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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
最終章 浅葱の彼方へ
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近藤局長、襲撃事件

再び、新選組は伏見奉行所の警護を理由に伏見入りした。

新選組は会津藩の主力となるべく気合を入れる。

近藤は偉い方と会合が増え忙しくしているが、表情は晴れやかだ。


「新選組が幕府のお力に添えるよう、我々は尽くさねばならん」

「ああ。ここからが本当の戦いになるからな」


土方は近藤が新選組が動きやすくする為に、根回しに追われていた。

そんなある日。


山崎が血相を変えてやって来た。


「失礼しますっ!副長、緊急事態です」


土方の顔が一瞬で曇った。

椿はこの場を外したほうが良いと判断し、部屋を出ようとした。

すると、


「すみませんが、椿さんもお聞きください」

「え!?」

「何があった」


山崎は表情を緩めることなく、寧ろ更に険しい顔になる。


「局長が二条城からの帰りに何者かに襲撃されました」

「なに!」

「今、島田と戻ってきている途中です。右肩に銃弾を浴びたと」

「椿、すぐに準備をしろ!俺は途中まで迎えに行く。山崎は椿を補佐してくれ」

「はっ!」「はい!」


土方はそう指示を出すと刀を腰に差し、部屋をを出ていった。

山崎は椿に治療は近藤の部屋で行うと伝え、その準備に取り掛かった。

局長が撃たれた。

状況が分かり辛い中での準備だ。


「熱いお湯、さらし、切開、摘出、消毒、縫合…あ、薬」


炊事場の者に湯を沸かすように指示を出す。

痛みで暴れるかもしれない、食いしばる手拭いも必要だ。

松本良順から学んだ医術がまさか近藤が最初の患者になるとは。


(どうしよう。失敗は許されない、絶対に助けなければ)


自然と心臓が早まり、指が震える。


「椿さん!」

「山崎さん」

「椿さん自信を持って下さい。あなたは新選組の軍医ですよ!蘭学を学んだ優秀な新選組(・・・)の軍医です!」


そう言いながら、山崎は椿の震える指を両手で包み込んだ。

椿は、『はっ!』とした。自分がおどおどしてはならない。

他に誰かやるのか。自分しかいないではないか!

いや、誰にも任せられない。私は新選組の軍医なのだから。


「ありがとうございます。大丈夫です!」


受け入れ準備が整って暫くすると、外が慌ただしくなった。

山崎が迎えに出る。

椿は深呼吸をし、皆の到着を待った。


廊下がドタドタと騒がしく鳴り、すぐに障子が開かれた。

土方と島田に両脇を担がれた近藤が入ってきた。

顔色は青白く、唇も血の気を引いて紫がかっていた。

右肩から胸にかけて血が付いている。


「そこに仰向けにお願いします。島田さん手伝っていただけますか?」

「はい!勿論です!」

「近藤さん!椿です!もう大丈夫ですから!!」


椿は近藤の耳に届くようはっきりと大声で叫んだ。

近藤は薄っすらと目を開け軽く頷いた。


「着物を脱がせます」


羽織りとその下の着物を上半身だけ脱がせる。襦袢は既に真っ赤だった。肩の付け根あたりが酷く黒い。


「此処、ですね」


背中を確かめたが無傷だ。やはり弾は体内に残ったままか。


「近藤さん、かなり痛みますがどうか堪えて下さい!すみません、近藤さんが暴れないように押さえて下さい。両膝と腰、あとは反対側の肩。身体が浮かないように、お願いします」


近藤は体格が良いため、もし暴れでもしたら椿には手に負えない。

土方、島田、山崎の三人がかりで近藤を押さえた。


傷口を濡らした手拭いで押さえ血を拭うと、弾丸で裂かれた皮膚が見えた。こんなに小さいのになんと恐ろしい威力か。

幸いにも掠めた程度だったのか、弾が残っている気配は無かった。

それでも傷は決して浅くない。

筋肉を裂き、神経をもエグっている。


ガタガタによれた皮膚を切り、縫合した。

化膿止めの薬を塗り、さらしてキツく縛る。

その間も近藤は呻き声すら上げることもなく、額から脂汗を流しながらも咥えた手拭いを噛み締めていた。


「終わりました。弾は残っていません。恐らく掠めただけです。それでも神経を傷つけていますから、当面は見動きは出来ません」

「そうか」

「二、三日は熱との闘いになるでしょうから、その間私がここに寝泊まりします。宜しいでしょうか」

「ああ、頼む。島田と山崎は誰がやったのか調べろ」

「はっ!」


こうして椿は近藤の看病の為に昼夜傍に仕えた。

近藤は伊達に局長ではなかった。かなり痛むだろう傷を抱えておりながらも、それに黙って耐えた。

そして三日後、


「椿くん、すまんな」と話せるまでになった。


「近藤さんっ!よかった。よかったです」


椿は泣きながら、近藤が目を覚ましたことに喜んだ。

近藤の腕は上がらない。それでも柔らかく微笑むのだ。


「近藤さん!!」

「ん、総司か」


待ちかねたように沖田が駆け込んできた。

近藤の事を死ぬほど心配していた一人だ。

椿は静かに部屋を出た。まるで親子の再開のようだったからだ。



「椿さん」


顔を上げると眉を下げた山崎がいた。ゆっくりと椿に近づくとそっと肩を抱き寄せる。


「あ、やまっ・・・」


ぽすっと山崎の腕の中に収まると、これまでの緊張が少しづつ解れていくようだった。冷え切った身体も温もりを取り戻す。


「流石です。椿さんは新選組が誇る立派な医者です」


その言葉を聞いて、ようやく役目を果たせたのだと知った。

山崎の胸でしばらく泣いた。


「山崎さん。ありがとうございます」

「いえ、俺は何もしていません」

「そんな事ありません。山崎さんが励ましてくださったから、近くにいてくれたから成し遂げる事が出来たのです」


そう言って、山崎の着物の袖をギュッと握った。

山崎は椿の背中をポンポンと撫でた。


その後、面会が可能となった近藤の部屋に会津藩の者が出入りし今後の事を話し合っているようだった。


そして近藤を襲ったのは、あの油小路で取り逃がした御陵衛士の残党だったと知らされた。


因果応報とはこう言う事を言うのかもしれない。


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