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17.虹

*この話の最後の部分を修正しました

 禁言のプルトン。

 茶髪に金色の瞳を持つ、怯えに染まった表情の少年。表向きは、鉱山調査のついでに途中にある村へ送り届ける事になっている。しかし真の理由は、魔族の後継者として禁足地を抜けた先へ送り届けること。

 ニトローナは半信半疑のまま林檎畑と領都を望める丘を下り、老人の先導のもと、プルトン、セルロゥと共に北へと進路をとった。老人は旅の荷物を載せた馬を一頭連れており、その馬にプルトンを載せた。

 怯えを全面に押し出したプルトンは、その怯えた目で新たな旅の一行に視線を送る。ニトローナは自分のことをチラチラと見てくるプルトンを鬱陶しいと思いつつ、無視することにした。こういう場合はこちらが何かしても怯える可能性が高いので、プルトンから接触があるまで意識の外に追い出したほうがいい。

 なので、話し相手は自然と老人に決定する。


「禁言とは何だ?」

「む、禁言か」


 老人は馬の手綱を持ちながら、年を感じさせない足取りで歩を進めていた。彼の視線は時折馬に載せたプルトンへ向かうが、見知らぬ女性と犬に怯える少年を見て、笑いと呆れを込めたため息を吐いた。


「禁言とはその言葉通りだ。こやつプルトンには、言葉を吐くことを禁じておる」

「何故禁じる」

「こやつの言葉には濃密な魔が宿っておる。その言葉を耳にした者は、大抵酩酊したような状態になり、最悪の場合は意識を失うのだ。故に禁言」


 その理由を聞いて、ニトローナはプルトンに興味を持った。

 言葉に魔が宿るなら、今までどうやって生きてきたのか?

 なぜそのような少年が王国にいるのか?

 未だ幼いと言ってもいい少年の親はどこにいるのか?

 疑問は多いが、今はどうでもいい。ニトローナには『荷』であるプルトンを送り届け、妹の元へと帰還したいという欲求があったのだから。




 三人と一匹に一頭は北を進み続け、ヴィルブランド領の北部へ到達した。太陽が大地を赤く染める時間になり、一行は足を止める。


「ここから東に進む。今日はここで野営するとしよう」


 そこは街道を外れた森の中だった。近くに小川があり、野生動物たちの気配もある。老人とプルトンは野営の準備と馬の世話、ニトローナはセルロゥと夕食の狩りへと出かけた。

 一時間ほど後にニトローナとセルロゥは兎と野草を採ってきた。これが夕食となる。

 鍋に野草と兎の肉を半分入れて煮込み、残りの兎は棒に突き刺し直火焼きした。

 ニトローナが調理している様子を見て、老人が感心するように声を上げた


「手際が良いのぉ」

「訓練の一環だった。豚鬼との戦いでは食事以外に楽しみはないからな。貴族令嬢の舌には殊更きついことになると、食べられる野草や獲物の捌き方を教えられた。ガサラムーー師には感謝している」

「ほう、理解のある師だったのか」


 そんな話をしているうちに調理が終わり、それぞれの器に盛りつけた。セルロゥには余った兎肉を生で与える。肉を生で噛みちぎるセルロゥを見て、プルトンは更に怯えた様子だったが、食事はしっかりと残さず食べていた。


「色々と聞きたいことがあるが、いいか?」

「構わんよ」

「何故大山脈まで行かず、セルディル領から東へ行く。大山脈まで行ってから東へ向かえば、鉱山の調査という体裁は整うんじゃないか?」


 出発時に老人が告げた旅の道筋は、ヴィルブランド領の北にあるセルディル公爵領に入り、途中で東へ転進して大森林へ入るというものだった。表向きの理由である鉱山調査を遂行していると見せかけるため、大山脈へ入って東へ行くものと思っていたニトローナには、老人が告げた道筋は意外な選択だった。


「表向きの理由を順守するならそれでもいい。だが大山脈は過酷だ。こやつが耐え切れんよ」


 老人はそう言ってプルトンの頭を撫でた。ニトローナの視線を感じたのか、プルトンはビクリと震えた。


「セルディル領東部には北寄りに小さな村があるだけだ。そして禁足地とされている大森林西端全域を警備兵がうろついている訳ではない。定期的に巡回しているだけだ。それも一月に数回程度らしいからの。誰にも見られず森に足を踏み入れるのは容易い」

「なら、セルディル領東部からは東進を続ければいいのか?」

「いや、大森林の途中でとある部族の集落で補給する」

「部族の、集落だと。それは魔族の集落という意味か?」

「そうだ。大森林には二つの部族が存在する。一つはこれから立ち寄る予定の緑の部族。もう一つは獣の部族。緑の部族は友好的だが、獣の部族は少々個の意識が強くての、我々の通行を認めん可能性がある」

「魔族国家だけでは、なかったのか」


 ここに来てニトローナの世界は新しく広がっていた。

 北の帝国、北西の教国、そして自国である王国。ニトローナの知るのはそれら三カ国だけだった。それが王都で知らされた魔族国家だけではなく、今まで禁足地という認識しかなかった大森林に二つの部族が存在するのだと、老人が告げたのだ。


「魔族もいろいろと抱えている問題はあるのだ。人が一つの国の中で派閥を作って争うようにな」

「争いがあるのか?」

「今のところそれはない。だがその可能性はある。まあ、そこは魔族の都についてから追々説明しようかの。それで、次は何を聞きたい?」


 問われるニトローナはしかし、週順するように口を閉じる。


「なんだ、訊きづらいことでもあるのか?」

「その、あれだ……ずっとあんたの名前を、聞いていなかった」

「名前だと? ……カッハッハッハッハッハ! そうかそうか、そういえば名乗ってなかっのぉ。いや、すまん。最近は他人と知り合う機会もなくて名乗ることを忘れておったわ」


 老人は愉快そうに呵々大笑すると両手を合掌する。そして数瞬の間を置いて、手を開いた。すると、そこから七色の光が珠となって流れるように舞い上がり、老人の目の前で輪を作った。

 明らかに魔の技だが、どのような魔術なのかニトローナには予想もできない。

 七色の光玉の一つ、赤の光玉は一つだけ流れから外れ、ニトローナの目の前を漂い始めた。思わず手を伸ばすと光玉は破裂するように弾けた。そして炎のように赤い蜥蜴が現出し、ニトローナの手の甲に飛び乗った。


「っ! これは確か、サラマンデル……だったか?」

「そうだ、我が同胞はらからの一体だ」

「一体だと? では他の光も……」


 ニトローナが残りの六つの光玉に視線を移すと、光玉はプルトンの周囲を漂っていた。そこで初めて少年が笑顔を見せる。言葉が発せなくとも、まるで光玉達が心からの友達であると表すかのような、朗らかな笑顔だった。


「こやつらは我を依り代としておるが、基本的に自由気ままに漂っておる。こやつらが懐くのは自身に近しい者だけだ。プルトンは計り知れない魔を宿す故に、こやつらの友となっておる。おぬしはサラマンデルと近い性質をもっておるから、気に入られたようだな」

「こいつと近い性質?」


 手の甲に乗る赤蜥蜴を眺めてみれば、身体の所々が燃え上がるように赤く明滅している。まるで炎そのもののようで、確かに自分と近いと感じさせるものがあった。ニトローナがもう片方の手でサラマンデルの頭を撫でてみると、目を閉じてなすがままといった様子を見せる。気に入られたのは確かなようだった。

 

「お前は一体、何なんだ」


 こうして不可思議な経験をするほどに、老人に対する不気味さがました。

 第二王子グラウバーが魔族国家への案内を頼むほどの信頼を置き、ニトローナの魔術をサラマンデルで無傷で防ぎ、人の意識を失わせる言葉を持つというプルトンに臆すことなく接している。

 ほとんどヴィルブランド領で生きてきたニトローナでも、この老人が異常だというのは理解できた。


「何なんだといわれてものぉ、儂はイシュランディルという名の老人であり、それ以上でも以下でもない」

「イシュランディル…………七つの光……虹?」


 王国民にとって虹とは二つの意味を持つ。一つは空に浮かぶ自然現象。そしてもう一つは史実であり、お伽話でもある民話の中の登場人物を表す言葉だ。

 建国記によれば若い建国王を助けた賢者であり、民話では悪者を退治する良い魔法使いとして記され、英雄譚には勇者と共に旅をしたと記されている。

 それら全てに共通するのが虹。

 虹色の魔法を使う、虹賢者。

 虹賢者イシュランディルである。


「お前が、虹賢者イシュランディルだと?」

「光栄な話だ。儂のような彷徨い人が、賢者などとはのぉ」


 だが建国記は約五百年も前に書かれたもの。その時代から生きているとすれば、虹賢者イシュランディルは人の寿命という生命のことわりから外れた存在だということになる。

 ある意味人間とは別の種族といえるかもしれない。

 

 王国にとって偉大な人物である虹賢者は、何かを恥じ入るように苦笑していた。

 老人と少年の説明会でした。

 次からは物語を動かせる……といいなぁ。


 

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