表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート転生者と白狼娘  作者: ゴルゴン
13/17

魔術は想像力の塊

最近戦闘シーンを書いてるのが好きになってきました。そろそろ番外編を書くと思います。

  ホロとクラークは馬車に括り付けられている二頭の馬と最低限の食料だけを持ち案内人は待機させ街に走っていく。

  ホロは馬に乗るのは初めてだと思ったが体がなんとなく馬の操り方を覚えておりなんとか制御できている。

  クラークはそれを横目で見て少し笑う。


  街までは約一日半といったところだろう。

 

  「ホロさん、一旦休憩を入れましょう!馬が持ちません!」


  「……わかりました、ですが最低限の休息で構いません。早くタクヤ様のところは戻らなくては……」


  馬から降り馬を休ませる。

  クラークは懐からまた手帳を出し何かを書いて破ると水魔術でできたハトを作り紙をどこかに飛ばした。


  「何をしているんですか?」

 

  ホロは携帯食料と水を食べながら聞いた。


  「いや、たしかこの近くに仲間がいたはずだから連絡を取ろうとしてね……お、きたきた!」


  遠くからゾロゾロと十人くらいの盗賊のような身なりをした男達が現れた。

  男達はホロを見ると下卑た笑いを漏らしている。


  「旦那ぁ……今回は一人ですかい?たしか最初は二人いたはずじゃあなかったですかね?」


  「なに、事情が変わったんだよ。タクヤとかいう馬鹿はサラマンダーとグリフォンのいる大樹山に残ってるよ。監視達同様後でとどめを刺して身ぐるみを適当に剥ぎ取りに行こう」


  ホロはその会話を聞いてクラークが善良な貴族ではないことを悟りジャマダハルを構えて距離を取る。


  「クラーク、あなたはなにが目的ですか?!この者達を下がらせなさい!」


  「うるさい獣人だな〜見ればわかるだろ?僕は君が欲しいんだよ、普段は獣人は売るんだけど君は特別綺麗だし僕が全身くまなく世話をしてあげようと思ってるんだよ、光栄に思ってほしいな!」


  舌なめずりしながら答えるクラークにドン引きしたホロは少しずつだが距離を取っていく。

  しかしクラークはいつもの真面目な顔に戻るとならず者達に指示を飛ばす。


  「全員武器を構えろ!こいつはヒッポグリフですら弓で撃ち落としている。時間稼ぎをしろ!」


  「へへっ可愛いお嬢ちゃんだね〜間違って揉んだりしちゃうかもしれんけど恨むなよ〜?」


  「やるしかありませんね……」


  ホロを取り囲むように移動していくならず者達、ホロは相手の陣形が整う前に素早く動きだし一番最初に移動して仲間から距離を取ってしまったならず者に斬りかかる。


  「なっ?!早……」


  ホロは面食らっている相手の手首にジャマダハルを突き刺し素早く抜き次の相手に向かう。


  「チィ!かかれぇ!!」


  クラークはそれを見て詠唱を始め他のならず者達はホロに飛びかかってくる。

  男達はサーベルやファルシオンなどを握っているがそこまで早くない上に連携が取れていない。

 

  「これならオークのほうが強いですよ……」


  ホロは前方から切り掛かってくる三人の男の攻撃をかわしながら後ろに回り込んでいる男にも注意を払う。後ろに回った男がホロに抱きつこうと両腕を広げ突っ込んでくるがホロはかがんで後ろに水面蹴りを放ち襲ってきた男を転ばせる。

  三人の男達は転がってくる男に武器を当てないように一瞬動きが止まる。

  ホロはその間に態勢を立て直し一人の腹にジャマダハルを突き刺す。腹に刃が刺さり苦しそうに倒れた男を見ずにファルシオンを振り下ろしてくる男のがら空きになっているあばらにもう一つのジャマダハルを突き刺し捻った。

 

  ゴキゴキと音がした。骨を何本もおられた男は泡を吹いて倒れた。


  「くっ!水弾ウォーターバレット!」


  クラークは仲間が射線に入りなかなか魔法が撃てなかったようだがようやく撃ってきた。


  『水針ウォーターニードル』よりも速度と威力がある魔法だ。


  何発も撃てばいずれはホロに当たるだろうがホロは他のならず者を盾にするようにかわしていくためクラークは連続で魔法を撃つことができない。


  よし!これならいけ……る……あれ?


  走り回っていたホロは急に地面に倒れてしまった。


  「な……んで……??」


  「ふぅ……ようやく効いてきたね、仲間を半分も失ったけどまあいいだろう。教えてあげるよ、君の持ってた水に痺れ薬を仕込んでおいたのさ。匂いが全くしない上等なやつをね、匂いのしない奴は高い割に遅効性だけどこうでもしないと獣人の鼻は欺けない」


  他のならず者は先ほどの下卑た笑いを漏らす余裕もないのかホッとした顔をしている。

  クラークはホロに近づくとその柔らかい尻尾を撫で回し頬をべろりと舐めてくる。


  「やめ……なさい……気持ちが悪い」


  「そう言わないでくれよ、これからは僕が主人なんだよ?僕好みに躾けてあげるからヘブッ!!!」


  そう言って今度は鎧を脱がせよう鎧に触れた時何かが音もなく高速で近づいてきてクラークを吹き飛ばした。クラークは派手に転がって木にぶつかってようやく止まった。

  他のならず者は呆気にとられて動けないようだ。

  ホロはクラークを吹き飛ばした本人を見る。

  槍を持った金髪の男だ。


  「最近冒険者や獣人が行方不明になるっつう報告が増えてきてるから怪しいてめえを監視してみればこの有様かよ……まだ腐った貴族が蔓延ってんな。クラーク以外は全員処刑にしていいよな?」


  「うにゃ、記魔石に記録完了っと……自分の手てやるんですか?手伝いますよ?」


  「ま、待ってくれよ……俺たちはそこの貴族に脅されたんだ!!家族が人質にとられて仕方なく…グッ!」


  「言い訳無用だ、死ね」


  ならず者の額に槍を突き刺しながら呟く。

  二メートルほどもある槍だがホロにはその動きが何一つ見えなかった。気づいたらならず者と男の距離が縮まっていた。

  他の四人は腰を抜かしたり足が震えていたり様々な反応をしている。


  「ひ、ヒイィィ……!」


  「に、逃げろぉぉぉぉ!!!!」


  「うるせえなあ、一人も逃がさねえよ!」


  男はバラバラに逃げるならず者達に一人ずつ距離を詰め殺していく。

  ホロの近くに猫耳の少女が近づいてくるとホロの頬を布で拭き薬を飲ませてきた。


  「解毒薬よ、麻痺が解けるから飲みなさい」


  見知らぬ人ではあるが助けてくれたというのもあり信用して薬を飲むホロ。

  効果はすぐに現れホロは立ち上がり武器を拾うと終わったのか槍の男が戻ってきた。


  「よう、大丈夫か白狼の嬢ちゃん?あと残ってるのはクラークだけだが殺すのは勘弁してほしいが骨の一本や二本くらい折っても許すぜ?」


  「あの人にそこまでする価値などありません、それよりも助けてくれてありがとうございます!何もお礼できるも物を持っていないのですが……」


  「礼には及ばねえが……一つだけ聞かせろ、お前の主人のことなんだが奴は王国の脅威になるか?」


  「そんなこと聞いても答えられるわけないでしょ!バカなの?!」

 

  「この嬢ちゃんはまだあいつと知り合ってそんなに経ってねえからいいだろ!危険じゃなければいいだけの話だ!」


  「タクヤ様は戦うのはおそらく大好きですがそれ以上に優しいお方です、私はどこまでもあのお方についていくだけです」


  質問を聞いたときは唖然としたが口喧嘩を始める二人は悪人には見えないのでホロは素直に答えた。

  猫耳の人は素直に質問に答えたのが意外に思ったのか口をあんぐり開けている。

  美人なのになんか勿体無いと心の中で思ったホロであった。

  逆に槍の男はニヤニヤして猫耳の人を見ていると口を開いた。


  「やっぱり答えてくれたじゃねえか!今回は俺が正しかったな!はははは!!」


  「うるさい!あんたもなんでこんな怪しい奴の質問に答えんのよ!!さあ早く戻ってマーリン様に報告にいくよ!」


  猫耳の人はポーチから魔石を取り出し地面に叩きつける。砕け散った魔石から転移門ゲートが現れ猫耳の人は先に入っていった。


  「さて、俺たちはこの馬鹿を連れていくからもう行くぜ。お前さんの言葉を信じてしばらくあいつの監視はやめておいてやるよ。縁があったらまた会おうや」


  そう言うと未だに伸びているクラークの首根っこを掴みゲートの中に引き摺り込んでいった。


  「なんだかお祭りみたいな人達でした……あっ!早く戻らないと!!」


  ホロは馬に乗り急いで大樹山に戻っていった。




  タクヤは最も慣れた戦い方である『風体』と『竜力』を使いサラマンダーに接近し正面から行くふりをして一気に左側面に回り神羅を振り下ろすとサラマンダーは冷静に『炎爪』を使い手を振り下ろしてきた。

  タクヤは風体でかわし正面に戻り神羅を頭に振り下ろす。

  サラマンダーは『硬化』で神羅を頭部で受け止め『炎体』で体に炎を纏いどっしりと構える。

  おそらく炎体に対する反応をみているのだろうがタクヤは無視してさらに腕に力を入れる。

  恐らく凄まじい温度なのだろうがタクヤが着ている覇竜の鱗鎧は最高の耐熱性能があるためこの程度苦にならない。


  『ガァァァァァァ!!!!』


  サラマンダーは咆哮を上げ頭部を振り上げタクヤを空中に放り投げると今度は『炎の吐息フレイムブレス』を吐き出す。


  「ちぃっ!『疾風斬り』!」


  あのブレスはまずいと直感で感じたまらず疾風斬りでかわす。そのままサラマンダーの背後に回り尻尾に向かって神羅を突き刺す。

  流石に尻尾の先端は他の部位よりは柔らかく硬化の影響を受けていても容易く貫いた。

 

  『グァァァッ!!?』


  サラマンダーは激痛で悲鳴をあげ尻尾をデタラメに振り回す。

  神羅を握ったままでは地面に叩きつけられそうだったので仕方なく神羅を放す。

  サラマンダーは器用に尻尾から神羅を抜き後方に放り投げるとタクヤを睨む。


  サラマンダーは『炎体』と『剛力』と『硬化』を使いものすごい勢いで突進してきた。

  今まではどっしり構え相手の出方を待つような戦い方をしてきたがタクヤが神羅を持っていない今が好機だと判断したのか躊躇いがない。

  まるで炎を纏った戦車が突撃してくるような迫力に思わず圧倒されそうになる。


  流石にあれは受けきれないのでタクヤも全力でかわすと神羅に向かって全力で走る。


  サラマンダーはかわされるのを予想していたのか木々をなぎ倒しながらも素早く方向転換し先ほどよりも速度を増して突進してきた。


  「はぁ…はぁ…間に合え!!」


  地面に転がっている神羅を前転しながらなんとか拾うが背後から迫ってくるサラマンダーの突進を避けることはできずに跳ねられた。


  「グアッ!!!」


  ゴムボールのように吹き飛ばされ大木にぶつかり木が倒れる。

  土煙が上りタクヤの姿が見えなくなる。

  サラマンダーは自身に付与していた魔術を解くと今度は『炎の吐息フレイムブレス』をうつために口に魔力を溜める。


  「はっ……はっ……強えなぁ〜……」


  タクヤは鎧の中で吐血し両足がブルブル震えている。


  『もう限界か眷族?ここから先サラマンダーよりも強い魔物はまだまだ眷族の前に立ち塞がるのだぞ?』


  「はぁ……はぁ……ふぅ〜……心配しなさんな……まだできることはある」


  タクヤは神羅を構え『覇竜の瞳』でサラマンダーの位置を確認し『死炎』と『鎌鼬』を同時に放った。

  混同魔術は魔力を溜めていたサラマンダーの口の中に命中しサラマンダーの魔力ごと爆発した。

  ドゴォォン!!!とロケットランチャーの爆発音のような音がした。

 

  タクヤが成果を確認するためにサラマンダーの前にくるとサラマンダーは口からダラダラと血を流して倒れていた。

  タクヤは油断せずにゆっくりとサラマンダーに近づく。

  サラマンダーの体がピクリと動いた。

  次の瞬間サラマンダーは一瞬で体を回転させ尻尾でタクヤを吹き飛ばした。

 

  「死んだふりかよ!」


  今度の攻撃は読めていたので自分から飛ぶことで衝撃を逃がしたがサラマンダーはさらに『溶解舌』を高速で突き出しタクヤを吹き飛ばし大きく距離を開け再び『炎の吐息フレイムブレス』をうつために口に魔力を集中させていく。

  さっきの混同魔術がよほど効いたのか顔を下に向け口はあまり開けないようにしている。


  タクヤはもう一度混同魔術を使用し『死炎鎌鼬』を放ったがサラマンダーは魔力を溜めながら尻尾に『硬化』と『炎体』を集中させ防御してしまった。


  「何か……何か手はないか……魔術は想像、死炎、鎌鼬、風体……よし、やるか」


  タクヤは自身の風体と竜力を解き神羅に『死炎』と『風体』を使いさらに自身の風の魔力を『竜巻』をイメージしながら魔力をどんどん注入する。


  「あれは……なんという魔力でしょう……それに複数の魔術が複雑に絡み合っている……あれほど緻密な魔術はエルフでもできる者は限られそう」


  高所から見ていたリューグは驚きのあまり声を出してしまった。

  タクヤの武器に風の魔力がどんどん巻きついて行くのが見える。それは回転しだんだん竜巻のようになっていき暴風が巻き起こる。

  本人は目を閉じて集中しているのか全く気づいていないが『死炎』と『鎌鼬』まで纏っているせいか周りの木々に火が飛んでいき焦げ目をつけていく。

  凄まじい熱量でサラマンダーの皮膚を少しずつ炙っていく。

  サラマンダーは堪らず『炎の吐息フレイムブレス』を吐き出した。

  その剣は天高く伸びていき一本の炎の線が出来上がり魔術が完成するとタクヤは目を開ける。


  「破滅の熱風カタストロフィブラスト!!!」


  タクヤが振り下ろした神羅は目と鼻の先に迫っていたブレスをたやすく飲み込みサラマンダーに迫る。


  『ここまでか……役目は果たしました、リューグ様』


  『いいえ、死なせませんよ』





  「……ま……さま………タクヤ様!!」


  「はっ!!あ、なんだホロか……」


  「タクヤ様!よかった……ご無事でしたか……いつまでも目を覚まさないから心配でした……ぐすっ」


  どうやら俺は倒れてしまったらしい。ホロを泣かせでしまったか。何やってたんだっけ?新しい魔術を使ってそれで……!


  「ホロ、サラマンダーを見なかったか?!」

 

  タクヤが急に起きホロに質問するとホロは驚いたように目を見開き答える。


  「わ、私がここに到着した時はタクヤ様が倒れているだけでした。大樹山に着いたばかりの私のところにまで熱い風が届いできてとても不安になりました」


  「いや、悪かったなホロ……でもこの通り無事だから心配しなくてもいいぞ。それよりクラークはどうしたんだ?討伐隊は?」


  「ええと……あまり言いたくはないのですが……」


  ホロがここに戻ってくるまでの経緯を説明するとタクヤは静かにホロを抱き寄せ頭を撫でる。


  「そうか……ホロには辛い思いをさせたな、その救ってくれた人にもお礼を言わないとな。もしクラークに会ったらたっぷり借りを返しておこう」


  「はい……はぅぅ〜タクヤは様〜」


  ホロはタクヤに体を預け撫でられるのを堪能している。

  ドシンッ!ドシンッ!とまた地響きがした。

  タクヤが音のする方向を見るとサラマンダーがゆっくりと歩いてきた。


  「タクヤ様は私がお守りします!」


  ホロはすぐさま戦闘態勢に入りバスタードソードを形成しサラマンダーに立ち塞がる。


  「あれを喰らってよく生きてたな、俺の負けか」


  『リューグ様が庇って下さらなければ即死だった。それよりもリューグ様が呼んでいる、きてくれ。この娘も一緒で構わない』


  「わかった。ホロ、警戒しなくても大丈夫だ。このサラマンダーは敵じゃない」


  「え?どういうことですか?タクヤ様傷だらけですよ?」


  そういえば鎧が脱がされており傷の手当てがされていた。ホロがやってくれたのだろうか?後でもっと撫でてやらないとな。

 

  「そうだな……宿に帰ったらゆっくり話すよ、今は行くぞホロ」


  「は、はあ……」


  ホロは渋々といった感じでついてくる。しかし視線は常にサラマンダーにぶつけており何かすれば斬ると視線だけで語っている。

 

  リューグの洞窟に到着した。

  サラマンダーは自慢の舌に炎体を付与し松明のように照らしてくれた。


  『もう日が沈んでくる。洞窟内はお前達には暗すぎるだろう?』


  「……どうしてサラマンダーのあなたがそこまでしてくれるのですか?」


  ホロの質問されてサラマンダーはチラリとホロを見てから答えた。


  『タクヤは私を打ち破った強者であり主であるリューグ様の客人、それならば相応の礼儀を払わねばならないだろう?』


  「は、はあ……まるで武人のようですね」


  『武人というのが何かは知らぬがいい響きだな』


  サラマンダーは今日仕留めた山羊の魔物のところまでくると山羊の体の解体を始めた。


  『リューグ様と会う前に栄養を補給するといい、私やリューグ様はすでに食っているからこの魔物を食うといい』


  サラマンダーはいつ用意していたのか綺麗に並べられた薪にフッと吐息ブレスを吐いて火をつけて洞窟の奥に行ってしまった。


  「すごく……魔物っぽくないサラマンダーですねタクヤ様」


  「ああそうだな……とりあえずこの山羊食べてみるか、解体するからホロも手伝ってくれ」


  「はい!お任せください!」


  山羊の魔物を食べて満腹になったホロを連れてリューグのところに行く。

  ホロも是非ついていきたいと聞かないのだ。

  どうせ街に帰ったら話すのだしいいだろう。

 

  リューグのところにはサラマンダーが待機していた。


  『リューグ様は少しダメージを負っているから手短に頼む』


  「リューグ、娘さんのお眼鏡にはかなったかな?」

 

  「あらタクヤ様……ええ、娘も大急ぎで帰ってきてかなり褒めておりました。では娘を紹介いたします。暗黒竜ダークネスドラゴンシェリーです、さあ出てきていいですよシェリー」


  リューグはニコニコしながらシェリーという竜を呼ぶと奥から一人の少女が出てくる。

  リューグと同じくサラサラとした黒髪で背中まで伸ばしている。角はリューグと同じく捻れてはいるが色は濃い紫のように見える。日が出ていればより鮮明に見えるだろう。瞳の色は黒ではなくルビーのような綺麗な赤色をしており鋭い双眸そうぼうは薄暗い洞窟の中でも美しく輝いている。

  服装はリューグと違い黒い革装備を着ており大きく張り出した胸が強調されている。

  武器は黒く禍々しいランスを背負っており重装騎兵用の大きなものだ。おそらく神羅と同じように自身の体の一部で形成されているのだろう。顔立ちはとても整っており幼さは残っているがリューグに負けず劣らずの美人でどんな男でも引きつける魅力を持っている。


  「お初にお目にかかります覇竜シンラ様の眷族タクヤ様、シェリーです。闇の魔術が得意だ。祖国の封印を解くための旅に同行したいと思っている、よろしく頼む!」


  「シェリーか、よろしくな。S級冒険者になってから旅に出るつもりだ」


  「それなら私も街に潜り込んで冒険者になって見ても良いだろうか?戦闘ではきっと役に立つ!あと質問があるのだが、この白狼は誰だ?」


  ホロは急にシェリーに睨まれ驚いたがすぐにタクヤが説明してくれた。


  「この子は白狼人のホロ、一緒に活動している頼りになる仲間だ」


  紹介するとシェリーは少し残念そうな表情をしてボソリと呟いた。


  「非常食かと思ってた……」


  「「………」」


  俺とホロは言葉を失ってしまった。


  「ああいや、本当に食べようと思っていたわけではないのだぞ?竜の冗談だ冗談!」


  タクヤとホロの反応を見て顔を真っ赤に染めて慌てて取り繕うために早口で喋り出すシェリー。

  それを見てホロは笑いを堪えるのに必死のようだ。

  無表情を装っているが体がわずかに震えている。


  「悪気がないならいいんだ、な?ホロ」


  「ふふ……はい、私はタクヤ様の食べ物ですしある意味事実ですしね!」


  何を言ってるんだこの子は……だけどまあ今回ホロはだいぶきつかっただろうし御褒美あげないとな。


  「さて、打ち解けたところで今後の予定を言っておきたい!一緒に街に入るのはやめておこう」


  その言葉を聞いてシェリーは怪訝な顔をして睨んでくるので訳を説明する。


  「そう睨むなよ、まず宿が二人部屋だし。あとはシェリーの格好がまともすぎる!」


  「……それが何かまずいのか?上手くできたと自分では思っているのだが……」


  そう言いながら自分で服装を確認しサラマンダーにも「いい格好だろ?」と聞いているがサラマンダーは適当に頷くだけでちっとも聞いている感じがしない。


  「まともすぎて怪しい、ホロを拾った時はボロ布だけをまとって痩せていた奴隷だったから疑われることもなかったがキャンプに待たせてある案内人のところに見知らぬ美少女を連れて行ったらどう考えても怪しいと思うだろ?だから一週間くらいしたら街の門が見えるあたりのところまできて待機しててくれ。宿はなんとか説得して三人部屋をとってみるから」


  そこまで説明するとシェリーは納得したような顔をして返事をした。


  「そ……そうか、そこまで言うなら仕方ないな。では一週間後に眷族様の住む街の近くに行くとしよう。美少女、美少女か……悪くない」

 

  最後の方は何を言っているか分からなかったが納得してくれたようでなによりだ。

  ホロの耳はピクピクと動いていたから何を言っているか聞こえていたのだろうか?教えてほしいものだ。


  「話し合いは終わったかしら?それでは眷族様にホロさん、ヒッポグリフの羽毛の大きな寝床を用意しておきましたので眠る時はお使いください。少し早いですが私とサラマンダーは先に寝かせていただきます。お水は湧き水を飲んでいただくことになりますがこの山の水は人が飲んでも害はないので遠慮なく」


  それだけ言うとリューグとサラマンダーは少しふらつきながら奥に行ってしまった。


  「シェリー、なんでリューグがふらついていたかわかるか?」


  「ええと……眷族様の魔術を止めるために全力で『竜の吐息ドラゴンブレス』を放ったからだと思う。それでも全ては打ち消せずにダメージを受けてしまってはいたがな」


  「ごめんな、シェリーの母親を傷つけてしまって……」


  「気にしないでくれ、母様が望んでやったことだ。ならばあとは抑えきれなかった母様が悪いのだ。眷族様もダメージが溜まっているはずだ、もう眠るといい。洞窟の見張りは私一人で十分だ」


  「ありがとう、ではお言葉に甘えて眠らせてもらうよ。行こうかホロ。シェリーおやすみ」


  ホロはすでに半分夢の世界に旅立っており船を漕いでいたのでお姫様抱っこをして運ぶ。

  シェリーは薪の横に座り手をひらひら振って答える。


  誰もいなくなった焚き火でシェリーはボソッと呟いた。


  「グラニド父様……」


 


  「タクヤ様……あの……」


  「どうしたホロ?」


  ヒッポグリフの羽毛ベッドを二人で寝転んでいるとホロが話しかけてきた。


  「私はタクヤ様のお役に立てているのでしょうか?今日は大事な時にタクヤ様のそばにいることもできなかったしクラークに遅れをとってしまいました。オークの時だってタクヤ様一人ならもっと早く終わってたはずだし私なんていらなイタッ……!」


  タクヤはホロの頭を軽くチョップして軽く説教する。


  「ホロはつい最近まで奴隷で俺と一緒に冒険者やってまだ数日なんだぞ?それなのにもうオークチーフまで倒せて魔術師と他十人の攻撃を捌きながら半分は減らせたんだ、他の冒険者が聞いたら目から血の涙流して羨む成長速度だよ。それにクラークに騙されたのは俺も同じだから気にしなくていいんだよ」


  「そ、そうでしょうか……タクヤ様がお強いので冒険者はそういうものなのかと思ってました……」


  「……俺がたくさんいたら竜を封印するまでもなく絶滅させられるだろ……一匹を除いてだけど。とにかく気にしなくていいから自分のペースでやってみなさい、何ヶ月も何年もやってから文句言いなさい。あと二度と私なんてって言うのも禁止な。ホロが好きだから助けたんだからな……」


  頭を撫でながら諭してやるとホロはとても嬉しそうに微笑んでくれた。


  「うふふ、ありがとうございます。では私はタクヤ様のお背中を守れるようにこれからも精進します。あとご褒美は私が決めたいのでよろしくお願いします……私も大好きですタクヤ様。お休みなさいませ」


  どさくさに紛れて告白してしまったがホロは受け入れてくれた。ご褒美はやっぱりアレなんだろうなーとか思いながらタクヤは眠りについた。




  サラマンダーの背中に寝そべっているリューグは寝ているサラマンダーに質問をした。


  「今日はいつもとは戦い方を変えていたわね……あなたらしくない」


  「完全に信用していない相手に普段の戦い方を見せて学習されるのは嫌でしたので力押しにしました。申し訳ありません」


  「いいのよ〜あんな恐ろしい魔術を前にしても逃げないあなたは素敵だったわよ……あとはいい雌を見つけるだけなんだけどね」


  「それは言わないでください……それよりもリューグ様はなぜ私の背中で寝てるんですか?」


  「あなたの背中あったかいから寝やすい……もう寝る」


  「はあ……お休みなさい」


  その日サラマンダーはほとんど寝れなかったのであった。

 

 


 


 

 


 




 


 


 



 


 


 


 


 

 


 

 

 


 

 

サラマンダー……本来は火山地帯や砂漠に生息している魔物。見た目は役八メートル程もあるコモドオオトカゲ。竜とはなんの関係もないがリューグの加護を受けているためブレスを吐けるようになっている。その黒く硬い鱗はどんな炎だろうと吸収してしまうが例外は常に存在する。魔人ボアラと戦うと力では負けるが炎の耐性がないボアラがわずかに不利になる。ちなみにボアラが狂化を使うと負けるのでボアラはさっさと狂化を使っておけばタクヤに勝てた。サラマンダーの雌は色気より食い気が張っており、スマートな体型の雌が見つからず途方に暮れている雄が多いらしい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ