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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第一章 医者として
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怒りと嫉妬と誘惑と

毎度1話の文字数が多い中、お付き合い頂きありがとうございます!

無言で三人のもとへ行く山崎を誰も止めることが出来なかった。

否、誰も止めてくれるなと背中が語っていたのだ。

固唾を呑んでその行く末をただ見守るしかない幹部たち。


山崎が折り重なる三人の側に立った。

気のせいかいつも以上に低く落ち着いた声が聞こえてきた。


「局長、お怪我はありませんか」


ゆっくりと近藤の脇に腕を差し込み、上体を起こす。


「ああ、山崎くん。すまんな」

「いえ」


そして今度は椿の腕と腰を支えながら抱き起こす。


「や、山崎さん。ありがとうございます」

「大丈夫ですか?お酒がかかってしまいましたね」


あまりにも冷静に対処する姿にドキリと心臓が跳ねた。それは決して良い意味で跳ねたわけではなさそうだ。

こんな時の山崎の表情は非常に読み辛いのだ。


「副長、災難でしたね。怪我は」

「あー、大丈夫だ。気にするな」


まさか自分の軽い冗談が引き起こした事だとは、口が裂けても言えない状況だ。あまりにも滑稽過ぎる。

この原因を知っているのは土方本人だけだ。

椿には「冗談だ」の声が届いていなかったのだから。


「椿くん大丈夫かね?こんな大きな体で君に乗ってしまった。申し訳ない。酔ってしまってのかもしれんな。すまん!」


局長が頭を下げるものだから椿は大慌てだ。


「あ、頭を上げてください。私がそそっかしいから局長を巻き込んでしまったんです。私こそすみません!!」


お互いに頭の下げ合いをしている。

本当は一番深々と頭を下げなければならない男が隣に居るのだが。


「椿は今日はよくやってくれた。なあ近藤さん。こいつが居なかったら辛気臭い集まりになってただろう」

「おお、もちろんだ。椿くん、本当にありがとう。いやぁ、椿くんの按摩も最高だったよ。怒りもすっかり消えてしまったからな」


ワハハと豪快に笑う近藤の後ろで、表情を変えない男が一人。

山崎だ。

何かが彼の導火線に火をつけてしまったようだが、果たしてそれは誰なのか。原田も沖田も藤堂もある意味目が離せなくなっている。


「左之さん、山崎くん怒ってるよな」

「ああ」

「平助くん、誰が怒らせたと思う?」

「全然分からねえ」


他の幹部は山崎が怒る前触れを知らない為、全く気にしていないようだった。いや、むしろ三人が転けた姿を見て笑いを堪えるのに必死だっただけかもしれない。


「椿さんお酒が着物に掛かっています、直ぐに着替えた方がいいですね」

「えっ、あ。本当だ」


着物の袖をくんくんと臭う椿は、もう先ほどの失態はもう忘れている。


「もうこのまま下がっていいぞ。後は野郎だけで適当に飲む」

「よろしいですか?では、お言葉に甘えて」

「ああ、ゆっくり休みたまえ」


椿は近藤の見送りの言葉にチラリと土方を見て胸を撫で下ろす。

『よかった、お部屋に行かなくて済む。土方さんありがとうございます』とでも心の中で思っているのだろう。


土方はただ頷く事しか出来なかった。

『いや、悪いのは全部俺だ。すまん!椿』と心の中で謝っただろうか。


椿が席を立つと、山崎も後を追うように部屋を出た。

それを見た土方は「あいつ怒ってるよなぁ」と漏らしたとか。


廊下に出ると、すぐに山崎が追ってきた。


「椿さん、本当に大丈夫ですか?」

「はい、ちょっと驚きましたけど」


すると山崎は椿の腕を取って、手首を優しく撫でるのだ。

先ほどまで近藤が強く握りしてめいた左の手首を。


「山崎、さん?」

「部屋まで送ります」


有無を言わせない雰囲気に椿は黙って従った。

なぜだろうか、空気が重い。鈍感と言われる椿でも分かるくらいに重いのだ。横目で山崎の表情を見るが、いまいち分からない。


部屋の前まで来ても山崎は繋いだ手を放そうとはしなかった。

やはり何かおかしい。何か言わなければと椿は焦った。


「あのっ、休んで行きますか?山崎さんもお疲れでしょう?」

「えっ!」


何を言うかと思えば、椿は山崎に部屋で休んで行けと誘っているではないか。

その言い方は・・・勘違いしてしまうでしょう!


椿は首を傾げて山崎の返事を待っているようだ。


「俺が、椿さんの部屋に入っていいのですか?」

「ん?・・・はい、勿論です」


先ほどまで嫉妬という怒りの炎が宿っていた筈の山崎だか、今度は雄の本能を刺激され戸惑っている。


怒りから嫉妬へ、その嫉妬が甘い誘惑に侵され始めている。

椿は決してそういうつもりで言った訳ではない。

いつもの山崎なら気づいただろう。

しかし、今日の山崎は急激な感情の変化に付いていくのがやっとだった。今の山崎にとっては、目の前にいる椿が妖艶に誘っているようにしか受け取れなかったのだ。


「では、お邪魔・・・します」


山崎は椿の部屋に足を踏み入れた。

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