暴虐のリコリス
~カンナ視点~
それまで、騒いでいたのが嘘のように急に静かになり、顔付きが変わるリコリス。私は知っている。これは、達観して『見通す』ことが出来るようになった人間の目だ。常人と、達人を分けるのはこの目ができるかどうかだ。私は現実でのリコリス君に出会ったし、話もしたがそんな雰囲気は感じなかった。せいぜい頭の切れる参謀型だと括っていたのだ。それがどうだ。彼のホームであるゲームの世界ですら隠し通そうとしていたその本性が混乱状態の状態異状によって今ヴェールを脱ごうとしている。
「さぁ、決闘を始めよう。」
始めに動き出したのはやはりリコリスだった。距離にして10Mは離れていた赤忍者に寸臨して、腰を溜めた右ストレートを放つ。だがしかし、それは私であればほんの数センチ首をひねるだけで避けて即座に反撃に入れるテレフォンパンチ。速度は見事だがシステムに強化されていない人間速度のパンチなど所詮ケンカの延長でしか使えない。事実、忍者はかなり余裕をもってバックステップを取り。
そして一瞬で燃え上がった。
「なぁっ!」
「ねぇ知ってるかい。彼岸花は昨晩は何もなかった土手に一晩で茎を生やし、花を咲かせるんだぜ?」
言いながらも無表情を崩さない。周囲への警戒を怠らず、なおかつ目の前の敵を冷静に分析している。恐らくはマッピングスキルと鑑定眼のマルチタスクにより視界外の悉くをも見通して、地雷のように彼岸花を用いる。そうとうに嫌らしい戦法だ。何が混乱だ。完全に普段の方が混乱しているじゃないか。
「おい、妹。シンプルに行こう。」
「そうだね、姉。私たちがいつも通りにやれば敵はない。もはやシステムとして完成しているんだからさ。」
言いながら、リコリスと私、どちらに対しても迎撃できる位置に姉のスカーレッドが位置取り、その少し後方に妹のパイロスターターが構える。これが彼女たちのスタイルなのだろう。私は右手で刀を抜き放ちながらロッサ君の背中を押した。
「さぁ、小屋に戻って。あと、小屋の中からしっかり戦いを見ておくんだ。この戦いはきっと見ているだけでいずれ力になるから。」
「わかりました。カンナさんも気をつけて!」
一目散に駆けだすロッサ君を見ながら私は、忍者に目を落とした。地面に伏してまだ火が燻ぶっているが生きているようだ。
「殺さないのかリコリス。」
「もう、しばらく動けないだろ。HPが2割を切ってる。別に殺すところまでが勝負じゃないんだから戦闘不能で失格だろ。…次はカンナが相手をしてくれるのか?」
「別にかまわないけどね。あっちに2人ほど連携してるやつがいるみたいだけど?」
刀で指してみる。
「ファイアーシスターズか。確かに強いが完成されたシステムって何か意味があるのか?俺は今までにあいつらに負けたことはないし、多少小細工をされても負ける気はしない。」
「そうか、じゃあ私はあっちと遊んでくるよ。完成されたってのがどのくらい完成された連携システムなのか分からないが、大いに興味がある。まぁ今のリコリスも楽しそうなんだけど先にあっちかな。」
「…じゃあ行けよ。残った方潰して終わりだ。」
「手伝ってはくれないんだね。」
「何言ってるんだ?あの程度の相手に2VS2とか弱い者いじめだろ。」
おー。いつものリコリスとは違う凄みに、私の深い場所が反応してしまいそうになる。大丈夫、このオモチャは逃げない…。体の奥からくる破壊衝動はいつだって抑えるのが大変だ。
「じゃあ、お相手を願おうかなファイアーシスターズ。私の名前はカンナ。」
「ファイアーシスターズの姉!『スカーレット』」
「ファイアーシスターズの妹!『パイロスターター』」
燃えるように赤い姉妹との堂々とした名乗り上げを果たした私は最大戦速で突撃した。
次回、『紅蓮の衝突』




