地下からの眺望
雪崩は一瞬で、私には二人を抱えて山小屋に連れ帰るのがやっとだった。現実であればもう少し動けただろうが、足を取られる山の中。辿り着けた私をほめてほしい。誰も褒めてくれないので自分でほめる。私偉い!
そこでリコリスのとった行動は、一瞬の判断としては流石だと手を広げて歓待すべき拙速の動きだったが、しかして山小屋のある程度は安全と思われる狭い地下室に潜り込めたのは二人きり。コボルトのロッサ君と私だけ。要するに彼にとっては私たち二人に一番を譲り二番面に安全な場所に向かっただけなのだった。(荒事にこそ使える私を、正に荒事で邪険にされたのだ。)なにが護衛だ。雪が襲ってくればこんな小屋は一溜まりもない。私など守りに入ってしまえばこんなに弱い小娘だ。私も攻勢に出たかった。八面六臂の活躍を彼の前で繰り広げて彼に褒められたかった。褒められる?違う!そんなことのために私は旅に出たのではない!
「かんなさん、寂しいのですか?怖いのですか?僕がここにいます!そりゃあちょっと頼りないかもしれないけれど僕だって雪山で生きてきた戦士なんですから!」
まったく、何が戦士だ。笑わせる。筋肉もなく、技もなく、速さもない。特筆すべき事項も使えず私を守る?話にならない。私は一人の方が強くなれる!無意識にコボルトの首に手が伸びる。思えばこいつがいなければ…!
「かんなさん」
はっと息をのむ。馬鹿なことを。私は疲れているのか。私でも疲れることがあるのか。まだまだ世界は不思議でいっぱいだ。
「かんなさん」
手の中の幼い命は震えていた。私は何と馬鹿なことをしようとしたのだろう。穏やかにロッサを抱きしめる。
「大丈夫だよ。大丈夫。私達の仲間のリコリスは嘘つきで適当でしかも人見知りの廃人ゲーマーだけど、私たちを守るって、そういってここを出たんだから。絶対に守ってくれるよ。」
自分の中でのリコリスがとても大きくなっていることを感じる。多分、それも大丈夫。痛くならないくらいの力でロッサ君を抱きしめながら近づいてくる轟音に目を閉じる。もしも、神様なんて滑稽無灯な存在がいるのなら。どうか、リコリスを助けてください。その姿は祈りに似ていた。




