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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第一章 医者として
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旅は道連れ

離れ離れの期間はサクサクと進める予定です。

文字数もいつもりは少ないかと思います。

土方、沖田、椿の江戸への旅は今のところ順調である。

しかし、目立つのだ。背丈のある男二人、しかもかなりの男前である。

腰には立派な大小二本の刀が差してあり、小柄ではあるが凛々しい顔立ちの女を連れているのだから。

あらかじめ宿は決めてある、あるのだが・・・


「旦那様!今夜はお決まりで?」


土方に纏わりつくように客引きが寄ってくる。大抵は「ギロッ」とひと睨みすれば「ひぃっ」と後ずさりをして諦めていく。しかし、中には強者つわものもいるわけで・・・


「お侍様、お宿はおきまりですか!」

「いや、もう決めてある」

「それはどちらですか、お安くいたしますよ」

「必要ない」

「でも、そこを何とか人助けだと思って・・・お侍様っ!」


土方の腕にぶら下がって懇願しているのは十を過ぎたくらいの男の子である。

眉間に皺をこれでもかと入れ、その男の子を睨みつけるのだが効果がない。


「おい、小僧!どこまでついて来る気だ、諦めろ」

「いやだぁぁぁ」


生活がかかっているのだから仕方がない。

かといってその度に構っていたら、いつまで経っても江戸にはたどり着けないのだ。


「土方さん、そんなに睨みつけたって離れやしませんよ」

「だったら総司、てめえがなんとかしろ!」

「はいはい。ねえ君、お宿の名は?」

「沖田さん?」


沖田は屈んで子供の目線に合わせて話を始めた。


「僕たちは遊びの旅ではないのです。あらかじめ宿場は決めています。計画通りに進まねば首が飛んでしまうのですよ。君はその責任を負えますか?」

「・・・」

「ここはたくさんの旅の者が通るでしょう。商売をやるなら、押す時と引き際はしっかり学ばないと潰れてしまいますよ?君にとって僕たちは利のあるお客でしょうか?」


子供に対して大人と同じような口調で話す沖田の目は、冗談をいう時の目ではなく真剣だった。

この物言いで、この子供は理解できるのだろうか。


「・・・分かった!でも、戻りの時は絶対にあきらめない!」


男の子は臆するでもなく沖田をキリィッと睨み、走って去って行った。

「なかなか骨のある子ですね」と優しく笑ってその姿を見送ったのだ。


沖田の新たな一面を見た気がした。子供だからと容赦はしない、しかしそれはある意味優しさなのかもしれない。現実をきちんと知らしめる為なのだ。


「あの子、椿さんみたいで可愛いですね」

「え!私みたいって、どういう意味ですか」

「確かに、椿そっくりだったな」

「どこがですか!」


沖田と土方はニヤリと笑った。椿はまったくその意味が分からない。


「分からないんですか?ではお教えしますよ。先ず、土方さんの睨みが効かないところ、獲物は何としても逃がさないという心意気。それから、往生際が悪く簡単に諦めないところ。空気が読めない所、ですかね」


「・・・あの、私はけなされているのですよね」

「そう聞こえましたか?」

「違うんですか!」


くくくっ、と沖田は笑うばかりだ。

椿はキッと土方の顔を見上げた。土方は一瞬驚いたように顔を引いたが、大きな手で椿の頭をガシガシと撫でてきた。


「ちょっと、やめてくださいっ」

「ははっ。総司が言ったのは全部おまえの長所だよ。よーく覚えておけ」

「はぁ!?全然分かりませんっ」


大きな男二人の間には小さな犬がきゃんきゃん強がって吠えているように見える。

山崎が居ない寂しさや不安はこうやって二人の男が紛らわせてくれている。


心の中で「ありがとうございます」を何度も呟いた椿だった。





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