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13.未知なる老人

 この世界に存在する魔術とは、自身の体内に存在する魔力を使い術式を発動することを指す。つまり魔力と知識さえあれば誰でも魔術を使うことが出来る。しかし大半の人間に魔力は宿らず、魔術はごくごく一部の人間のみが使える異能として認識されていた。

 ニトローナの体内に魔力は存在するが、術式を起動できるような知識も技術もない。しかし彼女は豚鬼との戦闘において、魔術で敵を爆殺することができる。

 かつてヴィルブランド領に滞在していた魔術師曰く、知識や技術ではなく、感覚で魔術を発動させている特異体質の可能性が高いそうだ。その影響なのか、ニトローナにはごく簡単な魔術すら発動させることが出来なかった。しかし彼女にあるのは落胆ではなく喜びだった。手段など選ばない、妹を守れる能力があればそれでよかったのだ。

 

 魔術師が去って後、ニトローナは自分にしか出来ない爆破する魔術を磨き上げた。

 全てはセリンを守るために。





 第二王子グラウバーの眼前で、ニトローナは体内に存在する魔力を右手へと練り上げる。

 彼を殺すのは簡単だ。グラウバーの頭部へ手を伸ばし、魔術を発動する。ただそれだけで頭部がはじけ飛ぶだろう。

 そうすれば、魔族に味方する輩は排除される。護衛の男のことが脳裏をかすめたが、ニトローナにとってはどうでも良かった。邪魔するなら同じ目に合わせればいいのだから。


 ニトローナは長椅子から立ち上がり、額いっぱいに脂汗を浮かべるグラウバーを見つめる。なぜそれほど緊張と怯えを見せるのか、彼女は疑問に思った。自分の言葉がこちらの逆鱗に触れたと理解していないのだろうか。


「待て、落ち着くんだニトローナ嬢」


「私は落ち着いています、殿下」


「話はまだ終わっていない。しっかりと説明するからその物騒な殺気は収めてくれ」


 まだ終わっていない。その言葉はニトローナの燃え上がる怒りに油を注いだ。

 

「もう結構です。貴方様は私の大切な者の敵となりました。敵ならば殺ーー」


「そこまでだ!」


 ニトローナの言葉を遮ったのは、年老いた護衛の男だった。彼はいつの間にかグラウバーの傍らに立っており、ニトローナの動きをいつでも阻止出来る位置にいた。


「少し冷静にならんか、怒れる忠犬よ」


 犬と呼ばれることにニトローナに抵抗も不満もない。だがこの男は何故犬と呼んだのか。怒りに溢れるニトローナの思考に一変の疑問が挟み込まれた。しかし心的外傷となっている過去の記憶が、グラウバーの頭部へ向けて右手を動かした。手のひらには練り上げた魔力が貯められており、いつでも爆破できる状態にあった。

 しかし爆破の射程にグラウバーが入る直前、横から伸びてきた手がニトローナの手首を掴んだ。


「それ以上はいかん、大切な者を守れなくなるぞ」


「黙れ!」


 掴まれた手首を強引に曲げ、男の手首を掴み返す。そして沸騰する怒りを解き放つように魔術を発動させた。人の手首など軽く千切り飛ばすほどの衝撃が老人を襲う。

 ニトローナの魔術により、床に落ちる手のひらと手首から噴出する血液が眼前に広がるーーはずだった。


「この目で見るまで信じられなかったが、恐ろしい魔術だ。儂には効かぬがな」


 老人の手首には傷一つ無い。その代わりに、直前まで存在していなかった生物が手首を這っていた。

 

「何だこいつは……」


 赤熱するような色の蜥蜴が老人の手首這っており、ニトローナの言葉に答えるように小さな舌を出した。


「我が同胞<サラマンデル>だ。こやつがおる限りお主の爆轟は儂とグラウバーには届かぬ」


 その言葉を示すように、サラマンデルという赤蜥蜴は老人の手から浮き上がり、グラウバーとニトローナの間で漂い始めた。

 得体のしれない赤蜥蜴と老人。ニトローナはそれらの壁を抜けてグラウバーを殺傷する確信が持てない。二度目の生を受ける以来の、理解できない事象だった。


「怒れる忠犬よ、儂らの間には魔族の認識に差異がある。故に先程の言葉に怒りを覚えたかもしれぬが、グラウバーにお主と真に敵対する意思はない」


「……認識の差異だと? 侵略者達の王子を敵国に届けろとしか聞こえなかったが」


「そこに差異が存在する。ひとまず怒りを収め、話を聞いてくれぬか?」


 老人の言葉が真実ならば一考する価値はある。

 ニトローナは一先ず老人と赤蜥蜴を警戒しつつ、自身の行動を省みた。

 単純に考えれば、怒りに身を任せた令嬢が第二王子殿下に殺意を抱き、殺害を試みたといったところだろう。どう考えても処刑だ。そして罪は一族郎党に波及する。その場合はセリンと父を連れての逃亡生活だ。死んでも消えない罪を背負うことになるだろう。

 しかしこの場合の罪とは、この部屋にいる三名次第で表沙汰になることもあれば、もみ消すことも出来る。

 ならばーー


「第二王子殿下」


 ニトローナは怒りを宿した瞳でグラウバーを射抜く。


「このような私に、話の続きを聴かせる価値はありますか?」


 今まで呼吸を止めていたかのようなグラウバーは大きく息を吸い、頷く。


「ああ、その価値はある。いや、君以外にその価値はない。どうか話を続けさせてほしい」


 真剣な眼差しで真摯な言葉を向けられた。

 ここから先へ進むためには冷静にならなければならない。

 ニトローナは妹のことを脳裏に浮かべる。セリンは王都の邸宅で侍女たちとともに姉を待っているだろう。領地の家には愛犬のセルロゥがいるが、知り合いのいない王都では邸宅内で暇をつぶすのも難しい。退屈そうに茶を飲んでいるのかもしれない。

 ニトローナは口から怒りを吐き出すように大きく息を吐いた。


「わかりました。話の続きをお聞かせください」

……また終わらなかった。

もう次回で終わり宣言やめておきます。申し訳ない。

さて、次回は色々な説明会になりますが、そろそろ妹とのイチャラブ描写も書きたくなってきたので加える予定です。……予定です。


気分転換に「勇者と魔王のだらだら物語」という短編連作を書いてみたのでよろしければどうぞ。

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