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2.手紙

 戦後処理とは、戦闘時より危険が少ないにしても油断禁物だ。特に敵領域なら尚更である。

 戦闘後の兵士たちは命の危機を脱した事により緊張感が薄れ、生存した実感に身を浸す。そんな弛緩しきった状態では敵の奇襲に対応できない。故に兵士たちには自軍の損害である傷病者や死者の数を数えさせ、戦場の周囲へと斥候として放つ。

 損害報告と安全確認が完了した後でようやく兵士たちは腰を下ろして休むことが出来るのだ。

 

 ニトロ―ナ・ヴィルブランドは自分が指揮していた右翼の損害報告を上官であるガサラムに報告し、兵士たちを休ませ――はしなかった。


「剥ぎ取り開始!」


 自分の指揮下にある疲労の溜まった兵達への号令。休めるはずなのにさらに働かせようとする指揮官へ不満が出るはずだが、彼らは違った。全員が一斉に右手の拳を胸の中央に当てて敬礼する。


「了解!」


 戦時とは違い彼らの顔には笑顔が浮かぶ。

 これから始まるのは食材の解体及び剥ぎ取りだ。その食材とは敵兵のオークであった。



 オークは豚が強い魔力に影響を受けて二足歩行の魔物になったと言われている。二足歩行とはいえ豚は豚。元が家畜なら食材になるのでは? と考えられ、豚と同様に解体して焼いてみた結果、匂いは豚で味も豚ということで、ヴィルブランド伯領軍の一部の兵士たちは、戦後処理の一環としてオークの解体を行うことになっていた。


 勿論、敵であり魔族であるオークの肉を食すことに忌避感を抱く者もいるので強制ではない。しかし味を無視した日持ちの良い糧食ばかりが基本の軍にとって、めったに食べられない肉は抗いがたい魅力がある。

 最初は気味悪そうに見ていたニトローナの指揮する兵士たちも、今では全員が剥ぎ取りに参加している。

 ちなみにオーク食肉の先駆者は伯爵令嬢であるニトロ―ナだった。野性的な伯爵令嬢である。


「ニトロ―ナ」


 オークから晩飯の一品を剥ぎとっている兵士たちを見回していたニトロ―ナの背後から声。聞き覚えのある渋く低い響きだ。ニトロ―ナは振り返りつつ右拳を胸に当てて敬礼する。


「敬礼は必要ない、敬語もな。オーク共が報復に来ない限りは、だが」


 敵襲がない限り緊張を解いて休め、という意味にニトロ―ナは受け取った。生真面目なガサラムらしいと笑みをうかべる。


「そうか? では遠慮無く。豚肉食べるか?」

「ああ、あとで一切れもらおう。それより、伯爵様から文が届いた」


 ガサラムが差し出す封筒には、国防を意味する盾を模したヴィルブランド伯爵家の紋章で封蝋されていた。


「父上から? ふみには何と?」

「俺が読めるわけ無いだろうが。最悪首が飛ぶ」


 貴族の紋章が入った封蝋を破って手紙を読めば、平民なら首が飛ぶ。指揮官としての実績があるガサラムでも良くて領地から即座に永久追放だろう。手紙の内容次第で即斬首だ。


「フフ、そうだな。では、確かに受け取りました、指揮官殿」


 不愉快そうに口を歪めるガサラムから封筒を受け取り、封蝋を破って手紙を取り出す。


「……話したいことがあるから戦後は即座に帰れ、か」


 不機嫌そうに口を歪めたニトローナは自分の部下たちを眺める。

 今回の伯領軍は、伯爵領付近で集結しているオークを素早く叩くため、緊急招集して集めた者が多い。ニトローナが指揮する約百人からなる兵士たちは職種も様々で、農民から商人、料理人から街の警備兵まで統一感がない。しかし彼らはニトロ―ナが参加する戦闘なら我先にと招集に応じる。それほどの信頼関係があるのだ。


 だからこそ戦闘の始まりから帰還まで共にいたかった。

 敵と戦い、生き残り、皆で晩餐を味わう。部隊という群れを率いるものとしての責任だった。

 しかしヴィルブランド伯爵当主の命令は絶対だ。

 仕方ない、という様子で肩を落とすニトロ―ナは手紙がもう一枚あることに気がつく。

 それは父とは違う見慣れた文字で綴られた、姉を応援しながらも無事に返ってくるように、と祈りを込めた妹からの手紙だった。

 ニトローナの気落ちした肩が上がり、不機嫌そうな口が笑みを形作る。


「これなら仕方ない。心配かけてはいけないからな」


 ニトローナは剥ぎ取り作業に勤しむ部下たちに体を向け、声を張り上げた。


「皆、すまないが先に帰らせてもらう! 食事と休息をしっかりとって帰ってくるように!」


 作業の手を止めて兵士たちは顔を見合わせ、その中の若い兵士が声を上げる。


「お嬢、帰る理由を聞いても?」

「ああ。父から、ヴィルブランド伯爵から帰還しろと文が届いた」


 ニトロ―ナの答えに対し、次は髭面の兵士がニヤニヤしながら声を上げた。


「本当の理由はなんだい? お嬢」

「決まっている。妹からも心配していると文が届いたからだ」


 余りにも自分勝手な理由。彼ら兵士の大半は家族を残して戦いに来ているのだ。しかしニトロ―ナを指揮官と仰ぐ彼らは、彼女の願いを笑顔で迎えた。中にはゲラゲラ笑いながら腹を抱えている者までいる。


「あいよー了解。後は俺らに任せな。妹さんに宜しくなぁ」

「帰り道で転ぶなよ」

「早く帰りたいからって飯抜くんじゃねぇぞ、お嬢」

「あと睡眠もな。肌に悪いらしいぞ」


 自分たちの指揮官を、まるで年下の家族に対するように声を向ける兵士たち。事実、指揮官であるニトロ―ナは部隊で最年少であり、妹や娘的な扱いはよくあることだった。


「余計なお世話だ! 黙って肉を剥ぎ取ってろ!」


 対するニトロ―ナもお節介な兄や父に対する反抗期娘のように応えた。

 

 血と臓物、鉄臭と異臭悪臭に満たされた戦場跡。

 ちょっとした地獄のような風景の中で、彼らはその場に似合わない笑顔を浮かべていた。

ほとんど初投稿同然なのでこれでいいのか不安です。

何かあれば感想にてお願いします。



16/10/30改稿

一年近く経つとなんか主人公のキャラが違うような違和感が……

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