かくれんぼじゃありません!
鳥羽伏見の戦いまで突っ走ると言ったのですが、なんと!まだ池田屋事件しか終わっていないじゃないかっ!
なのに、もうこんな話数に。。。。何処かでいきなり、時間を飛び越えるかもしれません。あしからず。
池田屋騒動以降、新選組も変わりつつあった。
幕府からも世間からも見る目が変わり一目置かれる存在となったのだ。それは時に悪い方へ傾くことだってある。
そのいい例が近藤の態度が極端に変わったことだ。
所謂、天狗様になってしまったのだ。
「土方さん!いいんですか。近藤さん永倉さんたちに訴えられていますよ!」
「放っておけ、新選組の内輪揉めにいちいち会津藩主が取り合うわけねえだろう。それに近藤さんだって、少しは思い知った方がいいんだよ。まったく、どいつもこいつも」
そうでなくても隊士が脱走だのなんだので居なくなって大変なんだと土方は頭を抱えていた。
脱走は切腹だ。しかし、あまりにも脱走者が多くいちいち拿捕に走っていられなくなったのだ。
一躍有名になった新選組は一時的に隊士が増えた。
しかし、質のいまいちな者たちばかりで結局は耐え切れずに脱走してしまうのだ。
「でだ、隊士募集をする事になった」
「募集しなくても毎日入れてくれって来ているみたいですけど」
「この辺の輩は使えねえ。江戸に募集に行く」
「江戸!?」
「そこでだ」
「はい」
「おまえも一緒に江戸に行くんだ」
「はあぁ!どうして私が」
「隊士募集と長州の偵察で此処は手薄になる。そんな中に女のおまえを一人残すわけにはいかねえだろ」
「でも・・・」
山崎さんが居るから大丈夫ですと言おうとすると、空かさず土方はこう言った。
「山崎には長州に入ってもらう」
「え!長州に?」
「大阪の鴻池さんが長州のあちこちに金を貸しているんだ。それの取り立てについて行かせる。聞くところによると、軍艦を使って異国の船を追い返したらしい」
「ええ!そんな危険な所に」
「大丈夫だ、山崎には鴻池の人間として行かせる。危険はねえよ」
「・・・」
「だから山崎もいねえこの屯所に居る方が危険だろ?」
「でも私が一人で残る訳じゃないでしょう?」
土方が言うには斎藤、原田、永倉は昼も夜も巡察に出るため椿の事を気にしている暇がない。
近藤は局長職が忙しい。毎日どこかのお偉いさんの話を聞き、酒を飲んでいるのであてにならない。
「でも、私は毎日土方さんの側で仕事をしていますから大丈夫ですよ」
「だからお前も江戸に行くって言ってんだ」
「・・・は?」
「隊士募集に藤堂が一足先に立った、後を追って俺も行く」
「土方さんも行くんですか!!」
「だ・か・ら。お前も連れて行くって言ってんだよ。万が一、おまえに何かあったら俺は山崎に殺されるぞ」
「殺されは・・・しないでしょ。たぶん」
「・・・たぶん?」
「・・・」
ない、と言いきれなかったのは山崎との関係が良好だということだ。
「では、お供いたします」
「おお。出立は三日後だ、準備をしておけ」
三日後とはまた急な話だ。
それまでに山崎の顔を一目でも見たいが、まだ居るだろうか。
山崎は特殊な任務の為、いつからいつまで不在にするのかは知らされない。
「まずは、山崎さんを探さないと」
椿は土方の手伝いもそこそこに、部屋を出た。
山崎を探しに。
***
「沖田さん!山崎さん見ませんでしたか?」
「相変わらず唐突ですね。今日はまだ見ていませんけど、何かあったんですか?」
「そうですか、ちょっと野暮用です。ありがとうございます」
そう言うと足早に椿は廊下を中庭の方へ進めて行った。
きょろきょろと余所見をしながら歩く姿がなんとも可愛らしい。
「かくれんぼでもしているのかなぁ」と楽しそうに沖田は一人笑った。
一般隊士に聞いても無駄な事を椿はよく知っている。
聞く相手は一応選んでいるつもなのだが・・・
「山崎さんを知りませんか?」と中庭で屈んで誰かに話しかけている。
そこに巡察終わりの十番組が、井戸で顔を洗おうと中庭に入ってきた。
「おい、椿。そこで何してるんだ」
「原田さん!お疲れ様です」
「ん?猫か」
「はい。迷い込んだみたいですよ。人に慣れています」
「なんかコイツにぶつぶつ言ってなかったか?」
「あはは・・・」
大きな原田が上から覗き込むように椿を見る。まるで囲まれてしまったような気分になり落ち着かない。
特別な気持ちはない。ないのだが恐るべし原田左之助。
大人の色気に眩暈がしそうだ。
「なんで逃げようとするんだよ」
「だって、原田さんに近づいたら子が出来るって」
「ばーか」
と、指で額を軽く弾かれる。
そんな仕草までもが女性を虜にするのだと椿は思った。
この人は天然の女たらしだ!!
鈍感な椿が感づくほどの色気とはどんなものだろうか。
「あの、山崎さんを探しています」
「それをあの猫に聞いたのか」
「・・・はい」
腹を抱えて笑う原田の脇をすり抜け、なんとか脱出した。
猫にも聞きたくなるくらい、山崎を探すことは難しいという事だ。
現に誰も姿を見ていない。
いっそ『山崎さん何処ですかー!』と叫べたらどんなに楽だろう。
「もう、山崎さん何処にいるんですか・・・」
足早に廊下を進み、何人もの隊士とすれ違う。そのたびに「お変わりないですか?」と笑顔で問いかける。
「先生、お陰様で」気付けば女ではなく一人の医者として皆が椿を慕っている。
そんな光景を見ると自然に笑みが漏れる。
「椿さん、忙しそうですね」
椿の後姿を目で追いながら山崎が独り言をこぼす。
実は山崎を探して歩いているのだが・・・
「あれ、山崎くん。まだ鬼から見つかってないんだ」
「沖田さん!」
「君たち楽しそうだね」
「どういう意味ですか」
「椿さん、さっきから君を探していましたよ?山崎さん見ませんでしたかって」
「え?」
「僕てっきり、かくれんぼでもしているのかと思いましたよ」
「・・・失礼します」
それを聞いて、山崎は椿の後を追った。
「今度は鬼ごっこですかね」
と、沖田は二人を羨ましそうに見て微笑んだ。
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