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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第二章 軍医として
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抗争に決別を!

御陵衛士(ごりょうえじ):孝明天皇のお墓を護る組織

※間者:潜入捜査員、スパイ

新しい屯所にも慣れた。

季節は梅雨、まだ上がらないが気温は既に夏だ。

ジメジメした空気が気持ちを憂鬱にさせるこの頃。


「皆さん、生物は食べないで下さいね!お酒も控えめに」


椿は口を酸っぱくして隊士の体調管理に忙しくしていた。

忘れもしない、壬生にいた頃に腹を壊した者で屯所内が大変な事になったからだ。


「椿は大変だな。おまえも倒れないようにしねえと、何時だったか?高熱出しただろ」

「原田さん、覚えていてのですか。忘れて下さい」


バツが悪そうに椿は顔を逸らした。

本人にとっては不名誉な事らしい。


「医者の不養生って言葉があるくらいなんだから、椿だけじゃねえって。気にするなよ」


にこにことご機嫌に原田はそう言う。


「ちょっと、原田さん!腹出さないでくださいっ」

「こうも天気が悪いと古傷が痛むんだよ」

「え、大丈夫ですか」


さっきまで怒っていたくせに、痛いだの苦しいだのと言われると放っておけないらしい。

原田はそんな椿を優しい笑顔で見つめる。恐らく、確信犯だろう。


「石田散薬を貰ってきますね」

「っ。おい!その必要はねえ」

「ダメです。十番組組長に何かあったら困りますから」


にっこり笑って、足早に去っていった。


「敵わねえなぁ」


原田がどう仕掛けても、椿らしさは変わらないのだった。


***


秋が押し迫る頃、巡察に出ていた永倉が血相を変えて土方の部屋に飛び込んできた。


「おい!慶喜公が政権を朝廷に還すらしいぞ」

「そいつは本当か」

「ああ、会津藩邸の前でそう聞いた。かなり慌ただしい動きをしていたぞ」


14代将軍、徳川家茂は享年21歳という若さで亡くなり驚く暇もなく、次の将軍は慶喜公が継いだ。


信頼していた孝明天皇が崩御。

そして慶應三年十月、徳川慶喜は大政奉還を朝廷に申し出た。

世が激震した事件だった。



「失礼します!」 山崎が入ってきた。


いつも以上に神妙な面持ちで土方に無言で文を渡す。

黙って読む土方の表情は険しく、時折眉をヒクヒクと動かしていた。


「近藤さんの所に行ってくる」そう一言だけ残して部屋を出て行った。

これは何かが起きる・・・そう思った。


「山崎さん」

「椿さん。そんな顔しないで下さい」

「え?」

「路頭に迷った幼子のようです」


そう言うと山崎は椿を優しく抱き寄せた。椿の不安を山崎は読み取ったのだろう。幕府が揺らぎはじめ、尊皇攘夷派が勢力を増し始めたのは誰でも分かる。

椿は新選組の行く末を憂いているのだと。


「私は子供ではありません。でも、少し不安なんです」

「・・・」

「これから新選組はどうなるのですか」

「大丈夫です。皆を信じましょう」


不安なのは椿だけではない。でも、それを口にしては武士は務まらないのだ。自分が仕えると決めた長を信じるしかない。

ぎゅっと抱きしめる腕に力を入れれば、椿も応えるように背に回した腕に力を入れる。


身体を離した山崎はふわりと笑った。

それだけで椿の心は日が射すように温かくなった。


***


土方は近藤に伊東甲子太郎暗殺を持ちかけた。

斎藤が掴んだ情報によると、伊東は近藤を近々亡きものにすると確かに口にしたそうだ。

それ聞いた藤堂が伊東に喰いかかったと。


「伊東の奴、本性を現しやがった。近藤さん、殺るしかねえ」

「うむ、致し方あるまい。しかし、どうやって殺る。伊東の剣の腕は侮れん。まともにやりあって打ち損ねたのでは話にならん」

「酒の席で殺るしかねえだろ。相手に隙を作る為にも離れの妾宅に呼んで酔わせる。適当な小路に遺体を晒しておけば御陵衛士が必ず引き取りに来る。そこを叩く!」


斎藤には期日を事前に知らせ、その日は隊から離れるように伝える。

近藤の強い意思で御陵衛士にいる藤堂平助だけは出来れば助けてやりたいとなった。


「山崎!これを斎藤に」

「御意」


山崎は瞬く間に部屋を後にした。

緊迫した息苦しいほどの空気が土方の部屋を包み込む。


「椿、お前にも頼みたい事がある」

「なんでしょうか」

「伊東さんを殺ることになった」

「っ!は、はい」

「その日、斎藤は御陵衛士(あっち)を抜ける。斎藤が不在の時に起きた事件と見せかけるためにな。バレたら斎藤は消される」

「はい」

「お前と逢引していた事にする。出会い茶屋の一室で二人で一晩過ごしてくれ」

「二人きりで、ですか」

「ああ。絶対に気づかれちゃならねえんだ。いいな!」


土方の表情はいつものと違い、有無を言わせない迫力があった。

それだけ重要な仕事であり、失敗は許されないという事だ。


「はい!承知しております」


この日の為に斎藤は身を削り間者となり潜り込んだ。互いの情報を漏らすことなく繋いだ山崎の功績をここで潰してはならない。

椿は拳を握り強く自分に言い聞かせる。


(新選組(みな)を信じる。これは間違っていない!)



決行の日は次の新月の刻。


伊東甲子太郎、暗殺!!

すみません!加筆&自制修正しました。


いよいよ油小路事件となります。

ほのぼのだったのに、歴史に添い始めたのでシリアスです。

m(_ _)m すみません。

新選組LOVEなのでつい…お許しを。

ここから一気に加速して鳥羽伏見の戦いに向かいます。

最終地点はそこでございます。

まさかこんなに続くとは思いませんでした。お付き合い下さってありがとうございます。引き継ぎ宜しくお願い致します!


書くからには背景を誤魔化したくないので、少し時間をかけて書くつもりです。

山崎さんが好きなんです。・゜・(ノ∀`)・゜・。

失礼しました。


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