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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第一章 医者として
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世は情け?

その頃、山崎は大阪で鴻池一行と合流し長州へ向かっていた。

鴻池は数名の男衆を引き連れいている。この男、話好きである。

新選組の優秀な監察方の山崎だが、この男から逃げる術を持っていなかったようだ。


「あんた、大阪の出なんやて?」

「はい」

「なんやいつも厳しい顔をしとるなぁ。もっと笑ろうたほうがええで」

「・・・」

「あれやな、顔のほらこの辺(口回り)を動かさんと早よ爺さんになるで。ホンマや」

「はあ」


山崎はこの隣の位置から逃れようと、足をゆるめるが鴻池も同じように速度を落とす。

少し早めればこれまた同じように足を進める。

まさか本人を置いて先に行くわけにもいかず、いつも以上に厳しい表情になってしまったのは仕方のない事だ。


「けど、あれやな。よう見たらあんた男前やなぁ。目のあたりがシュッとして女子おなごの好きな目やわ」

「・・・」

「間違いないわ。あんたどんだけ遊んできたん?羨ましいこと」

「っ、遊んでなど、いません」

「嘘やろ。男なら女子遊びくらいするやろ」

「少なくとも俺は、しません」

「ははぁん、あんた男色やな」

「だっ、だんっ。・・・違います!」


鴻池は「怒ってもなかなかええ男や」などと言って全く悪びれた様子がない。

彼のお陰で長州入りするのだ、ここはグッと堪えるしかないのである。新選組の為に。

この人が居なければ新選組の運営はならなかったのだから、頭が上がらないのが正直だ。


「女の一人や二人、知っとかなあかんで。いざ好いた女ができても、満足さしてやれんかったじゃ男が泣きまっせ?」


本当に余計な御世話である。こんな調子で何か月も過ごさなければならないのかと思うと、溜息の他なにも出てこない。山崎は軽く目を閉じ、心を落ち着かせようと必死だった。


「長州の女子おなごは大阪の女子と変わらんくらい気が強いらしいで。あんた会った事ないやろ」

「はい」

「そりゃあまあ、大したもんでっせ。ただ、違うのんは此処あたまや。ほんま敵わんで」

「そうですか」

「それにな」


山崎は内心、もうその女の話は要らないと叫んでいた。俺が知りたいのは長州の内政だ!と。


「男に混じって鉄砲を扱う練習もしとるらしいで」

「え!女が、ですか」

「そうや。男が戦に出たら、家には女と年寄しか残らんやろ。家を守るには女も武器を扱えんといかんて言うてな、訓練しとるらしいで」

「・・・」

「この間は異国の大砲から守るために堤防をこさえたらしい」

「堤防?」

「それも全て女子の手でや。時間があったら見てみたらええ、凄いらしいで」


この鴻池という男、話好きなだけあって情報はたくさん持っているようだ。

この男と行動を共にすれば間違いないという事は分かった。

分かったのだが、半分以上は聞きたくない話である。すでに山崎は疲労を感じていた。


(椿さんはどうしているだろうか・・・)


椿の事を想う時だけが、この頃の唯一の安らぎとなりつつあった。


隣の鴻池の口は止まらない。


「あれやな、あんたの為に長州の女子をいっぺん見繕ってやるさかい。男を磨きなはれ」

「は!?」

「遠慮はいらんで。土方さんにはようしてもらってるさかい、あんたの一人や二人安いもんや」

「いえ、そういうのは結構です」

「あきまへん!」

「っ!?」


へらへらと笑っているかと思えば、ギロッと山崎を睨む。思わずビクッと肩が揺れた。

「預かったからには、わてが男にさしてみせます!」と不吉な言葉を述べている。


山崎はまさかの己の貞操を心配するはめとなってしまったのだ。

前途多難である。


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