閑話(10)緊急事態終結宣言(下)
「チキチキ!第2回!レイヴン対策会議ー!」
「イエーイ!」
朝っぱからテンションが高いはぐりんを、宥めず敢えてさらに起爆剤として乗ってみる。カンナとチーターは朝7時のテンションではないため、少々ぐったりしている。まぁその分は働く女だから目を瞑って貰うしかない。できればここで一気に片を付けて行きたいからな。
「じゃあ接続するぞ。」
恐らく完徹しているチーターの言葉と共に、画面内に高梁の顔が浮かぶ。ここまでは問題ないようだ。
「おはよう。本部長、朝比奈、リコリス、はぐりんさん準備はいいか?」
「「「「大丈夫だ、問題ない」」」」
声がハモってしまったが、なんかちょっと逆に不安な感じになってしまった。大丈夫かな、このメンバー…。って顔を高梁がした瞬間に画面にノイズが走り、知らない人の顔が浮かび上がる。迫川とやらだろう。
「やってくれたな本部長。うちの連携はもう隠しようがないくらいにずたぼろだ。悔しいがクラスタ内部の影響力だけで言えば、俺の圧倒的な敗北だ。そっちは随分と影響力のあるメンバーが育っているようだな。」
それを、うちに回してくれたらこんな無様な独立などする必要はなかったのに。迫川がつぶやく。
「それはないな。お前は武力蜂起をした。許されることではない。我々はキサマを粛正する。」
と、高梁が叫ぶ。いや、粛正はまずいんだよな。切り崩し、切り崩し。おそらくこの場にいる全員の見ている終着点が違うんだけど敢えて視点の共有も、情報の共有もしなかった。お互いの持ってる手札が不透明なままで敵の首魁との会談に望むのは不安が強かったが、僕にはこのメンバーにすら伏せなくてはならない秘密がある。他のメンバーも同様で、歯抜けの情報交換をするくらいならいっそ何も知らない方が良いという合意に至ったのだった。(まぁ、たぶんチーターが一人でも追い詰められると思う。ってゆうかチーターがいる時点でオーバーキル気味なのだ。)ここで、冷静に追い詰めるのはやはりチーターこと情報統制者、朝比奈だ。
「迫川。いやここは敢えて『レイヴン』の迫川と呼ぶべきか。君のわずか1時間にも満たない混乱の中で、周囲を巻き込み大同盟を作り上げたその手腕には脱帽するしかない。いやはや、6つの組織から延べ800人。だがしかし詰めが甘かったな。反政府組織はやりすぎた。警察は本腰を入れており、機動隊が数時間後に東京を発ち札幌に向かう。あぁ、礼文島とは名ばかりの札幌に本拠地を置く組織であることは既に君たちと敵対しているほとんどの組織に知られているよ。そして恐らくだが機動隊との衝突時に有事警戒として自衛隊が治安維持に当たる可能性もあると示唆しておこう。『レイヴン』はもう終わりだ。だが俺たちは少し前まで同じクラスタに所属する仲間だった。本部長は慈悲と温情を持たれる方だ。命乞いくらいは聞いてもらえるかもしれん。」
しばし、両陣営に沈黙が降りる。カンナが出るのが良いのか、僕が追い打ちをかけるのが良いのか。セオリーで言うなら当然、本部長であるカンナが出るべきだ。だがしかし、交渉は僕の方がうまい。切り出しを考えていると横から爆弾を投げ込んだ馬鹿がいた。はぐりんその人である。
「おはようございます☆迫川さん。交渉をしましょう。あなたが投降し、その安全を保証される条件として組織の情報を求めます。もう壊滅した組織の情報を持って抱いて死ぬのもつまらないでしょう?一切合切の情報と貴方の安全を交換しましょう!大丈夫!私があなたを無事守り切って見せますから!」
…まずい。こいつのスイッチが先に入ったか。多分はぐりんの筋書きは、まず間違いなく反政府組織の情報だ。学校卒業後に自分が立ち上げるであろう組織。その基礎になる政府の弱点を反政府組織から抜き取ろうとしている。反政府なんてもんを抱えてる組織はまず、何かしらのそれを持っている。そして僕の立ち位置では彼女にソレが渡るのは実に喜ばしくない。その点では一致している僕とチーターがほぼ同時に口を開こうとしたその瞬間、カンナが機先を制して画面前に立った。
「迫川も朝比奈も高梁も。」
「全然だめだ。それは、『クラスタ流』じゃないだろう。アンタたちは一体私と居て何を学んだ。私は細工を勧めても小細工は勧めていない。コントルを教えても、壁に馬を乗りかけるようなやり方は教えていない!何故一を得られる機会に二も奪おうとするのだ。交渉をするときに等価以上の物の求めるな!」
「迫川、お前は私を見限ったのかもしれない。でも、私はお前を見限ってなどいない!敗北を悟り、交渉に応じる気概があるのならば、降伏すればよい!私を頼れ!」
堂々の全国区の一大組織『一郡』の本部長様の降伏勧告だった。奇も衒いもない清々しいまでの降伏勧告。驚くほどの器のデカさだった。(まぁ、『才能はあるが過度に危険思考である』はぐりんや、『情報を集めることに終始して意思決定を行わない』チーターよりは、僕に近い終わらせ方だ。)やはり多少へこたれていても物が違う。この流れに乗ることにしよう。
「今、反政府組織と手を切ればそれ以外の礼文島運動隊メンバーの保護を約束できるよ。クラスタだけじゃ手が回らない政府筋にも僕は少ないながらコンタクトが取れる。トップダウンに攻撃を止められる…カンナにも自分を頼れって言うくらいだ、筋があるんだろう?手分けすれば意外とさくっと降伏は認められると思うよ。君にも更生の機会位与えられるようにお願いしてみるさ。」
僕の秘密を知らないカンナ、高梁、迫川が驚いた顔でこちらを見、薄々感づいているであろうチーターは無表情でこの後の後片付けの算段を練り、僕の秘密を知っているはぐりんだけが不満気だ。
「こらリコリス!せっかく人が上手く話を作っている時になんでカンナちゃんと一緒になって邪魔するのさ!」
「失敬な。はぐりんを悪の道に進ませないために全力を尽くすのが僕の仕事だからね。」
そんな仕事があるもんか!そもそも私が正義の味方だ!と憤慨しているはぐりんを視界から外すと、画面内で肩を項垂れている敵の首魁の哀れな姿が見えた。彼の口は微かにこう動いていた。
『降伏します』
と。ここにカンナの官邸襲撃事件に幕を発した一連の問題が一応の解決を見たのだった。
ようやく事件は終結に向かいました。次回で現実世界での問題にケリをつけ、再びゲームに戻ります(の予定です。




