千里眼
書いててドン引きする主人公の黒さ!
「くっ…!」
妹が着火し、姉が燃料を炊く『ファイアーシスターズ』の新しい連携スキルは、これまでの「ちゃんとした連携」を軸にした彼女たちの評価を著しく塗り替える物だった。まさしく新しくスキルを創造出来るこのゲームならではの凄まじいスキル。常に二人一緒でないとほとんど効果がない、二人がほぼ一緒にいるからこその放火魔共の真骨頂。これに掛かれば人間なんてただの松明にすぎない。
「って奴らを相手に考え事をしている場合か僕。」
彼女たちは先ほどまでの前衛後衛に分かれた「見せかけの」デュエットスタイルを捨てて恐らく、初めて間もない二人前衛で襲い掛かってきた。当然先ほどの連携スタイルも視野に入れなくてはならない上に、彼女たちの格闘能力も相応に高い。姉はINT極振りで格闘はカンナと同じ、自分の現実での格闘技センスに頼った戦い方。妹は逆にAGI,DEX,STRに振った典型的なシステムアシストに頼った前衛スタイルと思っていいだろう。1合打ち合っただけでの考察できる情報はそのくらいだ。そして、当然…。
「おらぁ、リコリス!その程度か!」
「その首、いただきます!」
ソロでなら対応可能な相手でも2VS1なら容易に押し込まれる。しかも古い情報を元に楽観視していたため全然何の対応もとれていない。慢心だ。いや慢心しすぎだろ僕。最近の敗因はほとんど慢心じゃないか。後出しで本気を出して勝てるのか。いや、勝てなくても善戦くらいはしないと敵にも味方にも気まずすぎる。
…なんちゃって。
もう仕込みは済んでるんだなぁ。上手く行くか行かないかは別として僕にはもう勝利までの道筋が『見えている!』ってのは言い過ぎかな。でもまぁ順繰りに説明してみよう。戦闘開始時にはすでに発動していたミニマップで2人の位置は特定していた。相手の動きに合わせてちゃんとマップ上で光点が動くのも確認済みだ。
「疾っ!」
二人掛かりの打撃を大きく避けて距離を開ける。仕込みが大きいときは動きは大胆に。頭は冷静にだ。距離を取った瞬間んに目晦ましに2人に向かって「火遁・彼岸花」をぶつける。当然こんなもんで倒せると思っちゃいない。視界が逸れるとも思っちゃいないね、この二人はそんなに軟じゃない。でも一瞬だけ動きが止まれば別に目で追われてても関係ない。
「5連・彼岸花!」
二人との間に2つ、彼女たちを囲むように3つの火炎弾を作成する。彼女たちはPVPの熟練者だ。阿吽の呼吸で背中合わせに全方位の攻撃に対応しようとする。そう、それが正しいんだ。
本来ならね。
僕だ同時に出現させた5つの彼岸花をすべて地面に向けて叩き付ける。抉りこむようにではなくあくまで雪の上に置きに行くイメージだ。当然地面に降り積もっている雪との間に温度差が生じて雪は解ける。でも魔法の炎はそう簡単には消えない。結果的に周囲の雪が解けて地面は泥濘みをはじめる。辺りに突如吹き上がった水蒸気は一部は霧のように、一部はダイヤモンドダストのように。
「くっ!視界が!」
「姉、落ち着いて。リコリスだって同じ条件です。油断しないで周りを警戒して!」
妹ちゃんは冷静だけど、もう一歩踏み込みが足りない。僕ならこんなもんが広範囲に広がっている筈はないからまず範囲外に逃れようとする。妹ちゃんは動きを止めて周りの鎮静化を待った。でも姉、スカーレッドの方は止まっている方が危険だと察したようだ。妹の制止を無視して範囲外に出ようと目の前にダッシュする。そう、良い判断だ。こんなもん5Mも広がっちゃいないし、そもそもジッとしてても30秒も持たない。風が吹いたら飛んで行っちゃうような局所的な霧だ。だからまぁどっちが正しいとも言えない。どっちも正解なんだよ。
なーんて。遙か高みから解説しているように見える僕が実際に空を飛んでいるなんて夢にも思うまい。彼岸花が十分に水蒸気を空中に散布してくれたところで僕は『浮遊』を使用して10Mほどの高さまで飛んでいた。幸い霧もこの高さまでは達しなかったし、誰にも見られなかった。そして彼女たちの動きは霧で見えなくてもマップを見れば一目瞭然って訳だ。さーて、姉にするか妹にするか。
「まぁ危険度の高いほうからだよね!」
霧から飛び出て顔についた霜を払いながら周囲を油断なく見渡しているスカーレッドに向かってレビテーションを解いた自由落下でそのままナイフを突き立てる!重力+ナイフの切れ味で彼女の体はけっこういとも容易く切り裂かれ、声も上げずに絶命した。いや、リスポーンするだけなんだけど。
「リコリス!」
ようやく霧が晴れ、こちらを視認したパイロスタータちゃんが地面に倒れているおねぇちゃんと、血の付いたナイフを持っている僕を見て絶叫する。
「大丈夫だよ、すぐにお姉ちゃんと同じ所に送ってあげるからね!」
「この腐れ外道!」
「PVPで腐れ外道はないだろう。確かにちょっと大人げなかったかなとは思ってるよ?まぁちょっとした考察で君達姉妹の攻略は難しくないって事だ。ほら、君のパイロスターターだっけ?あれもどうせ超至近距離じゃないと発動しないんだろ?ん?」
「そ、そんなことは…。」
「ない?じゃあやってごらんよ。出来ないだろう?伊達にカンナちゃんの死を無駄にしたわけじゃないんだよ。君たちのスキルの連携を攻略する方法はなくても対策くらいはあるって事だ。」
「5連、火遁・彼岸花」
そういって僕は造作なく火炎球を彼女に向かって放った。ステータスによるブーストで1つ目は避けた。でも2つ目は無理だった。右腕に着火した火に体が硬直する。あとはもう死角から襲い掛かる火炎弾を避ける術は彼女にはない。着弾を見届けた僕はゆっくりと小屋に向かって歩いていき、小屋で一部始終を見届けたコボルドにこう質問してみる。
「さぁ戦いの感想をどうぞ?」
「びっくりするくらい外道でした!」
まぁ総評するとそうなっちゃうかな!
次回「炎宴の後に」
今回の話はどうでしたか?
感想、評価お待ちしております!点数つけてくれたら作者大喜びです!




