思いを馳せると募るもの
椿たち一行は江戸につき先に行っていた藤堂と合流した。
事前に情報はあったらしいが、藤堂と同じ流派の伊東甲子太郎と言う男が募った隊士を一緒に京へ上がりたいという話になっていた。
近藤さんはそれに好意的で最終確認のために土方が出向いたようだった。
「藤堂さん!お元気そうで」
「椿さんも一緒だったのですか!」
「はい」
久しぶりに見た藤堂は以前よりも精悍とした雰囲気を纏っていた。
江戸に滞在中は剣の腕を磨くために修業をしていたのだとか。
(藤堂さんは僅かな月日で逞しく立派になられて。・・・きっと山崎さんも)
山崎と年齢の近い藤堂を見て、そんなことを考えてしまったのだ。
「椿さん、どうかしました?」
沖田が椿の隣に来て、背を屈めて椿の顔を覗きこんだ。
気のせいか、椿の瞳は少しだけ陰が差したようにいつもの輝きが減っていた。
(ああ、そろそろ恋しくなる頃ですね)
「椿さん、今日は自由にしていいそうですよ。少し江戸を案内します」
「え、そうなんですか。では、お願いします」
「はい、行きましょう」
少し強引に手を引けば「沖田さんっ」といつもの調子で軽く睨んでくる。いつも強がってばかりな椿を今日は甘やかしてあげようと、沖田は決めていた。
「山崎くんに土産でも探してみましょうか」
「いいんですか!」
「江戸のものなら他の人と被らないでしょう」
「はい!」
椿が笑うと沖田も自然と笑顔になる。それが自分の為ならどれ程に嬉しいか。それを心の中に仕舞い込んで、この時だけは山崎の代わりを努めようと思っていた。
***
実のところ長州でも鴻池の力は素晴らしかった。
貸し付けている屋敷は殆どが倒幕派に肩入れをしていた為、内政を探るのには苦労したなかった。
「早よ、返してや。わてかて何時までも待てへんで。みんなこの時勢で火の車や。幕府やら倒幕やらわてらはどっちでも構いまへん。けど、約束は守ってもらわなあきまへせん」
などと対面的には話すものの、一通りの世間話をしその中から山崎が聞きたい事を上手く引き出していく。
この男、なかなか出来る!
「ほな、また来ます」
屋敷を出たところで、目の前を女たちが列をなして歩いていった。
もしやこれが言っていた、戦の訓練なのでは。
「あんた見てみたいやろ」
「っ!?」
「行ったらええやん。日が暮れる前に戻ってきてや」
「ありがとうございます」
山崎は鴻池と別れ、その女たちの後を追った。
確かに力強く逞しい。この国は男女がそれ相応の仕事をこなし、皆がひとつの目的に向かって生きている。
どことなく椿と重なる部分が多い。
一人でも生きていけるようにと男の世界と言われる医者になり、誰に何を言われようと決心を曲げることはなかったのだろう。
「椿さん、あなたは強い女性です。でも、それ以上に優しい」
まもなく日が落ちる頃だ。
今頃、椿は江戸にいる。楽しんでいるだろうか、笑っているだろうか。
離れて知る椿の良さを胸に抱きしめて、今日がまた暮れていく。
ーーーーーー
山崎の為に買った根付を掌に乗せて眺める。
鶯色の落ち着いた模様のそれは、山崎の眼差しを思わせる。
ちゃんと食べているだろうか。夜はきちんと眠れているだろうか。
どんなに楽しく賑やかに過ごしていても、山崎がいないだけで不安になる。土方たちには良くしてもらっている、それでもやっぱり山崎がいいのだと心の何処かで考えてしまう。
「山崎さん、会いたいです」
強がったって、声を出して笑ったって、あなたの事は一時だって忘れはしない。
江戸の夜はまだまだ眠らない。
一気に時間がとんで申し訳ありませんが、次話にて再会予定です。




