡単だった。穴にハマって動けないスライムをひたすら丈夫な棒で叩く。叩く叩く。叩く。叩く。叩く。叩く叩く叩く叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く叩く。叩く。叩く。
ふぅ〜、やっと倒した。スライムが消滅する。
しかし、スライムが消滅した辺りに何かが出現している。アイテムドロップしたってことか?
ドキドキするな。なんだこれ?
『スライムエンブレム』
なんか子供の落書きみたいなのが書いたエンブレムだった。
‥‥ドキドキを返せ〜。まだ薬草とかの方がよっぽど使えたわ。
ちなみにお金がドロップするようなことはなかったので、ドロップアイテムをお店かギルドかに売ってお金にするしかないということかもしれない。
まぁ、素材の剥ぎ取りとか分からないし、素材を売る方式じゃないだけまだマシだったのかも。
それからしばらくは何も出なかった。その為、俺も気が緩んできて段々ピクニック気分で鼻歌とか歌いだした頃に奴、、、、、、、と目が合った。
よく見てみると、割とつぶらな瞳でカワイイかもしれないな、スライムって。
尚も見つめ合う俺とスライム。
たぶん、数十秒はみつめあっていただろうか。
緊張で体が強張り始めた頃、、
俺は重大な事実に気づいてしまった。
これはまさか目を逸らした瞬間襲われるってやつか?
野生の掟は非情だ、、、、
それに気付いたため、尚も見つめ合うこと数分。
まだ、見つめ合う一人と一匹。
あまりの緊張で額から汗がにじむ。
そして、とうとう今度こそ俺は気付いてしまった。
こいつ、目を開けたまま寝てやがる‥‥‥
『この胸のドキドキって何?‥‥もしかして、恋?』って思うほどドキドキしちゃったじゃないか!
どうしてくれるんだよ?
悪態をつきながらスライムを素通りしていこうとした時。
『♫♫♫♫♫♫〜』
スマホの着信音が鳴り響いた。
また、凛か?と思って画面を見ると
『あなたの女神アリア』
という表示が出ていた。
ツッコミどころは多いけど今はそれどころじゃない。
最悪の状況で電話がかかってきたんだからな。
世の中には2種類のスライムがいる。
寝起きの良いスライムと寝起きが悪いスライムだ。
そして、なんと今回のスライムは‥‥‥‥‥‥‥
寝起きの良いスライムらしく、殺る気マンマンで飛び跳ねていた、、、
俺は先手必勝とばかりに上段から打ち下ろす。
それからバックステップし、更に突きで前に出る。
しかし、効いていない。
どうすんの?これ?
反撃のスライムアタックを腕で防ぐがスライムの勢いに負けて後方に吹っ飛んでしまう。
続けてスライムが体当たりを行う。
また顔面狙いかと思い、顔の前に腕を十字にして防御体勢にはいったが予想は見事に外れてしまった。
スライムは俺のボディにめり込む。
二度目の人生が早くも終わった。このままなぶり殺しされてしまう。
諦めた俺はスライムの追撃が来るのにそのままうつ伏せに倒れ込んでしまう。
しかし、今度はスライムは顔面を狙っていたようで意図せずスライムアタックがかわせてしまった。
そしてスライムは宙を舞い、、、、、トラバサミに着地。挟まって抜けなくなってしまった。
恐らくこれも猟師が仕掛けたのかな?
猟師、ナイス。
そこからはスライムをひたすら丈夫な棒で叩く。叩く叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。
やっと倒した。スライムが消滅する。
スライムがアイテムドロップしたみたいで確認する。ドキドキするな。さぁて、
『スライムエンブレム』
‥‥やっぱりか。
結構ダメージも喰らったし休みたいとこだけど、、、またスライムに会うのはイヤだから、とにかく先を急ぐしかないか?
歩きながらスマホで電話する。
『はいっ、あなたの女神アリアです。なにかお困りですか?』
一コールも鳴らずにアリアが出た。
どんだけ心待ちにしてたんだよ?
「アリアの電話のせいで死にそうになったんだけど、どう責任とってくれるの?」
『えっ?私のためなら死ねる?』
「イヤイヤイヤイヤ、そんなこと言ってないから。
なんてタイミングで電話してくれるんだ?おかげで死ぬとこだったぞ。」
『せっかく私が電話してあげたのに、そこは泣き叫んで喜ぶところじゃないかしら?』
なに言ってるんだ?このダ女神は。
「はぁ〜、まぁ、諦めたわ‥。ところで何の用だ?俺は割とお取込み中だったりするんだけど」
うん、女神の暇潰しに付き合うほど人生長くはないからな。
『そうそう、戦い方を教えていなかったから、『め、が、み』から特別に戦い方のヒントをあげようと思ったんだけど‥‥‥やっぱり切った方がいいんですよね。』
し、しまった、ヒ、ヒ、ヒント?
これは聞かないとほんとに次は死ぬ気がする。
「いやいやいやいやいや、アリア様からの電話を首を長くして待ってたんですよ〜、心待ちに待ち過ぎてスッカリ忘れてましたわ」
ほんと形振り構ってられないわ。
優しいウソとかもあるし、ウソは悪くないよな。
『‥‥‥‥‥‥』
あれ?アリアが沈黙してる?さすがに見え透いたウソ過ぎたか?よく考えたら小学生でも騙されないレベルのウソだったわ。どう挽回しよっか。
よく考えるとここ一年でまともに話したのは妹の楓だけなんだよな、そんな経験値で女神を騙せるはずなんて無かったよな。
『‥‥ぁあ〜、そんなに愛されてるなんて思いませんでした。見た目と違って意外と情熱的なんですね。アリアはドキドキが止まりません』
あれ?女神様?小学生以下だと?
「あぁ、そう言えば戦い方のヒントを教えてくれるとか言ってなかった?」
俺はさりげなく本題に話を導く。あのまま話を突き進んでいくと、ろくな目に合わない気がしたからだ。
『そうですね。申し訳ありません、ステータスウィンドウをオープンしてみて下さい。』
俺は心の中で『ステータスオープン』とつぶやいた。
名前.シンヤ
職業 無職
レベル2
生命力26
体力 15
筋力 1.4
敏捷 21
耐久力 15
知力 4
魔力 1
運 2800
スキル ダーツ召喚
所属 無
所持 最強の美少女嫁、神具スヌホ
改めて見るとルーレットのせいでステータスがめちゃくちゃだな。主に筋力と運。
でも、よく見ると何もしてないのに魔力と知力が低いんだよ。ちょっと脳筋なステータスなのに筋力が低いって最悪以外のなにものでもないよな。
『ステータスで飛び抜けているのは運だから運を生かして戦うことをお勧めするわ。
筋力も魔力も低いから今後攻撃重視で仲間をさがすとして、今はひたすら身を守って死なないことを優先に戦うこと。
それが結果的に勝利に繋がるから。』
「意外とまともなアドバイスでビックリしたわ。ありがとう。」
俺は素直にお礼を言った。
『構いませんよ、シンヤのためなら。
続きなんですがそれでも本当にどうしてもダメな時は一か八かスキルを使って下さい。『ダーツ召喚』は女神の間でやったようなものになりますので一発逆転も夢じゃないです。
もちろん、外すとペナルティがあるので使いどきは見誤らないように注意して使って下さいね。
ヒントは以上です。
あと、なにかわからないことがあったらいつでもアリアまで連絡下さいね。寂しい時でもいいですから絶対連絡下さいね。絶対ですよ。』
「わ、わかった、、、ありがとう」
アリアの押し具合に若干ドン引きしながらお礼を言う俺だった。
電話が終わり、暫く森を歩いていると
ヴゥーッ、ヴゥーッ、ヴゥーッ
またスマホのバイブが鳴る。
メッセージが来た。どうやら凛からのようだ。
『悪い男の人達に絡まれてるよぉ( ;´Д`)どうしよ?』
なに〜?俺の嫁に何てことを。
「とりあえず全力で逃げるんだ。」
俺が近くに居たら戦‥‥わないけど一緒に逃げるんだけどなぁ。
暫く返事が返ってこない。
もしかして、嫌われた?それとも凛の身に何か?
暫く呆然と返事を待っていたがようやく返事が来た。
『‥‥逃げ切れたよ 。初めて、こんなに沢山走ったよぉ。』
「凛はエライエライ。良かったな、凛。また何か困ったことがあったら言うんだよ。」
『うん。ありがと〜。
゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。. .。.:*・゜゜*』
「早く会いたいよなぁ。」
『うん、☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆』
「おー、俺もそっち方面に行くからまた連絡取り合おうな。」
『うん』
その返事を見て安心した俺はヌマホをカバンに戻した。
しかし、気付くと魔物に囲まれている。
スライム5匹か…気付かなかった。
歩きヌマホ‥‥絶対ダメ。