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山崎さんを知りませんか?  作者: 佐伯瑠璃
第一章 医者として
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しれば迷いしなければ迷わぬ恋の道。其の二

ちょっと思考がずれている椿だ。

土方が心配していたのは男に手籠めにされないようにとの意味だったと思われる。

しかし、椿にしてみたら自分が闇討ちでもされたら新選組のお役にたてなくなる。

まぁ、自分の身を護るには違いないのでそれでもよいのだけれど・・・


「あ!藤堂君!お久しぶりです。お元気でしたか?」

「おお、椿じゃん。相変わらずだね」


藤堂は隊士募集や自身の修行を兼ねて江戸に行っていたのでかなり久しぶりだ。


「で、どうしたの?誰か具合でも悪いの?」

「いえ。今日は誰かに稽古をつけてもらおうと思って来ました!」

「え?」


藤堂に斯く斯く云々と訳を話す。


「そうだね、護身術は知っていて損はないからいいかもしれない」

「ですよね!」

「でも、ごめん。俺これから巡察なんだ・・・あ!斎藤さんがいいかもしれない」

「斎藤さん?」

「うん、斎藤さんは教えるのが上手だから。それに午後は非番だったはず」

「ありがとうございます!」


と言う流れで、椿は斎藤に護身術を教えてほしいとお願いしたのだ。

斎藤は困っていた。

そんなに熱く乞われても、初心者相手にどこから教えたらよいものか。


「椿。己の身を護れるようなものでよいのだな?」

「はい!最低限の危機回避をお教えいただければ、いざという時も皆さんのお手間を取らせずに救護活動が可能だと考えています」

「・・・分かった」


斎藤は椿に合気道を教えることにした。

力の弱い椿でも、相手の力を逆手に取って攻撃が出来るからだ。

幸い彼女は医者だったので体の仕組みはよく理解している。

関節や、どの位置に体重をかければ相手の動きを止められるのかなど言えばすぐに分かった。


「なかなか筋がいいな。そうだ、今度は後ろから来るから先ほどの技を掛けてみてくれ」

「はい」


流れるような動きで斎藤が椿の肩を掴むと、逆らうことなく体重を移動した。

そして手首を逆手に素早くとり一度相手に体を預ける。

一歩引いたのを確認したら相手の懐に深く入り・・・・ドダンッ!


斎藤が床に落ちた、すかさず肘を喉元に当て抑え込む。

これで大抵の者は起き上がることも、逃げることも出来なくなる。


「っ!・・・完璧だ。呑み込みが早くていささか驚いている」


床に押さえつけれまま斎藤は椿を褒めた。


「ふふふ、斎藤さんのお蔭です」

「////」


覗きこまれる形で間近に椿の笑みを見た斎藤は一気に茹であがった。

こ、これはマズイ。そう思った時には遅かった。


「大胆だなぁ椿さんは。昼間っから男を押さえ込んじゃって」

「そ、総司!」「沖田さん」


斎藤は焦った、よりによってこの男に見られたとは。

しかし椿は違った。


「へへっ。沖田さんすごいでしょう?これで私も一人前ですっ」

「っ!よ、よかったね」


あの沖田が言い澱んだのだ、もう誰も椿には敵わないだろう。

沖田は斎藤と目を合わせると肩をクイッと上げて「お手上げ」と言って見せた。


ちょうどその時、珍しく土方が稽古場にやって来た。


「椿、こんな所にいやがったか。さっきの話なんだが・・・」


土方はチラリと沖田と斎藤を見ると、椿に手で招き自分に近づくよう合図した。

椿が側に来たのを確認すると耳元で二人に聞こえないように言った。


「原田の部屋に行け」

「はい、承知しました」


椿は黙って稽古場を後にした。

そう、土方は椿に男心を教えてやると言うのを放棄したのだ。

(俺は気が短いからな、間違って手でも出しちまったら大変だ)


「土方さん、悪い顔してますよ」

「あ?煩せえんだよ。椿は俺の手に負えねえからな」

「・・・同感です」


三人の意見があったのはこの先、これが最初で最後だろう。


そして、椿は原田の部屋にいる。

原田は土方から話は聞いていたので、何とかなるだろうと構えていた。

女の扱いは原田に限ると誰もが口をそろえて言うくらいなのだ。


「おう椿、待ってたぞ」


原田はその瞬間、戦闘態勢(女を口説く)に切り替えた。

甘く低い声で、大きな瞳を少し細め眩しそうに椿を見つめた。

色男の完成だ。


「よ、宜しくお願いします」


鈍感な椿もこの男の放つ色香を感じたのだろう、腰が引け気味だ。

それでも腹をくくり、土方に話したのと同じことを原田にも話した。


「なるほどな。椿は山崎の事を男として好いているんだな」

「すっ、好いているって」


椿には濁した言い方では伝わらないと思った原田は次々に椿を攻める。


「だから総司との事を誤解してほしくなかったんだろ?私が好いているのは山崎さんですって意味だろ?」

「・・・は、い」

「あとその悋気って言葉だが、嫉妬と言う意味だ。山崎が総司に嫉妬したんだ。自分の大事な女が奪われたのではないかと怒ったんだ。椿を取られたくなかったんだ」

「え!嫉妬・・・」

「で、山崎はお前の気持ちを聞いて抱きしめてきたんだろ?」

「はい」

「それはお前の事が好きで、どうしたらいいか分からなくなったからだな」

「・・・え!!私の事が好き?」

「じゃなきゃ、あの真面目な山崎が女にそんな事しねえよ」

「そ、そう、なんですね」


椿は動揺していた。自分の山崎への気持ちは何となく気付いていた、でもまさか山崎も自分の事を好いていてくれているなんて正直思ってもいなかった。


「でも、好きとは言われていません」

「山崎は誠実で真面目だ。自分の任務の重要さも十分に理解している。死と背中合わせの中で椿に好きだといって恋仲になるのが不安なんだろ」

「どうして不安なんですか」

「いつお前を残して死ぬか分からねえからだ」

「あ・・・」


新選組は幕府の為に毎日疾走している。その重要なカギを探るのが監察である山崎の仕事だ。

それだけ身を危険にさらしているという事だ。

山崎だけではない、ここにいる全員が明日も無いかもしれないこの激動の日々を生きている。

どんなに好きでも、好いた人との未来を約束出来ないからだ。


「原田さん」

「ん?」

「分かり易いお話ありがとうございました。私はまだまだ子供だったみたいです」

「・・・」

「私は新選組の医者です。私に出来る事、私なりの方法でこの想いをぶつけたいと思います」

「椿?」


椿の瞳はどこか遠くを見ていた。

しかしその眼差しは、強い意思を持ったものであり、未来を照らす光に見えた。

椿は山崎が尽くす新選組の為に、自分も医者として尽くそうと誓ったのだ。


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