閑話(7)緊急事態終結宣言(中)
「…よし、とりあえず現状把握はここまででいいかな?他の支部とゴールド同盟は、まぁ後回しにするとして、北海道だよね。ドウセンは協力できそうかな、チーター。」
「俺としては何とも言えない。高梁と俺は横の繋がりが無かったからな。カンナさんはどうだ?」
「私個人としては高梁は攻め筋の素直で愚直なまでに実直な男だと認識している。」
「じゃーカンナちゃんの人の見る目がないってことだよねー。実直な人間は反乱なんて起こさないっ。」
「くっ…一々突っかかって来るなハグリンちゃんは。」
「はぐりんはそういう生き物だから。ほっといていいよ。取り敢えず電話でも何でもいいから高梁さんに連絡取りたいね。出来ないの?」
「出来るぞ。ソレには一応全支部の全幹部とのパイプがある。」
じゃー繋げてみよう。ぽちっとな。
「遅い!!!」
いきなり怒鳴られた。
「本部からの連絡を待っていればこのざまだ。今北海道がどういう状況か分かっているのか?それとも、もう北海道は日本の一部じゃないとでもいうつもりなのか!」
その体格は熊のごとく、確かにカンナの言うとおりに剛直そうな男が画面の前に座っていた。
「いいか、北海道は今レイヴンの奴らにかき乱されてる。ススキノ、サッポロ、アサヒカワ。いたるところで武装勢力と警察がにらめっこだ。そしてその武装勢力が何と名乗っているか分かるか?一郡だぞ!俺たちまで一緒にされては敵わない。俺たちは一郡を抜けさせていただく。これは本部の怠慢が原因だぞ!」
「はい、ストップ。高梁さんでよかったかな?僕の名前はリコリス。まぁもちろん偽名だけどそう呼んでください。」
「馬鹿な。こんな訳の分からん奴に直通回線を乗っ取られるほどに本部は壊滅しているのか!」
「まて、高梁。私だ、江戸沢カンナだ。状況を説明してくれないか?」
「本部長がいるなら本部長が先に出るべきであろう。場を弁えろリコリスとやら。お久しぶりでございます本部長。事情を説明と言っても大した話はできません。先ほど言ったことが現在の北海道の全てです。
一郡VS礼文島運動隊VS地元警察の図です。それ以外の穏健派をまとめ上げ、自分が道央独立戦線を立ち上げました。ドウセンはクラスタに敵対することはないが、こうなった以上はクラスタに戻ることはできない。」
「話の最中にすまない。高梁さん。俺は朝比奈恵という。本部付きで全国との連絡役をしていた者だ。」
「おぉ、情報統制者か。お前なら北海道の詳しい情報もあるだろう。寄越せ、全部出せ。」
「馬鹿なことを言うなよ高梁さん。あんたはもうクラスタを抜けたんだろ。一方的に情報を渡すなんてできるはずがない。ただ、協力は出来るはずだ。北海道の治安維持に協力体制が取れるならこっちの持ってる情報をぶっこぬいて差し出しても構わない。ですよねカンナさん。」
「もちろん。協力できるに越したことはない。よかった。高梁。君が敵対したのではなくて。」
「…おう。まぁ協力するに吝かではないが。どうした本部長あなたはもう少しクラスタに執着心を持ってくれていたと思っていたが。」
「それはそうだ。でも今回の事は私の怠慢だと攻められても仕方がない話だ。君が穏当に組織を引き継いでくれるなら私は仕方がないと思っている。もちろん、出来るのなら協調して交流も持ちたいと思うが、それは先の話だろう。今はレイヴンとやらが先だ。」
「そうですね。そうなると良い…さてレイヴンですがあれは元々クラスタ内部の過激派の群れのようなものです。私たちは一郡ではあったが一枚岩ではなかった。本部長が思われていたほどに私たちは纏まり切れてはいなかったのです。もう警察にも一般人にも手を出し始めている。あいつらのためと、元クラスタのためと思うのなら穏当に済ますのではなく一瞬でも早い壊滅を持って動くべきでしょう。出来れば警察などとも連携を取って。」
「警察と連携か…考えてなかったけどそれもいいかもね。カンナ、どうだい。」
「いやだからキサマはなんなのださっきから。リコリスと言ったか?自分はお前をクラスタ内で見たことがないぞ。」
「そりゃそうさ高梁さん。僕はゲストだ。今回の騒動を収めるためだけに来た男だよ。別に高梁さんがどうしても俺を抜きたいって言うなら僕は出ていくけど、その分の交渉役は高梁さん、アンタがしてくれるんだよね。」
「本部長、こいつは信用できるのですか?」
「多分ね。今のところ何の利益もなくタダ働きしに来てるから…まぁ信用できなくても働くし、少なくても私たちよりは頭いいから。多分。」
「多分の多い会話ですな。まぁいいでしょう。了解しました。で、警察との連携ですが…。」
「それは出来ないと思ったもらった方がいいな。実は昨晩公安がうちに来てね。黙らせる代わりにこちらが面倒をすべて引き受ける手はずになってる。そうしないと幹部全部持っていかれそうだったからね…。」
「うむ。公安にまで顔が効くのですか。流石は本部長殿。…少し弱りましたな。では武力鎮圧も警察の介入を招きかねませんね。なにか事態の打開が出来る方法が…。」
「よし、はぐりん投入。」
「待ちわびたよー。待ちすぎて寝ちゃうとこだったよー。よし、まずはたかはしさん。こんにちは私ははぐりんだよ。まぁもちろん偽名だけどリコリス同様に気にしないでね!こっからは私がぐちゃぐちゃに事態を掻き乱すけど準備はいいかなっ?」
「は?いやまて、沈静化が目的ではなかったのか?」
「静かにするにはまずは騒がないとダメでしょー。たかはしさんは自分の及ぶ範囲でいいから、ドウセンを家にでも引きこもらせといてクダサイ。邪魔したらいやーですよー。カンナちゃんはクラスタに通告。北海道内の全クラスタに数人規模で小隊を組ませて。組ませたうえで小隊単位で集まらせて。そのうえで何もさせないで。威嚇もくてきだからね。」
「チーターは情報を漏らさせて欲しいなー。そうだね。『明後日の朝』警察と自衛隊を牽引してクラスタが攻め込んでくるってさ。OK?目的?そんなの動揺を誘うに決まってるじゃん。これで組織が分裂してくれたら一番楽なんだけどなー。同士討ちが一番最高だよね。あとはリコリスにタッチ☆」
「引き継いだ。今日はそれだけしたら解散。明日の朝一でレイヴンの迫川に連絡を取ろうかな。投降を促してみようぜ。」
「…本部長、大丈夫なのかコイツら。」
「多分としか言いようがない。だが任せると決めたからにはやるしかないだろう。朝7時に集合で。」
「朝比奈、了解した。」
「高梁…了解はしたが効果がなければこちらは独自で動くぞ。」
「お好きにどーぞ!私に敵対しないようにだけは気をつけてね☆」
「では、一時解散で。お互いにやることだけやって後は神様の賽子に任せよう。」
不安と内部のしこりを残したまま2日目の夕方の早くに解散が宣言された。
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