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21.狩るものと狩られるもの

 人の管理が入らない森というものは、人の目から見れば混沌としたものに映る。

 まず道がない。足元は落ち葉や苔で溢れかえり、所々で木から伸びた根っこが高低差を作っている。無秩序に林立する木が歩む者を強制的に蛇行させる。

 そして昼だろうと薄暗い。剪定されない木は好き放題に空へと枝を伸ばし、太陽光を遮っていた。

 最後に弱肉強食の摂理が全ての生物に適応され、弱者は餌として喰らわれる。薄暗い森で咲けるほど強い花に群がる蝶や蛾がいれば、花に群がる羽虫を狙う蜘蛛がいる。そして蜘蛛を狙う鳥もいれば、鳥の死骸に群がる蟻もいた。

 この森では誰もが弱者を食らいつつ、最後には喰われて終わる。

 人の目に混沌と映るとしても、それが自然の摂理であった。



「この森は一月も経てば生態系が大幅に変わる。それこそ、生態系最底辺の種が上位に成り上がることも珍しくはない」


 そう言って木々を見上げるイシュランディル。

 彼が言うには生態系が絶えず変化し続け、大森林に存在する生物たちの生息域が一定ではないため、安全な進路を選択することは出来ないらしい。


「儂が最後にこの森を通ったのは八年ほど前だ。あの頃生息していた種の大部分は入れ替わっているだろう」


 つまりどのような生物が襲ってきても不思議ではない、ということだった。

 

 目標である緑の部族の集落は大森林の北部に位置している。しかし現在地から大森林北部へ直進すると沼地を通らなくてはいけないため危険が大きい。

 まずは東進し、大森林を北から南へ縦断する川を目指すことになった。川へ到達したら北上し、上流で西に流れる支流を下れば集落にたどり着くという話だった。





 そして旅の一行は大森林へ足を踏み入れーー全員揃って走ることになった。


 落ち葉を蹴散らし、木の根を乗り越え、時折現れる獣を切り伏せ、目的地を目指す。


「走れ走れ走れ!」


 森にイシュランディルの声が響く。旅の一行は今、森に生息する獣の群れに追われていた。

 大森林へ足を踏み入れ、背後を振り返っても森しか見えなくなった頃、とある獣に奇襲を受けたのだ。

 



 



 尻尾の生えた四本足に緑色の皮膚をした犬のようでいて犬ではない獣。犬の毛を一本残らず抜き取り、草の汁を全身に塗りこんだような生物だった。

 地面の草や苔が保護色となり薄暗い森では判別しづらく、その上匂いを嗅いだ経験が無いせいか犬のセルロゥでも発見できず、奇襲を許すこととなった。

 とはいえ奇襲を受けても反撃できる反応を示したのがセルロゥであった。


 緑の獣はまず旅の一行を横合いから奇襲した。大きな木の根を乗り越える際に隙ができ、一行の中でもっとも弱いプルトンが狙われた。矢のごとく走りよる緑の獣が獲物に向けて牙を剥き、口を開けて跳びかかった直後、その横からセルロゥが同じように跳びかかり、緑の獣の首に噛み付いたのだ。いわば奇襲する獣の横から隙を突いた形になる。

 セルロゥが獣の首に噛み付いた勢いで二転三転したあとに上を取って押さえこむ。そこに走り寄ったニトローナが緑の獣の頭部へ剣を突き立てた。


「ギェィン!」


 短い断末魔を上げた緑の獣は二、三度痙攣して息絶える。

 

 そこへ獣の群れがやってきたのだ。

 周囲に気配はあれど視界に映る数は少なく、木の影から隙を伺っているのがよくわかった。

 目に映る獣は唸り声を上げ、木の影にいる獣は跳びかかる時を静かに待っている。これは注意を引く役と襲う役で役割分担された狩りだった。

 ニトローナ達は自然とプルトンを中心に円を作る。この中で最も危険なのはプルトンであり、同時に最も失ってはならない者だった。


「これはちょっとまずいんじゃない? 囲まれてるね」

「イシュランディル、どうする」

「こやつらは森に適応した魔獣だ。この辺りは恐らくこやつらの縄張りだろう。この場で殲滅するか、縄張りの外へ逃げるほかあるまい」


 どちらもリスクは高く、命の危険があることに変わりはない。だがこの場に留まるのはさらなる危険を呼び寄せる可能性もある。。

 ニトローナはイシュランディルに問う。


「こういう奴らの縄張りはどれぐらいの広さがあるんだ?」

「詳しくはわからぬ。だが川までは縄張りになっていない可能性が高い。たどり着くのに数日かかる程の距離にあるからのぉ。恐らくその途中で縄張りは抜けるだろうが、この暗さでは走りながら方角の判別はできん。逃げるのなら儂の同胞はらからに案内役をさせよう」


 その言葉と共にイシュランディルの肩に緑の光が現れ、弾ける。すると緑の羽根を持つとても小さな鳥が虹賢者の肩に止まっていた。指一本分程度の大きさしかなく、まるで虫のようだった。

 赤蜥蜴のサラマンデルと同じ存在なのだろう。薄い緑色の光を纏っていた。


「そいつが案内役か?」

「緑蜂鳥のシルフィドだ。こやつが導いてくれる」

「なら問題ない。逃げるとしよう」

「私もそれでいいよ、なんか嫌な予感するし。先頭は私がやるからプルトンお願いね」

「プルトンは私が背負おう。殿を頼めるか、イシュランディル」

「うむ。任せておくがいい。では準備はいいか」


 緑蜂鳥が短剣を抜いたラギスの近くでホバリングし、ニトローナがプルトンを背負った。プルトンは若干怯えた表情を見せたが、抵抗することなくニトローナに背負われた。今が危機的状況だとわかっているのだろう。


「よし、ではゆくぞ!」


 イシュランディルは叫び、腰から抜いた短剣を緑の猟犬へ向けて横に振った。短剣は緑色の光を纏っており、振りぬかれた刃から鋭い音があたりに響く。直後ーー振るわれた短剣の直線上にいた猟犬が上下に裂け、背後にあった大木も同様に両断される。地に倒れる大木を合図に緑蜂鳥を伴うラギスが走りだし、ニトローナとセルロゥ、イシュランディルが続く。

 突発的な事態に危険を察知したのか、猟犬達は旅の一行から距離を取るように森の奥へ隠れたが、そこから追跡を開始した。


 そして大森林に踏み入った初日から逃亡劇が始まる。

少々修正しました。

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