寒胆せしめる悪夢
「まずは雪山を登り、あの山小屋まで行きます。そこからは山小屋を5つほど経ると目的地に着く予定です!僕も伊達に二週間も走ってたわけじゃないですから、お二人に負けないように頑張りますね!」
凄く健気なロッサを見ながらにこにこ笑って歩く。素人の僕が見ても分かるよ。2足で歩く時の安定感が増してる。筋肉が云々じゃない。歩く時のバランスが圧倒的によくなってる。これがカンナの指導か。傍に居なくてもこれだけの指導ができるとは、流石は一郡の王。このまま強くなれば本当にサブ前衛として働けると思う。ただまだ、今は先導者が似合いだ。まずは一つずつだよね。
「リコリス。顔色が悪いぞ?っていうかゲームでも顔色って分かるんだな。」
「まぁね。これだけはっきりとしたゲームならそりゃあ顔色ぐらいは悪いだろう。大丈夫だよ学校の間中、後ろの席から念仏のように恨み節を唱えられただけだから。はぐりんが学校では後ろの席でね…。」
「あぁ、怒っていたからな。あれはちょっと怒り過ぎに見えたのだが、なにをあんなに怒っていたんだ彼女は?」
「2つを得られる場面で1つしか得られなかったことに対する恨みだよ。カンナは元仲間をうまーくノーリスクで降参させられたから満足だったでしょ?僕の目的は被害の減少だから目的が一致してた。でもはぐりんとチーターは目的が違うからね。まぁ不満だったと思うよ。これ以上はかれらのプライバシーに関わるから直接聞いてよ。まぁ、はぐりんもゲームを再開したし、チーターも、近日中にこのゲームに参戦するらしい。またいつか会えるさ、この空のもとで…。」
「いい話っぽくまとめたが顔色は悪いままだぞ?まぁそれでリコリスがいいならいいんだが。」
「二人ともーお話はいいですが、足元見てくださいねー。そのあたりクレバス大きいのありますよー」
「「あっぶね!」」
二人で慌てて飛び退く、足元にはクリスタルのように磨き抜かれた地獄への入り口が口を開けて待っていた。雪山やはり侮りがたし。
「ロッサ、そろそろかな?」
「はい!もうすぐ第一の山小屋が見えます!…見えません!」
ロッサ君混乱中。おいおい、迷ったとか驚くほど勘弁なんだが。
「あ、あー!」
ロッサ君の悲鳴が留まる事を知らない。雪山で大声出すと雪崩が表層で起きて滑ってくるらしいぜ(うろ覚えなんだけどね。)なぉなぉロッサ君は右も上もと首振りが忙しい。何があった。
「落ち着いてよロッサ君、私達にもわかる様に説明して!」
カンナが冷静に冷静さを求めている。ナイスだカンナ。
だが、しかし現実はもう少しだけ非情だった。
「前方100m山小屋が僅かに形が見える形で残っています。恐らく雪崩です!そして情報500m付近で雪が滑り始めています。僕たちにできることはもう…。」
「「諦めるなロッサ」」
「カンナ僕たちを抱えて山小屋までいけるか。緊急事態だ。」
「無論だが損壊しているぞ。2回目耐えられるか?」
「野ざらしよりはマシなはずだ。リミットを決めよう。僕たちはリセットできる。ロッサを死んでも守る。雪山に到着して3分位に有効な方が定まらなければカンナがロッサを抱えて全力で脈動ヒール。
僕は申し訳ないんだが後ろから亀のように抱きつきながら雪崩方法に彼岸花を撒いてみる。上手くすれば雪崩を動かせる感も知れない。」
へたり込んでいるロッサ君を胸元に抱く、となんと荷物のように僕を軽々と持ち上げて山小屋に全力疾走するカンナ。はっや!俺たちの為にワザとゆっくり歩いていたとしか思えない驚異の動き方だ。『あ』というまに雪小屋に到着だ。
「私は物置から探す、リコリスは1階を頼む。ロッサは私から離れるな」
迷わず、絨毯と言う絨毯をはぐ、見つからない。一応回収する。玄関、細工なし、台所…あった!酒を保存する本当に小さな地下室。3人は入れない。叫びたいが説得には時間がかかる。20秒で酒を運びだし、30秒で先ほどの絨毯を二人は居るくらいに隙間を残して壁や床に敷き詰めた。」
「二人とも!あったぞ!!」
直後カンナがロッサを抱えて突っ込んできた。
「地下室か!」
「あぁ、カンナとロッサはここに入れ。僕は僕で生き延びる目くらいはある。」
「だったら私に教えろ!私のほうが強い!」
「強いのと弱いのは一緒にするべきだ。僕じゃ有事にロッサを守り切れない。大丈夫。大丈夫だから時間がないんだ。頼む入ってくれ。カギをかける時間もあるんだ。」
「くっ…絶対。約束だ、死ンでくれるなリコリス。ゲームの中とは言えだ!」
体を絨毯の隙間に僕にねじ込まれながらカンナが叫ぶ。大丈夫だよ死なないようにするのは得意なんだ。っていまいち説得力がないかな?にやにやしやながら苦心して屋根の上に駆け上がる。女子供を守って戦えるなど僕の一心の暴流とはいえあ本当に出来た話だ。屋根の上から見るとはっきりと分かる。幅100mってとこか。この辺を覆ってくれることは間違いなかったけど意外と雪山でこの規模なら風呂桶の中にでも隠れてたら補正が掛かって生き延びられたかもなー。そんな益体もない事を考えながら流れをイメージする。彼岸花。正面中央に中威力でぶち込んでみる。周囲を溶かしながら少しうねる。魔力との戦いだろうか。
彼岸花、
彼岸花、
彼岸花、
彼岸花!
炎が雪崩を舐り雪が氷に変わり
飲み込まれながらもわずかに動きが変わる。僕の意志通りに。面白いけどタイムオーバーが近い。でもここに押し寄せるはずの雪崩の8割は受けながせたはずだ。これで二人が生き延びられればいい。もちろん僕も生き延びる。最後の力を振り絞って屋根から落ちる。ちょうど雪雪崩と山小屋の間に割り込んだ。
「5連彼岸花。」
正面方向にぶっこむ。花開く5つの彼岸花が綺麗に僕から一列に見えるように並ぶ。
「一つ目。」
彼岸花と最前列が激突した。大量の雪止め水は凍りつき、そのまま押し流すようにそのまま流れてくる。
「2、3」
全く同じように動く。表面がどんどん滑らかに、硬く変幻する。
「4」
完全に透明で透き通った柔らかい氷の見渡すかぎりの板。美しいが押しつぶされると死ねる。
「これでラスト。」
5つ目はあえて雪崩への対応をやめ、1Mを超える厚さの氷の板に人がぎりぎりうずくまれる程度の穴を開ける。と同時に潜り込む。痛いは痛いがどうやら死ぬことはなさそうだ。凍結、睡眠異常、低体温、魔力枯渇。いくつものアイコンを無視して目を閉じる。あとは雪崩を待つしかない。
旅の始まりはいつだって突然でドラマティックでなければならない。少なくても僕はそう固く信じていて、そして今回は正に僕の望み通りの難問だった。
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