宴会(1)
宴会が始まってしまえば早いものだった。コボルトの村人たちには何の警戒心もなく情報はじゃぶじゃぶだった。
「いやね、ロッサ君はかわいそうよねぇ。お父さんは全財産を持って失踪でしょ?お母さんも病気になっちゃって一人でお母さんと自分の分の食い扶持を稼がなきゃいけなくなっちゃって…。」
「ロッサ君のお母さんの病気?結構酷いらしいが、うちの村にはヒーラーは数人いるが医者は居ないからな。詳しい所は分からんがあの様子じゃ、そう長くはなさそうだ。」
「あら、私もそんなに詳しくはないわ。小さな村だから色々話は聞くけどね。村の周囲にある薬草じゃ効果がなかったみたいねぇ。いくら同じ村の事でも人に頼めばお金がかかるものね。」
情報ダダ漏れすぎるだろロッサ君ん家。村社会って怖いなぁ。
「やぁ、飲んどるかねリコリス君。」
赤ら顔のコボルトが話しかけてくる。前村長のワンダントさんだな。コボルトは見た目で判別がつかなくて困る。小物などのワンポイントか、リーダーへの進化なんて特徴があれば話は別なんだけど。
「えぇワンダントさん。まぁ僕はお酒じゃなくてジュースですけど。」
オレンジジュースっぽいなにかを掲げる。オレンの実というらしい。結構濃くて美味い。
「そうか。その調子ならずいぶん戦果があったようだ。」
「そうでもないですよ。状況の把握ができただけです。分析も解析も対策も決まってませんから。」
ちょっと気取ってみるが事実確認しただけで気が重くなってきた。
「ロッサ君の母親の病気が痛いですね。原因だけでも分かれば…。」
「ヒールで症状は安静に出来るから今のところは悪化してはおらんがの。村人一人にリソースを割き続けるわけにはいかん。などとは口が裂けても言えんがな。孫のキッスがヒーラーになったのもロッサの母親のためだ。」
べた惚れじゃの~。と爺さんはニヤニヤしている。なんだ、あいつら出来てんのか。ムカつくな。
「なんでアンタがムッとしてんのよ。」
と、カンナがジュース片手に現れる。
「いいんだよ。リア充末永く爆発しろ。だ。」
「で、そっちなんか分かった?」
会場では別々に聞き込みをしていたのだ。何か少しでもヒントがあれば。とは思うが。
「全くだ。現代医学とかの知識でパパッと分からないものかな。」
「そんなこと言ったら『ココ』自体が現代科学の粋を極めた空間なんだけどね。何しろ最新のVRMMOだ。」
二人でため息をつく。こればっかりは僕の魔法もカンナの力技も役には立ちそうにない。
暗礁に乗り上げたまま宴会はたけなわに向かう。これは良くない。何とかしなくては。
 




