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初めての爆発

「ふわぁ〜、よく寝た。」

翌日、カラダは気だるい中でも意識は割りとハッキリしていた。

今日はイオリに奴隷契約の破棄の話をしないといけない、寝ぼけている場合じゃない。


奴隷契約を破棄してもイオリがパーティに残ってくれればいいけど、こんな不安定なパーティはイオリもイヤだと思う。


イオリは確か魔力が強かったはずだ。

カルテットというスキルが何かは分からないけど魔法使いタイプのスキルなら引く手数多だろうし、このパーティーに残るメリットが全く見当たらないんだよ。


そう考えるとここでお別れかもしれないな。


隣のベッドで寝ているイオリを見て出会ってから今までのことを色々思い出していた。

よく考えれば、イオリが居なければこの街にもたどり着くことができたかどうか?


少し感傷的な気分で身支度を整えているとイオリが起きた。

「あっ、シンヤ様ごめんなさい。寝坊してしまいました。」

まだ鐘が鳴っていないから寝坊じゃないんだけど‥‥

いつも寝坊している俺より起きる遅かったので寝坊と勘違いしただけだけみたいだ。決していつも寝坊している俺を遠回しにディスった訳ではない。


そしてイオリがベッドから出てきた。

あれ?普段顔を隠すようにかぶっているフードをかぶっていない。


「あっ、あんまりマジマジ見ないで下さい。恥ずかしいです。と思うよ。」

あれ?こんなに可愛かったんだ?

「そういえばなんで顔を隠してたんだ?」


「そうですね。ノリン病患者は顔にもブツブツしたものが出来て凄いことになっているの。と思うの。」

顔が小さくて目が大きくて鼻はそれほど高くないが本当に可愛い。それに表情が豊かなところも彼女の魅力の1つかもしれない。


「そうなんだ?それにしてもこんなに可愛かったんだな。ちょっとビックリしたよ。」

俺はイオリをガン見してしまっていた。


「そんなことないと思うよ。でも本当にありがとうと思うの。感謝してもしきれないと思うの」

手振り身振りで感謝の意を表すイオリだけど、小さい体をめいいっぱい動かす動きが妙に愛嬌があるなぁ。


「そっか?よかったなぁ」

俺は心の底から喜び、自然と笑みが浮かんだ。


「シンヤ様、一体何をたくらんでいるんですか?と思うよ」

なんで笑うとたくらんでいるって思われるんだ?


たくらみ顏か、俺は?


まぁ、それはきっと生まれつきなので諦めるしかないか、、、、、それに考えようによっては本題にはいるチャンスか?


「イオリ、聞いてほしいことがあるんだ。聞いてくれるか?」


「え、え?わ、私に?い、いいと思うよ」

真剣な顔でそんなことを言われたので、イオリの背筋が伸びた。それにプレゼントを開ける時のような、期待に満ちた目をしていた。


「実はイオリの奴隷契約の破棄をしようと思うんだ。今日でもいいか?」


「えっ‥‥‥仲間も増えたし奴隷はもう要らないってこと?と思うの。」

さっきまで明るかったイオリの表情がどんどん暗くなっていく。


「えっ?ダメだった?あれ?奴隷だよ?奴隷?そんなのいらないでしょ?」

俺は身振り手振りで一生懸命説明した。


「‥‥イオリは要らない子‥‥」

大きな目に涙を浮かべ、俺に聞こえないくらい小さな声でなにか呟くと、イオリはそのまま走り去っていった。


な、なんだったんだ?俺はなにかおかしなことを言ったか?


奴隷契約のことで怒ったのなら奴隷契約時に貰ったルールブックを見ればなにかわかるかもしれない。

早速荷物の中からルールブックを取り出す。


えーと、やっぱり読めるな。この世界の文字は全て日本語で本当に助かる。

「シンヤ、居るぅ〜?」

ノックもせずに扉を開けるアヤ。


「ん?どうした?アヤ?俺はちょっとこの本読むのに忙しいんだけど」


「え?シンヤ、何読んではるん?なになに『図解 奴隷の飼い方、育て方』?えっ?もう一匹飼うん?飽きたら捨てたり出来へんのよ。ちゃんと散歩とか世話とかできるん?」


「子犬拾ってきた時のオカンの反応みたいだな。まぁ、冗談はさておいてちょっとよくわからない事態になっているんだ。」


「アヤ姉さんに相談してみたらどうなん?」

アヤは胸を張ってそう言ってきた。


「えー、アヤって姉さんっていうより明らかに天真爛漫なひとりっ子タイプだろ?」

もっと率直に言うと天然タイプだと思うよ。


「そこはノってくれてもいいとこやのにぃ。それで何があったん?」

アヤにしては珍しく真面目に相談にのってくれそうな雰囲気だった。


俺はかいつまんでさっきの出来事を話した。


「えっと、、、シンヤに聞いた限りの情報からの判断になるねんけどなぁ、イオリんは奴隷に誇りを持ってたんちゃうかなぁ?それで、『奴隷契約を破棄する』とか『奴隷なんて要らない』なんて言ったから怒ったんやない?」


なるほどアヤは自分から相談しろとか勧めてくるだけあって意外なことに洞察力に優れているようだった。俺の疑問がスルスルっと解きほぐされてしまった。


つまり、イオリは奴隷という職業に誇りを持っているのに勝手に奴隷契約を破棄するなんて何事か?

シンヤは奴隷を舐めてるのか?


なんてことを考えたに違いない。

ということは解決策は見えているな。


でもその前にまずはイオリを探さないと。

外に出るとちょうどエリシスに会ったので3人で探すことにした。



特に手立てもないのでとにかく聞き込みをしようと大通りに出てみた。

その時、ちょうど見たことがある冒険者が前から歩いてきた。確か、エイジだったっけ?


「おうっ、エリシ‥‥お前、帝国の剣トモヤを全裸で襲ってトラウマを植え付けた変態じゃないか?お、お、俺はそ、そんな趣味はないからな、襲ってきたらスキル全開で叩き切るぞ。ホントに切るからな。ホントだぞ、嘘じゃないからな」

エイジは変態野郎シンヤを目の前にして怯えていた。完全に腰が引けているし涙目だ。


誰が変態だ。


あれ?もしかしてもう冒険者の間でウワサに‥‥

いや落ち着け、それより俺が全裸でトモヤを襲ったことになってる???

ウワサって怖え〜。


「ご、誤解だ、エイジ。あれは不幸な事故だったんだ。」

俺も必死だ。


「あっ、いやだ、やめてくれ、近寄らないでくれ。」

しかし、エイジも必死だった。

いや、これも遠くから聞いたら『俺がエイジに襲いかかってた』とかウワサになってしまうんじゃないか?


「シンヤ?こんなところで油を売っている場合か?イオリを探すんだろ?」

エリシスが脱線した話をちゃんと本題に戻してくれて助かった。

このままだと不幸しか生み出さない言い合いを続けるところだったよ。



そうして酒場や、はじめに入った店屋など探したがイオリは見つからなかった。


「ダメだ。もう心当たりがない。」

俺は途方に暮れてしまっていた。


「なぁ、なぁ、ちょっと思うんやけど奴隷って主人から逃げてしまったらどうやって探すん?」

しかし、アヤが結構的を得た質問をする。


「???あっ、確かに。それは全く気付かなかったわ。奴隷商人にききにいくか?」

俺たちは1秒も惜しくてダッシュで奴隷商人のもとに向ったよ。


そしてアッサリ教えてもらった。

ちなみにルールブックにも書いてあったので完全に文字が読めない可哀そうなご主人様扱いされたけど‥‥


「隷属の鎖よ、その陰影なる姿を映し出したまえ。」

涙目の俺が唱えると、手から黒い糸のような物が出ているのが見えた。

それが目の前の道を這っていてさらに先まで続いている。


その黒い糸のような物を追っていくとスラム街に続いていた。だんだん、街も荒れているように見える。

こんなとこにオンナノコ一人とかヤバくないか?


その時、悲鳴が聞こえた。そこの角を曲がったところだ。ちょうど黒い物もそちらに続いていた。

何かが起こっている?イオリは大丈夫なのか?


全速力で駆けて角を曲がった俺たちが見たものは、、イオリに襲いかかる獣人達だった。足元にも何人か獣人が転がっている。もしかして転がっているのはあの襲いかかる輩からイオリを助けようとしてくれたけど力尽きてしまった名もなき英雄達なんじゃないか?


見た所、立ってイオリに襲いかかろうとしているイヌ‥‥じゃなくてオオカミの獣人のようだが5人も居る。イオリを助けないと。


「懲りないと思うの。イオリに触れていいオトコの人はシンヤ様だけ。あなた達程度が頭を弁えなさい。と思うよ。エクリクシス」

最後に何か叫んだかと思うと爆発が起こり、爆風で5人とも吹っ飛び、壁に強く体を打ちつけてしまった。

更に追撃で爆発が三発連続で起こる。


なんだ?これ?と、止めないと。


「イオリ。俺が悪かった。話を聞いてくれ」

俺はとにかく大声で叫んだ。


「えっ?シンヤ様?」

イオリは今はじめて俺の存在に気がついたようで目をまん丸にしている。


「あー、そうだよ。なにしてんの?」


「あの‥わたし‥‥この人達に絡まれて、襲われそうに‥」

この人達と呼ばれた人達はみんな気絶したようで地面に伏していた。彼らの体には所々焦げたあともある。


このタイミングで俺が現れたなら、イオリがオトコ達を一方的に襲ったようにしか見えなかっただろう。


「待て、俺は焼いて食べてもきっと美味しくないぞ。それより話を聞いてくれ。」

とにかく爆発させられないようにしないとシャレにならない。

爆発していいのは俺じゃない。

リア充だけだ。


「私なんかに何の用ですか?と思うの。」


「あ、あの、、さっきはすまなかった。俺はイオリの気持ちを考えていなかった。イオリがよければずっと俺の奴隷でいてくれ。」

自分で言っててこのセリフは、、、と思わなくないけどイオリはきっと喜ぶはずだ。


「えっ?えっ?あの、、それって、、アレですよね。あの‥‥いいんですか?と思うの」

イオリは顔を真っ赤にして動揺している。


「もちろんだ。」


「私なんかでよければふつつか者ですがこれからよろしく願いします。と思うの」

尚もイオリは顔を真っ赤にしている。


よっぽど嬉しかったのか?アヤの言った通りイオリは奴隷という職業に誇りをもっていたんだな。


なんでもかんでも前の世界の常識で考えていては取り返しのつかないことになるところだった。



もちろん、俺は勘違いしていたが俺がこの勘違いに気付いたのは、今よりもず〜〜〜っと後の事だった。


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