雪解けは遠く、近く。
常に雪の降り積もる山の裾野にも人々は生活しています。
共存と言うには遙かに、圧倒的に人間には厳しい環境ですが。
雪山はその懐が広く深く、立ち入るにはあまりに容易く、這い出るにはあまりに難い。と昔から言い伝えられてきた。
そうでなくても雪山には求めるような食べ物はなく、恵みが少なくうま味のないこの山は誰が放っておいても立ち入るものは少なかった。
それでも子供たちが興味を持って探検でも始めれば貴重な命が失われるのを止めることはできない。
ただでさえ、村には子供が少なくどの子供も娯楽に飢えているのだ。ここ、雪山と村の境目には見張りの青年が立つことになっていた。
皆が退屈で嫌がるが、誰かがやらなくてはならないこの仕事はこの村に住む成年男子の持ち回りになっていた。
何もなければ8時間ほど立ちっぱで辺りをきょろきょろとしていればいいだけの仕事のはずだった。だが、彼は見つけてしまったのだ。その見張り役の人間が立って周りを見渡すための小高い丘、そこを綺麗に死角を通るそのルートを開拓する様に、新しい足跡がいくつか村から山に向かって伸びていたのだ。多少ふらふらと捻じれながら進んでいるのは道中で何か興味を引くものを見つけたか、それとも友達同士でふざけながら登って行ったか。
彼のせい、とは言われないであろう。それでも持ち回りの人間のせめてもの義務として彼は走って村へと捜索隊を組みに行った。
村の名前はグラシアス。常冬の雪山の麓にある小さなどこにでもある村である。
グラシアス、つまり?




