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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第一章 医者として
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結局は何も出来ずに無傷で帰ってきました。

一応は会津藩預かりの身の上である新選組は、会津藩の兵の一部として出兵する事が許された。

近藤と土方の粘り勝ちとなったようだ。


「新選組、長州征伐に出陣致す!!」


と、張り切って出ていったのを見送ったのが半月前。

その後特に嫌な知らせはなかった。

あくまで椿にとってはと言っておいた方が良いだろう。


屯所待機組は今日も平穏に過ごしていた。

因みに、池田屋からそう日も経っていないにも関わらず沖田と藤堂は勇んで出陣している。


「尾方さん、皆さんは今頃どうしているのでしょうか。怪我など無ければよいのですが」


池田屋で共に救護に当たった尾形と部屋の掃除をしているところだ。


「話によると、後処理ばかりでなかなか思うように動けていないとか」

「そうですか。土方さん苛々しているかも」

「ああ確かに」


二人で顔を見合わせて、微妙な笑みを交わした。

帰ってきたら大変だなと考えは同じだったのかもしれない。


(山崎さん、どうしてるかな。ご飯ちゃんと食べているかな)


口には出さないけれど、頭の中は山崎の事でいっぱいだった。


「椿さん!」


太く雄々しい声が屯所内に響いた。

振り返ると其処には島田が立っていた。


「あれ!島田さん!お疲れ様です」

「はい。先だって知らせがあります」


島田が伝令で来たとなると、山崎はどうしたのか。

一瞬、冷や汗が流れゴクリと唾を呑み込んだ。


「・・・はい」


大きな島田の顔を見るには、首をかなり上げなければならない。

胸のざわつきを押さえながら言葉の先を待つ。


「二、三日で全部隊が帰隊しますので、心づもりを」

「承知しました。怪我人の数や状態は」

「それが・・・」

「はい」


島田は眉をハの字に下げ何やら言葉を探しているようだ。

それが更に椿の緊張と不安を煽る。


「居ません」

「・・・えと、今なんと?」

「はい、居ません」

「居ない!?怪我人なし。では、殉職者は!」

「居ません」

「・・・」

「皆、無傷なんです」

「そ、そうですか。医者としては喜ばしい事ですが」


島田のハの字の眉は変わらず、そのままの形を保たれている。

椿は思った。恐らく、新選組は満足に動く事が出来なかったのだと。

思わず尾形の顔を見た。

尾形も同じ事を考えていたのだろう、困ったように笑った。


「島田さん、違う意味で心の準備が必要の様ですけど」

「さすが椿さん。かなり苛立った方がいらっしゃいまして」

「それって・・(土方さん)」

「ええ、局長がかなり」

「ええ!副長ではなく局長ですかっ!?」


島田は黙って頷いた。

それは予想外だった。いつも温厚で大きく構える近藤が一番苛立っているとは。


「どうしよう!私、局長の扱い方が分からないんです」

「椿さん、そこを何とか」

「え?」

「副長からの伝言ですが、椿に局長を任せると」

「ええ!!」


もう仰け反る他に感情の表し方は無かった。

「椿さんなら大丈夫ですよ!」と、適当な励ましをよこしてくる尾形。

どうしよう、どうしようと唸る椿。


負傷者は居ないとのことで大量の医療道具は一旦片した。

尾形は淡々と広間や隊士の部屋を掃除する。

椿は一人、頭を抱える。

どう励まし、どう宥めるのかと。


「椿さん、大丈夫ですか?」

「尾形さん!」

「はい!」

「全然大丈夫じゃないですよ!!」


屯所待機組と島田さんで話し合った結果、宴を設けて酒で労うしかないんのではないかと言う結論に至った。


「お酒で局長の気持ちは治まるのですか?」

「局長はあまりお酒は強くありません。しかし、酒の席の雰囲気は大好きですよ!」

「島田さん、信じていいのですよね?」

「勿論です」


どうもいまいち信用出来ない。

局長も副長も酒が強くないのは知っていた。

しかし、宴は好き? 初耳だ。


「そうだ!柳大夫に指南を請いましょう」


以前島原で潜入捜査を手伝った時に、男の事ならいつでも相談に乗ると言われていたのを思い出したのだ。


椿は翌日、島原の柳大夫を訪ねた。

椿から相談されるとは思わなかったと喜び、局長の事はよく知っているので任せろと言われたのだ。


「柳大夫!心強いですっ。ありがとうございます」

「ほな早速やけど・・・」


椿に近藤の好みの仕草や言葉を伝授して行く。自尊心の強い男の扱い方を丁寧に椿に解く。


「えっ、そんな事まで!!」と赤らめて聞く椿が可愛らしく、柳大夫は少し大袈裟に話して聞かせたのだ。


「椿はんなら大丈夫や、自信を持ちなはれ」


「がんばります」


全ては副長からの任務に応える為、局長の気持ちを宥める為にと。


これが山崎の嫉妬の炎に油を注ぐはめになるのだが、椿は男女のソレに疎いのだ。

どちらの気持ちも削がずに立ち振る舞うなど無理だろう。


山崎さんの事はどうします? 椿さんっ!

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