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8.夜会 ②

 ヴェルト・カザル。十八歳

 カザル伯爵の長子であり、次期伯爵としての地位を持つ。



 カザル伯爵領は王都の南に位置し、王国南部の物流中継拠点として栄えてきた歴史がある。

 王族直轄領で収穫された食料の一部は王国南部へ送られ、王国南部の特産品や工芸品は王都へ運ばれる。その物流ルートは必ずカザル伯爵領の領都を通過していた。

 物流中継拠点とは商人にとって目的地へと繋いでくれる生命線だ。仮に二十日間の輸送ルートがあるとして、その間に中継拠点があると無いとでは成功率が大きく変わってくる。中継拠点があれば品物を運ばせていた馬の不調や怪我、食料の不足や天候の悪化など、不測の事態に対処しやすくなるのだ。

 よほどの理由がない限り、行商人たちはカザル伯爵領の領都を中継拠点として利用する。行商人が集まる街には、行商人という需要を満たすために街商人が集まる。そうしてカザル伯爵領の領都は多くの商人が集まる一大商都として成長してきた。

 そしてカザル伯爵は、北から来る食料と南から来る特産品や工芸品に関税を掛けることで、莫大な財と地位を築いている。領都から閉め出されれば大事な行商ルートが潰れるということもあり、カザル伯爵は商人たちにとって王のような存在だった。

 そんな伯爵を父に持つヴェルト・カザルは、金を持つ商人が父に頭を下げて媚びへつらう光景を見て育っており、偉大な父の後継者という自信が心に深く根付いている。

 将来的には金も地位もある。そんな自分に足りないものは女だと考えたヴェルト。

 彼の将来性や容姿に目をつけて群がってくる商家の娘は多いが、我慢ならなかった。甘い言葉を囁やけば言いなりになる女では、自分の品位が落ちる。

 そこでヴェルトはヴィルブランド伯爵家の令嬢に目をつけた。カザル伯爵領と接しており、王族の嗜好品に選ばれる林檎を生産するヴィルブランド領は、王国の最高権力者へと繋がりを持っている。豚鬼の襲撃という些事は令嬢を嫁として迎えた後、定期的に金でも送れば問題ない。ヴェルトにとって豚鬼とはその程度の存在だった。



 野心と欲望に染まったヴェルトが出会ったヴィルブランド伯爵令嬢は美しかった。

 燃えるような赤髪に整った顔立ち。若いながらも匂い立つような色気を放つ肢体。それがニトローナ・ヴィルブランド伯爵令嬢。

 ヴェルトは彼女が自分が選ぶに相応しい女だと確信する。

 しかしニトローナは身の内に強大な意思と力を秘めていた。

 領地の繁栄による利益、王国南西部から送られてくる宝石類、感情に訴えかけるような情熱的な言葉。それら全てをぶつけてもニトローナは揺らがない。それどころかヴェルトは殺意すら向けられた。

 この女は一般的な令嬢とは違いすぎる。そう言い訳するようにヴェルトはニトローナから手を引いた。


 そして姉が駄目ならば、将来的に絶世の美女に成長するであろう妹のセリン・ヴィルブランドと婚約すればいい。ヴェルトは第二王子主催の夜会を利用しようと考えた。

 セリンとの面識はないが、姉妹はお互いに負けず劣らず美しいという情報は掴んでいる。十三歳という少女ならば、年頃の女が惹かれるような言葉や物品を使って落とすのは容易い。

 そう考えていたヴェルトは、夜会でセリンを一目見て確信した。

 姉と同じ燃えるような赤髪、小柄ながら美しい流線を描く白磁の身体、初めての夜会に緊張感を湛えた青い目。

 あの少女は数年もすれば大輪の薔薇を超えるほどの美しさを得る。完成されつつあるニトローナとは違い、セリンは未成熟ではあるが将来性が大きい。

 ヴェルトは獲物を狙う獣のような野心を隠し、姉妹が離れるのを待つ。そして爽やかな笑顔で顔をコーティングしてセリンに近づいた。


「お初お目にかかります、ご令嬢。私はカザル伯爵を父に持つヴェルト・カザルと申します。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ひゃ、はい?」


 夜会どころか異性に話しかけられることに慣れていないのか、セリンは肩を震わせて恐る恐るヴェルトを見上げる。赤いドレスに包まれる未熟な身体を持つ少女は、近づいて見るほど美しく感じられた。

 ヴェルトは溢れそうになる野心を抑えつつ言葉を続ける。


「これは失礼。驚かせてしまったようで申し訳ない」

「い、いえ、こちらこそ」


 セリンは恐怖や緊張を身の内に押し込めると、姿勢を正して優雅に一礼。


「お初お目にかかりますヴェルト・カザル様。私はヴィルブランド伯爵家次女、セリン・ヴィルブランドと申します」


 礼から頭を上げたセリンの表情には先ほどの同様は一切見られない。見事に令嬢を演じていた。

 ヴェルトは相手が子供であるという意識を捨てて、商人たちと取引するときのように油断のない姿勢で臨む。セリン・ヴィルブランドは自分の欲望を満たすに足る相手なのだ。

 

 ヴェルトはカザル伯爵領の近況を話しつつヴィルブランド伯爵領の様子を訪ね、お互いの領地の違いを意識に植え付ける。そしてカザル伯爵領は交易拠点としてどれほどの物と金が集まっているかを強調する。こうすることでセリンに対して、カザル伯爵領には未知のものが数多く存在すると印象づける。

 ヴェルトの思惑通り、セリンは興味深そうに聞き入っている。そこでヴェルトはこう口にする。


「よろしければ、我が領地にご招待しましょうか? 様々なものが集まる我が領地なら多くのことを学べますよ」


 相手の好奇心を刺激しつつ、その好奇心を満たす提案を述べる。商人が使う交渉術の一つだ。

 需要を満たすのが商人だが、時には需要を操りながら供給することもある。数多くの商人と交渉してきたヴェルトの父、現カザル伯爵から教えられたことだった。

 

 これなら多少は良い反応が得られるものと考えていたヴェルトだが、セリンは困ったような愛想笑いを浮かべる。


「申し訳ありませんヴェルト・カザル様。大変ありがたいお誘いなのですが、私にはまだ自領で学ばなければならないことがありますので、他の領地へ赴くことはできません」


 セリンが口にしたのは貴族子弟・子女が誘いを断るための方便だ。これに異を唱えれば相手貴族の教育方針に干渉することになる。最悪、貴族領に対する内政干渉と受け取られかねないため、絶対にお断りという意味でも使われる方便だ。

 ヴェルトの笑顔に僅かに歪む。セリンの自制心は思った以上に強い。断るにしても「自分では判断できないから父に相談して決める」という意味だと予想していた。しかし完全な拒絶だとは思いもしなかった。

 こうなってはそう簡単にことは進まない。

 

 どうしたものかと思考するヴェルトに、背筋を凍らせる響きが込められた言葉が向けられる。


「私の妹に何か御用ですか? ヴェルト・カザル殿」


 妹を庇うような位置に進み出てきたのはセリンの姉、ニトローナ・ヴィルブランドだった。

説明が多くて展開が遅い\(^o^)/

次こそは妹を守るシスコン姉を書く

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