閑話(5)出揃う役者
閑話の概念を超えるもはや番外編!
「取り敢えず一部屋借りてもいいかい?そんなに大量の機材じゃないんだけど恵君たちとリアルタイムで連絡取れた方が楽なんだよね。僕らがそんなに高くない知能を突き合わせるよりも出来る奴にやらせればいいのさ。ここは現実で手駒はゲームとは比べ物にならないんだからさ。」
「いいけど…何を持ってきたんだい?ここは普通の家だからタワーパソコンとか何台も置かれると多分ブレイカー落ちそうだけどね。」
「僕が恵君を頼るのには訳がある…必要のない事はさせない男だよ彼は。さぁ起動してみよう。」
じゃあこちらに。2階の一番手前の部屋に案内しよう。そういって階段を上るカンナの後ろを歩きながら僕は意外と重い鞄に辟易していた。まぁ恵君は無駄なことはさせない男だ…信じていいんだよなチーター!
「そういえばさ。」
僕は口をはさむ。
「カンナ。君のしたいことを聞いたよ。随分と面白い事をしようとしていたみたいじゃないか。」
「私はしようとしていたんじゃなくて、していた。んだし、個人的にはそんなに面白い事じゃないよ。自己修練の一環だよ。まぁ失敗したんだけど。」
誰も私にはなれないし、私になろうともしなかった。あくまで『自分』を極めるために私を利用したのさ。少し寂しげにそういった。彼女のやろうとしていたことは聞いたがそれが賢い事だとは思わない。でも気持ちはわかる。こんな終わり方を希望していなかったことも。だから、有終の美を飾るためにここに来た。終わりあれば始まりがある。始まりをするためなら終わりを始めなくてはならない。
「さぁついたよ。ここが私の部屋だ。」
少しはにかみながら部屋の扉を開けた。そこには自己修練に明け暮れた武人の部屋が広がって…いなかった。
「な、なんだこれは。」
さすがに絶句する。カジュアルでありながらロリータ。キラキラした物と可愛い物をお互いが邪魔にならない程度に絶妙に配置されたコーディネーション。これは…(少女趣味だ)言ったらやられる。
「なんだ。やっぱり変かな…アンタは私を暴力装置だの獣だのと呼んでたし、私の趣味がロリだなんて言ったら一笑に付すのかな。いや、大丈夫慣れてるから。上がってきて申し訳ないが下のリビングでやろうか。」
扉を閉めて、きびすを返そうとする少女を押しとどめる。
「いや、なんでだよ。カンナはこれを見て恥ずかしいと思うのか?僕はきれいだと思うけどね。可愛いじゃん。何を恥ずかしがる必要があるのさ。笑いたい奴には笑わせてやればいい。僕は少なくても笑わない。笑わせてもやらねー!」
そういって僕はその部屋に一歩踏み出す。そういえばカンナはちょくちょく可愛いものが好きだって言ってた気がするな。ロッサ君かわいいもんね。もふもふだし。
「じゃあちょっと部屋の中心部を開けてもらってもいいかな?机も要らないんだけど。」
「う、うん。あ…あの。本当にここでやるの?いや、どけるよ?物はどけるけどね?」
きょどきょどしている女子高生をにやにやと見ながら、こちらも準備をする。アタッシュケースを開くと…うわ、ケースがモニョモニョ動いて机付きのモニターみたいになった。あまりの事に呆然としてしまう。攻殻機動隊…?かっこいいけど目の前で変形したのにカッコイイを通り越して気持ち悪い…。チーターの趣味なのかな。あいつにこんな趣味があったとは…。いやどこの技術だ。技術レベルが現代日本を軽く凌駕している。
「あ、えっと…その。おわったよ。入ってもいい。」
テレテレモードのカンナハ目の前で起きた異常事態には気づかなかったようだ。いいんだ。こんな異常事態を知ってるのは僕だけでいい。どきどきする動悸と動揺を胸に、机を抱えて部屋に侵入りこむ。中央に机を置いて起動する。窓でも林檎でもない謎の起動画面を経ていくつかのコマンド画面が出力される。カンナと僕は並んで呆然と眺める。
「えっと…、リコリス。これは?」
「いや、僕もチーターに渡されたものだから。あ、そういえば面識があったように聞いてるんだけど。チーターって知ってる?」
「いや、動物のチーターは知ってるけど君の友達のチーター君は知らない。」
「本名って言っていいのかな。朝比奈恵っていうんだけど。」
「朝比奈…いやその名前は知ってるな。確か情報統制者だ。私のクラスタは縦横なく張り巡らされたキューブみたいなもんなんだけど。そういうものを目指したんだけど。どうやっても収まらない規格外がいてね。私が求めていたのは正にそういう人材を探していたんだけど。特別な規格外っていっても朝比奈君はちょっと私とはベクトルが違う規格外でね。仕方ないから私と同列の権利を与えて指導者役を任せたんだ。情報部門の師範代ってとこかな。今回の件でも世話になったな。この後組織改編でも迷惑をかけるけど出来れば残ってほしいんだよね。ほら。」
私に匹敵する可能性があるんならどんな奴でもいいんだけど。私は本気で戦える敵が欲しいんだ。
あー。あぶねー。部屋とか時々見せるかわいらしい仕草に騙されそうになるけども、こいつはそういうやつだった。重々気を付けなければ。頬が引きつりつつ画面を見ていると画面上に変化があった。外からの干渉を示すアイコンといくつかのデータ転送。そして画面に映るテレビ電話の『YESorNO』の文字。迷わず開くと気難しそうな顔が一面に出る。
「こんにちは、お久しぶりです我がクラスタの族長。この朝比奈。再びお会いできる日を一日千秋の思いで待ち焦がれておりました。」
こうしてクラスタ内の、そして僕の最近あまり機能していないギルドのメンバー共による閑話を終わらせるための悪巧みが始まるのだった。
話は進めど校正は進まず!




