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チート転生者と白狼娘  作者: ゴルゴン
12/17

呪竜とサラマンダー、グリフォンはおまけ

サラマンダーを蜥蜴にするか竜にするかで小一時間悩みました。好きな魔物だからかっこよくしたいですね。

  「クラーク様!目的地に到着しました!」


  タクヤは報告を聞くと誰よりも先に馬車から降りると周りの景色を見渡した。

  まるで塔のように高い木々が並んでいる神秘的な光景に感嘆の声を上げる。

  いつの間にか隣にいたホロも同じ感想を抱いたようで「うわぁ〜……」と声を出している。

  空ではいくつもの影が飛んでいるのが見える。おそらくあれらが件のヒッポグリフなのだろう。影の大きさはどれも同じなのでグリフォンはいないようだ。


  クラークは軽く返事をして馬車から降りるとあたりをキョロキョロと見渡している。


  「近くに魔物はいないようだけどどうした?」


  「ん?いや魔物達を監視している者達とここで落ち合うはずなのだが見当たらなくてな……仕方ない、僕たちだけで調査しにいこう。地図は持っている」


  監視していた人達は気になるがこの光景が山火事になるのは嫌だしクラークの意見に賛成する。


  キャンプの準備はクラークが案内人に任せていた。

  貴族の権力を垣間見た瞬間である。


  山に入ってしばらくするとなんとなく焦げ臭い匂いがしてきた。

  薄暗くて確認しづらいがよく見ると草や木の表面が焦げている。

  死体がないのはフレイムリザードが肉食だからだろうか?


  「よし、ここからは君達が先を歩いてくれるか?気になったことがあればいつでも言ってくれ」


  「わかった、俺たちは護衛が主な任務だし文句はない。俺が先頭でクラークは真ん中、ホロは最後尾を頼む」


  「わかりました!」


  「了解した」


  タクヤは仕事モード(覇竜の瞳を使用)になり周囲を警戒しながら進んでいく。

  しばらく進むと大木が倒れていた。


  「タクヤ様、木の向こうに何かいます」


  「ありがとホロ、二人ともここで待機しててから」


  ホロは匂いを嗅ぎながら報告してくれる。この二日間で随分獣人の感覚が戻ったものだと感心した。


  倒れた大木まで素早く移動し木の上に登り向こう側を確認すると魔物の死骸数匹と人が二人倒れていた。


  周囲に魔物がいないことを確認するとホロとクラークを呼んで倒れている人のところへ向かう。


  クラークがすぐに二人組の容態を確認したがすでに事切れているらしく首を横に振って今度は魔物の死骸を確認する。


  「こいつらは全てヒッポグリフだ。ただ焼け焦げている個体もいるからヒッポグリフと交戦している時に地中から奇襲されたかもしれないな……」

 

  「クラーク、構えろ。そろそろくるぞ」


  タクヤとホロはすでに武器を構え前方を凝視する。

  今回ホロは弓を装備している。

  クラークも慌てて杖を構え魔力を溜める。


  ガサガサと音がして前方の草むらから五匹のヴェロキラプトルと酷似した魔物が出てきた。

  大きさは1メートルくらいだろうか?

  どの個体も体に傷がある。

  ヴェロキラプトル擬きはこちらを見つけると「フシャァァァッ!!!」と牙を向いて威嚇してきた。

  驚くことに威嚇すると同時に顔から炎が吹き出しエリマキのような形になった。

 

  「フレイムリザードだ!近くにヒッポグリフもあるかもしれないから気をつけろ!」


  「任せろ、さっさと片付けるぞホロ!


  「了解です!援護は任せてください!」


  タクヤは『風体』と『竜力』を使い一気に距離を詰めるいつも通りの戦い方でいくことにした。

  フレイムリザード達はタクヤに狙いを定め口から火玉ファイアボールを吐き出してくる。

  タクヤは三発は左に飛んで回避し残り二発は『風体』を纏わせた神羅で切り払った。切られた火玉は風の力で霧散した。


  火玉での迎撃に失敗したフレイムリザードのうち一匹がジャンプして飛びかかり他の二匹で左右から突進、残り二匹はタクヤの脇を抜けてホロとクラークの方へ走っていく。

 

  「フシャッ?!!」


  飛びかかってきたフレイムリザードの首に矢が突き刺さる。

  ホロが撃ち落としたようだ。

  あとで頭を撫でてやろうと考えながら右のフレイムリザードは神羅のリーチを活かして突きで口の中に刃を入れそのまま頭を貫く。左のフレイムリザードは『竜力』の力で顔面を蹴り飛ばした。


  「フギャッ!!!」と悲鳴をあげて草むらの奥に吹っ飛んでしまった。

  その間に素早くなどに突き刺したままの神羅を抜き草むらに向けて『鎌鼬』を撃ちとどめを刺した。


  「ギッ……」と断末魔の声を出して草むらにいたフレイムリザードは生き絶えた。


  ホロとクラークの方を見ると二人とも難なく捌いていた。

  ホロは武器を素早くジャマダハルに変形させ火のついた爪で引っ掻いたり噛み付いたりしてくるフレイムリザードの攻撃をかわしエリマキの炎に接触しないように背後に回りながら胴体や足を狙いながら少しずつ切り刻んでいった。

  やがて足にガタがきて倒れたフレイムリザードの首にジャマダハルを突き刺しとどめを刺した。


  「水霊よ、我が呼びかけに応えよ!『水針ウォーターニードル』!」


  クラークは素早く呪文を唱え空中に無数に浮かべた水の針でフレイムリザードを蜂の巣にしていく。


  フレイムリザードは最初はエリマキで頭部をガードしていたが雨のように降ってくる圧縮された水の刃の攻撃を受け続け次第に炎が消え全身穴だらけになりながら生き絶えた。


  「お疲れさんホロ、いい援護だった。その調子で頼む。クラークもやるな!あんな数の魔術は俺じゃあ撃てない」


  「ありがとうございます!胴体を狙ったつもりでしたがたまたま首に当たってよかったです!」


  「一匹程度ならどうってことはない、それより君は僕より早く三匹処理したんだから凄まじいな……それにそんな魔術は今まで見たことがない!それはどうやって……」


  クラークが興奮気味に話していると今度はバサバサと空から音が聞こえてきた。


  「ギャァァ!ギャァァ!!」

  「ギャァァァ!!!!」

  「キュゥゥゥ……」


  見上げると三匹の魔物が空中からこちらを威嚇している。一匹だけなんとなく弱気な鳴き声を上げているが気にしない。


  ワシの頭に水牛のような角が生え前足はタカ、胴体は馬の体に羽毛が生えているような感じで後ろ足と尻尾も馬と同じ形をしている。

  大きさは全長三メートルといったところだろうか?


  「さっきのフレイムリザード達を追ってきた奴らかもしれん……!迎え撃つぞ!」


  ホロとクラークは遠距離攻撃ができるが俺はどうするか……あまり人前で死炎は使いたくないし鎌鼬でいけるか……あ、あれやってみるか。


  ホロとクラークはそれぞれ一匹ずつ交戦を開始している。


  タクヤと向かい合っているヒッポグリフはタクヤよりはるかに弱いが『鎌鼬』を撃ってタクヤを疲弊させようとしている。

  クチバシのせいで表情は変わらないがどこか嘲笑っているような感じで「クココッ!」と鳴き声を上げている。


  タクヤはヒッポグリフの近くの大木に向かって『鎌鼬』を撃ち上手く穴を開け窪みを作る。

  何をしているかわからないヒッポグリフは舐められていると思ったのかさっきよりも激しく『鎌鼬』を撃ってくる。

  足に力を込め思いっきり先ほどの窪みにジャンプし足を引っ掛け間髪入れずにヒッポグリフに向かって飛びかかり脇に神羅を突き刺す。

  ヒッポグリフもこれには驚いたようで「ギャァァァッ?!!」と間抜けな声をあげタクヤと共に墜落する。

  着地すると同時に一瞬だけ『死炎』を使いヒッポグリフを燃やし尽くした。


  「ふぅ……中々面倒な相手だったな」


  ホロとクラークはすでに戦闘を終わらせておりタクヤの様子を観察していたのかホロは興奮しクラークは唖然としていた。


  「なんですかあれ?!タクヤ様いつの間に獣人並みの身体能力を手に入れてるんですか?!それに比べて私は矢が結構外れちゃいました……」


  ホロはしゅんとした感じで耳が垂れ下がっている。


  「なんなんだあれは……最近のC級の冒険者はあのくらいできなければいけないのか……?」


  クラークは独り言をブツブツ呟いている。


  ホロが倒したヒッポグリフは矢で穴だらけになっている。頭部を狙おうとしていたようだが胸や胴体の方が矢の数が多いからまだ安定して狙いをつけれるわけではなさそうだ。

  クラークの方は首が切られている無駄のない戦いをしていたようだ。


  「初めて弓を使ってる割には上出来だ。頑張れよホロ。クラークの方も無駄がないな、さすがは魔術師じゃないか」


  そう言いながらホロの頭を撫でているとホロの耳がだんだん復活し気持ちよさそうに目を細め尻尾をブンブン振っている。


  「おーいクラーク起きろ〜調査が遅々として進まないぞ」


  「ハッ!!そ、そうだな……とりあえず前方からきたということはまだ争っているかも知れない。もしかしたら原因はそこにあるかもしれないな」


  気持ちを立て直したクラークが推論をだす。


  「奴らの巣に問題があるということは考えられないのか?」


  「いや、彼らは獲物はすぐに持ち帰る上に木の上と地中や洞窟という違いすぎる環境のせいでぶつかることは多くないし争うならヒッポグリフならグリフォンと、フレイムリザードはサラマンダーとの方がはるかに多かったのだ」


  「なるほど、だから奴らが争っている中心が怪しいと……」


  「ああ。わざわざ逃げてきたフレイムリザードを追うほどの執念深くなってる奴らの中に介入するのはかなり危険だが少しだけ確認したらすぐに逃げ帰り対策しよう」

 

  「わかった、だけど本当に危険だと判断したら気絶させてでも連れ帰るぞ。クラークを死なせないようにすんのが仕事出だしな」


  「それで構わない、さあ行こう」

 

  三人でさらに奥に進んでいく。

  何度か魔物の襲撃にあったが順調に進んで行く。

  奥に行くに連れフレイムリザードとヒッポグリフの死骸や草木の焦げる匂いに風の刃で傷ついた木が目立ち遠くから合戦のようにフレイムリザードとヒッポグリフの雄叫びが聞こえてきた。

 

  やがて空に向かって『火玉』を撃ちまくるフレイムリザードの大群と『鎌鼬』を撃ちまくるヒッポグリフの大群が見えてきた。

  火玉がかすり翼が燃え地に落ちたヒッポグリフに一斉に群れで襲いかかりズタズタにされるヒッポグリフに一撃で首が落とされたりたまに地上に向かって突進してくるヒッポグリフの角が刺さり串刺しにされるフレイムリザードがいたりかなり血生臭い状態になっている。


  俺たちは少し離れた高所から戦場を見渡す。

  ホロには周りの警戒を頼んだ。

  戦場となっている部分は荒れ果てており木々は倒れ燃え散らかり倒木に下敷きになっているフレイムリザードや全身黒炭になっているヒッポグリフなども転がっておりかなり臭い。


  「……どうだクラーク、何かわかるか?」


  「ふむ……特に変わったことはなさそうに見えるが……なあ、あの戦場のど真ん中にある岩が怪しくないか?」

 

  「……見た目は完全にただの岩だが、しばらく観察してみるか?あいつらはここから動く気がなさそうだしな」


  その時後ろから猛スピードで何かが接近してくる気配を感じタクヤは慌てた振り向いた。

  木の上を何かが飛んできている。

  葉っぱのせいでよくわからないがヒッポグリフの2倍以上はありそうな巨体だ。


  風圧のせいでホロとクラークもかなり驚いたようだがなんとか声を出さずにいてくれた。


  魔物達も驚いたように


  「キュゥッ?!?」

  「フシャッ?!!!」


 と鳴き声を上げている。

  風圧の正体がゆっくり降りてくる。

  鷹の顔と前足、ライオンの胴体と後ろ足と尻尾の怪物。

  グリフォンが現れたのである。


  『キュォォォォォォォッ!!!!!!!!』


  グリフォンは空気を震わせて魔物達を威嚇する。

  大樹山の空の王の威厳を示すかのような咆哮を受け魔物達は萎縮している。

  中には威嚇する猛者もいたが風の大玉で弾き飛ばされ空中で風に切り刻まれ分解される。

  まるでボール状にした竜巻の中に鎌鼬を封じ込めているかのような魔術に感心したような眼差しを向けるタクヤ。

  真似してみようと魔法をイメージしていると今度は別の咆哮が大気を震わせた。


  『ゴァァァァァァァァァッ!!!!!!』


  咆哮の後ドシンッ!ドシンッ!と大地を踏みつける音がゆっくりと近づいてくる。

  薄暗い森の中から一本の溶岩の鞭が飛んできてグリフォンを狙う。グリフォンが回避すると後ろにいたヒッポグリフの体を貫通しそのままヒッポグリフを引っ張っていった。


  森の奥から出てきたのは七、八メートルはあろうかという巨体の全身が赤熱し蒸気を上げているコモドオオトカゲだった。

  どことなくメルトダウンした某核怪獣を思い出す見た目だ。


  タクヤは両者を鑑定で確認する。


  グリフォンLv45。スキル・鎌鼬、竜巻トルネード風衝ウィンドブラスト、風体。

  サラマンダーLv47。スキル・硬化、炎体、炎の吐息フレイムブレス、剛力、溶解舌、炎爪。


  強いな……おそらくグリフォンが使ったのは風衝でサラマンダーのは溶解舌か?サラマンダーは見た目はコモドオオトカゲだが舌は伸縮自在みたいだな。


  「クラーク、ホロ、大丈夫か?」


  ホロ達は耳を抑えていたそうに目を閉じて歯を食いしばっていた。よほど咆哮がこたえたのだろう。

  某ゲームの狩猟者達がモンスターの咆哮を受けた時のポーズを思い出した。


  「うぅ……まだ耳がジンジンする……なんでタクヤ君は平気なんだ?」


  「それは置いといてだ。この状況かなりまずくないか?グリフォンもサラマンダーもお前の魔法やホロの弓でなんとかなるようには見えないが……」


  「う、うむ……今は威嚇しあってるだけだがまさに一触即発だな、いつ激突するかわからないししかも両者とも成熟しきった個体のようだしこれは国に報告し討伐隊を組んだ方がいいかもしれない」


  そう言うとクラークは背をむけて懐から手帳を出して魔術でメモを取っていく。

  貴族の持ち物の便利さに感心しながらサラマンダー達を監視しているとサラマンダーが先ほどクラークが原因なのでは?と言っていた岩の下に舌を伸ばして何かを引っ張りだしているように見える。


  タクヤはその光景を『覇竜の瞳』を使い観察していると岩の下から見すぼらしい布切れだけをまとったような美女が出てきた。

  美女は気絶でもしているのかピクリとも動かない。

  サラマンダーはその美女を丁寧に背中に乗せるとグリフォンを睨みながら帰っていく。

  グリフォンはサラマンダーが奥に行くまで睨み続け消えるのを見届けるとまるで魔物達を解散させるかのようにひときわ大きな咆哮をあげた。


  魔物達はビクリとした後蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていった。

  グリフォンはそれを確認するとチラリとこちらを見て飛んでいってしまった。

 

  ホロの耳は咄嗟に塞いだが咆哮のせいでクラークが気絶しそうになったがなんとか持ち直していた。

 

  「クラーク、俺たちはここに残ろう。お前はギルドにこの状況を報告してきてくれないか?」


  「君は何を言っている?今すぐ全員で撤退し討伐隊を率いてここに戻って来るべきだろう」


  「だが監視している者達が死んでいる以上誰かが残り監視していた方がいいのではないか?今は魔物達は引いていったがまたいつ奴らが激突するかわからないぞ?」


  「うっ……たしかにそうだが君らが残ったら僕の護衛はどうなる?」


  「ホロに街まで同行させよう、俺だけならどうとでもなるはずだ」


  「たしかにホロさんがついていてくれるなら心強いが……ええい!仕方ない!それで行こう、時間がない」


  俺とクラークの決定にホロは涙目になって何かを訴えるような表情をしているが心配ないと言うようにホロの頭を撫でながら説得した。


  「大丈夫だホロ、死にはしないよ……この争いの原因っぽいのを発見したから救出したらすぐ帰る」


  最後の方は小声で伝えるとホロは渋々納得してくれた。


  「わかりました……タクヤ様なら心配いらないでしょうがどうかご無事で……」


  「おう、帰ったら尻尾を櫛で梳かしてやるよ」

 

  「……約束ですよ?」


  ホロは表情にはあまり出さないようにしているが尻尾がちぎれんばかりに振られているので喜んでいるのがバレバレである。


  「では我々は一旦離脱する、タクヤ君。死ぬなよ」


  それだけ言うと二人は来た道を戻って行く。


  二人が見えなくなるまで見届けるとタクヤは振り返り上空からこちらを見ている魔物に目を向けた。


  グリフォンは立ち去ったふりをしてずっとこちらを見ていた。

  おかしなことにグリフォンからは全く殺意を感じない。先ほどもこちらを奇襲することはいつでもできたはずなのだがそれをしなかった。


  グリフォンは地上に降りタクヤに背を向けて歩き出した。途中で止まり首だけこちらに向けるとついて来いと言わんばかりに顎をしゃくりまた歩き出した。


  タクヤは一応神羅を抜き警戒しながらついて行く。

  グリフォンの歩いて行く方向は先ほどサラマンダーが帰っていった道だ。


  しばらく歩くと大きな洞窟が見えてきた。

  グリフォンは洞窟の入り口で思いっきり咆哮を上げた。しかし洞窟の主人であろうサラマンダーは出て来る気配が感じられずグリフォンは苛立ったように入り口の周りをウロウロしだした。

  我慢の限界にきたのかグリフォンはウロウロするのをやめて『鎌鼬』を洞窟内に撃ち込んだ。

 

  鎌鼬を撃ち込まれてようやくサラマンダーがドシンッドシンッとゆっくり顔を出してきた。

  その広い背中に先ほどの女性は乗せていない。

  サラマンダーはタクヤを睨んでいる。すると頭の中に声が流れてきた。


  『人間、お前に我が主のリューグ様が用がある。ついてこい。ご苦労だったグリフォン、去って良いぞ』


  グリフォンは何も答えずに飛んでいってしまう。


  『すまんな人間よ、この騒ぎの原因を突き止めにきたのであろう?それは我が主だ』


  洞窟内を歩いているとサラマンダーが謝罪してきた。


  「それはさっきの美人のことか?」


  『うむ、名をリューグという「カースドドラゴン」だ。ここからは主から聞くといい。リューグ様!お連れしました』

 

  「ああ、ありがとうサラマンダー……私は少しこの男に用がある。下がっていてくれ」


  洞窟内は暗くてよく見えないがリューグ様とやらは目の前にいるようだ。

  サラマンダーは無言で静かに下がっていく。

  静かになるとリューグはゆっくり姿を現した。

  先ほどの美人な人が出てきた。

  サラサラの腰まで伸びた黒髪に黒い捻れた角が生えており瞳も黒い。

  暗い喋り方と暗い表情といい奴隷のような布切れを着ていることといいなんとなく薄幸な雰囲気を醸し出している竜だ。

 

  「この洞窟では狭すぎるゆえ人の姿で喋ることをお許しくださいシンラ様……なぜシンラ様から人の匂いがするのでしょうか?」


  『ふん、呪竜か……相変わらず暗い奴だ。眷族よ、奴に刀を渡せ』


  タクヤは神羅を鞘に収めリューグに渡す。

  リューグは首を傾げながら神羅を受け取るとすぐに暗い表情が歓喜の色になった。


  「はい…はい……わかりました、ではタクヤ様にあの子を任せてもよろしいですか?力を示してもらわねばなりませんが……ええ、相手はサラマンダーにやってもらいます」


  会話が終わったのかリューグは俺にひざまづいて神羅を返却してくる。

  態度が変わったことに驚いたがリューグは先ほどのような暗い表情ではなく目に光が宿っている。


  「我が君のお声を聞くことができました……ありがとうございます。タクヤ様に一つお願いがあるのですが聞いてはもらえないでしょうか?」


  「願いによるけどなんだ?」


  「はい、実は私には娘がいるのですがあの子を共に連れていってはもらえないでしょうか?見た目と実力は保証できます……あとはタクヤ様の強さを見せて頂きたいのです。我ら竜は強者にこそ従う種ですので、娘も遠くから見ています、覇竜様の眷族ならばサラマンダーは下していただかなけれら困ります」


  『リューグは使えんが娘の方はかなり使えそうだぞ、話を聞く限りではあるがな。あと今から眷族にはサラマンダーと一戦交えてもらう。殺し合いではないが致命傷までは合わせても良い、殺す気でやらなければ死ぬからそのつもりでな』


  「勝手に戦うことにするなよ……まあサラマンダーとは戦って見たかったからいいけどさ」


  「では先ほどの戦闘跡に行きましょう、サラマンダーも出てきてください。タクヤ様と戦っていただきます」


  入口の方を見るとちょうど獲物を仕留めたのか巨大な山羊のような魔物を引きずってくるサラマンダーがいた。


  『私は構いませんが人間はよろしいのですか?』


  「俺なら大丈夫だ、やるなら日が高いうちにやろう。夜は寝たいんだ」


  寝たいという言葉が舐められていると思ったのかサラマンダーは静かにタクヤを睨む。


  『わかりました、では行きましょう』


  リューグはサラマンダーの背中に乗って移動している。

  タクヤは素朴な疑問を聞いてみた。


  「なんであんな騒ぎを起こしたんだ?そのうち連れが討伐隊を組みに行ったぞ」


  「フレイムリザードとヒッポグリフのことですか?彼らは私に取り入ろうと力を示していたようです。魔物にとって竜の後ろ盾があるのはとても大きいようなので……グリフォンとサラマンダーは無関係です」


  「お前達がそう思っていても人はそうは思っていない、しばらくは身を隠しておいた方がいいだろうな」


  そうこうしているうちに先ほどフレイムリザードとヒッポグリフ達が戦っていた場所に着いた。


  大木が倒れていたり魔物の死骸が転がっていたり障害物が多いから多少は有利に戦えるかもしれない。


  リューグはサラマンダーの背中から軽くジャンプすると木の上に着地していた。ジャンプの予備動作すらなく気づいたら上に着地していた。

  魔力は感じられなかったので純粋に身体能力のみで飛んだのだろう、竜の力の一端を感じた。


  タクヤは自分に鑑定を使いレベルとスキルの再確認をする。


  覇竜の眷族タクヤ、Lv40。スキル・竜力、覇竜の瞳、風体、鎌鼬、死炎、竜体化、混同魔術。


  スキルが増えてる、あとはスキルのレベル評価も消えてるな……まああってもなくてもなんとなく威力は理解しているから問題ないが鑑定もいい加減なスキルだな。


  混同魔術を鑑定してみると詳細が頭の中に浮かんできた。


  混同魔術……その名の通り異なる属性の魔術を混ぜて使うこと。炎と水のような相反する属性同士は使つことができないが自分だけの魔術を作ることができる。


  「使えそうだな、早速試してみよう」

 

  「いつでも始めて結構です、ヤバくなれば私が止めますので安心して暴れてください」


  『ということだ、遠慮なく行かせてもらうぞ人間よ、何か言うことはあるか?』


  「手加減無用、本気でこい!」


  今サラマンダーとタクヤの戦いの火蓋が切って落とされた。

 


 


 


 

 


 


 


 


 

 


 

フレイムリザード……ヴェロキラプトルのような見た目をしている魔物。普段は体の炎を消しているが獲物や外敵を発見するとエリマキに炎をつけ威嚇する。口から火玉を吐き身体能力も高く群れで狩りを行う。エリマキは閉じたり開いたり顔や首を守るのにも使われる。

ヒッポグリフ……鷹の顔と爪に水牛のような角、体は馬の魔物。一匹一匹はフレイムリザードよりも強く空を飛んで鎌鼬で弱らせてから突進で仕留めるのが基本的な戦術。ハーピィよりも体が頑丈なので多少弓矢を浴びても落ちてこないためC級冒険者の壁とも言われる。


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