遺跡突入(ファイアーシスターズ視点)
「おねぇちゃん!おねぇちゃん!」
妹の声が遠く聞こえる。なんでだっけ。近くにいるのに…声が遠い。そうか、あの瞬間…。
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「うわっ!」
思わず、声を上げてしまった。足元に会った小岩、その下から急に光る魔法陣が出現したからだ。世界が暗転し、頭痛というか頭が重くなる感じがぐーっと強くなった。私の声を聴いた妹が咄嗟に私の体に触れて、接触を感じている間に空間が変わった。というよりは私たちが移動したのだ。転移陣による強制転移の罠。ダンジョンでは時折みられるPT殺しのトラップだ。でも本当ならば問題なかったはずだ。私達はそれなりに経験を積み、強い。だから個別に分かたれても合流するまで生き延びられれば何の問題もない。そのはずだった。そう、『個別に分かたれていれば』だ。分断を目的としたトラップは私達を1人分の空間に押し込めた。
例えば、二人で並んで手を繋いでいたら問題なかったのだろう。私たちは正常に転移していたはずだ。だがしかし、姿勢を崩した私と、それを支えようとした妹。どう考えても空間を取り過ぎていたのだ。1人分の空間に大きく広がった二人が入るとどうなるのか。そう、正解は今の私の姿だ。
私は今、壁の中にいる。
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どうしよう、おねぇちゃんが!
左手だけがだらりと垂れた『壁から生えた』姉を見る。十数年も一緒にいて見慣れた手だ。今更間違えようもない。こういう時こそ冷静にならなければならないのに、私の頭は火が付いたように冷静にはなってくれない。なれるはずもない!!!!
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5分もするとほんの少しだけ落ち着くことができた。高度なVRシステムは姉の体温すら如実に再現する。まだ、暖かい姉の手だ。その手を握りながら少しだけ考えてみる。姉を助ける方法。今は姉を助けられるのは私しかいないのだから。
①ログアウト
今この時はこの場から離れられるかもしれない。でも、エンデバーエンドワンスのシステムは再ログイン時に全く同じ空間に復活する。だめだ。何の解決にもならない。
②壁を掘る
どうやって!はっきり言って私達は武器に依存していない。特に私はINT特化で物理攻撃力は低いうえに壁にダメージを与えられるほどのものなどない。火?姉ごと燃やすつもりか!
③姉を…殺す?
私たちはプレイヤーでここはゲームの世界だ。だから死んでもゲームの中だけの話で、すぐに生き返ることができる。この場ではなく、寒い寒い雪の中にだが、それでも壁の中よりはマシだろう。
…?私に姉を殺すことなんてできるはずがない。おねぇちゃん。わたしのおねぇちゃん。いつも一緒にいて、私を助けてくれるお姉ちゃん。そんな私がどうやって姉を殺すのか。
「誰か…誰か助けてください。おねぇちゃんを…おねぇちゃんと私を誰か助けてください。」
少女の声に答えるものは居ない。いつも助けに来てくれる少女のヒーローは今、壁の中にいるのだから。
助けはない、冷たい洞窟の壁に向かい少女はただ、手を握りうずくまるしかできない。




